神の溝
紫耀
【1】
誰が決めたのかは知らないが「日本三大祭り」なるものが存在するらしい。
東京の「神田祭」、京都の「祇園祭」、そして大阪の「天神祭」だ。
この3つを日本三大祭りと言うそうなのだが、他にも浅草の三社祭や、
青森のねぶた祭り等、日本の全国各地にそれぞれ有名な祭りがある。
日本は昔から、「八百万の神」というくらい、数多くの神様がいるらしい。
だから神社の数も種類も多いし、それらを奉納する祭りもバリエーションに富んでいるという訳のようだ。
おまけに海外からキリスト教やら仏教やらが入ってきて、神様の数が増えた分、さらに祭りの数も増えている。クリスマスやハロウィンがその顕著な例だ。
最近では神様も仏様も関係なしの「雪祭り」やら「チューリップ祭り」なるものも出来て、神社や寺は関係ない祭りが増えてきた。
こうしてみると、世界から「真面目」、「勤勉」と言われている日本人だが、実は祭り好き、イベント好きの「パリピ」な国民性なのかもしれない。
しかし、これだけ数多くの祭りが乱発されていれば、当然、流行り廃りが出て来るのは当然のことだ。長年続いてきた、伝統ある祭りがいつのまにか消えてしまうことも珍しくない。
かと思えば、長年忘れられていた祭りが急に復活することもある。
俺の住む、「小牧市」の「朝耀山神社」の秋祭りも、かつては10台もの神輿が出て、市内を練り歩く等、中々の規模感の祭りだったそうなのだが、近年は担ぎ手が集まらず、神輿は全滅。随分とこじんまりとした内容で、なんとか細々と続けているという有り様だ。
「昔は子ども神輿も出てたし、大人の神輿なんてそりゃもう、
随分気合い入ってやってたんだけどなぁ。
縁日だって、今より出店の数も多くて豪華だったし」
小牧で生まれ育ち、今は市役所で働く俺の父親が昔を振り返りながら言う。
「ふうん、まあ昔から見たら子どもの数も減ったし、
商店街のお店も余裕無いから、出店どころじゃないんでしょ」
小牧出身じゃない母親が、そう返す。
何故、今夜溝口家の食卓でこんな会話がされているかというと、
父親は市の仕事として、今年の「朝耀山神社祭り」の運営委員会に入ることになったらしい。
今年の委員会は結構気合いが入ってるメンバーが揃っているそうで、ここのところ、すっかりさびれてしまった秋祭りを、もう一度賑やかに盛り上げたいと意気込んでいるそうだ。
先程、昔の華やかだった頃の祭りをあんなにも懐かしがっていた父親もどうやら
「祭り推進派」のようだ。
「純平、祭り行くなら、縁日の引換券貰えるから父さんに言えよ」
夕食を食べ終えた俺は、父親の言葉に、
「うん」
とだけ返し、そそくさと自分の部屋へと戻った。
__秋祭りか__。
去年、俺は秋祭りに行かなかった。
中学一年だった当時の俺は祭りに行く余裕等無かった。
放課後、暇を持て余している今なら行くことも全然可能だが、地元のショボい祭りに心躍らせる程、俺はガキじゃないと自分では思っている。
__まぁ、リア充、DQN共は行くんだろうな__。
ショボいとは言え、小牧で行われる数少ないイベントだ。
ここぞとばかりにはしゃぎ出す連中も少なからずいる。
そういったグループに属していない俺は、仲間で連れ立って縁日でギャーギャー盛り上がることもなければ、浴衣姿の女の子とデートすることも九分九厘無いだろう。
だから地元の小さな祭りがかつての賑わいを取り戻そうと、このままどんどんさびれていこうとどっちでももいいと、この時は思っていたのだった__。
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます