つくねがきつねになる

福守りん

つくねがきつねになる

 つくねがやってきた。

「ぼく、へんしんできるよ」

 じまんげにいった。

 みんなが、えーっておどろいた。

「うっそだあ」

「うそじゃないよ。ほらっ」

 つくねが、きつねになった。

「ほんとだ。へんしんしたね」

「もとにもどれる?」

「もどれるよ!」

 きつねが、つくねになった。

 じまんげなかおをしていた。

「ほかには?」

「ほかには、ねえ……」

 つくねが、つくしになった。

 みんな、がっかりした。

「つくしになっちゃったら、たべられないね」

「そうだね」

「きつねのほうが、よかったね。かわいいし」

 もとはつくねだったつくしが、おこりだした。

「なんだい。かってなことばっかりいって」

「つくねは、やきとりでしょ。

 あたしたち、つくねをたべたいの。

 もういっかい、つくねにもどってよ」

 つくねだったつくしは、「ええ……」とかなしそうなこえをあげた。

「たべられたくないよ」

 みんなも、かなしくなってきた。

「でも、もうおやつのじかんよ。

 おなかがへったなー」

「とりをやいたら、やきとり。

 なすをやいたら、やきなすだ。

 れいぞうこのやさいしつに、なすがあるんだよ。ぼく、しってるんだ」

「ほんと?」

「ほんと、ほんと」

 みんなで、れいぞうこをあけて、なすをさがした。

「あった」

「よかったね」


 みんなで、なすをやいて、たべることにした。

 ひとりがひとつずつたべても、まだ、なすがのこっていた。

「つくねも、やきなすをたべる?」

「たべないよ」

 つくねだったつくしは、もう、つくねにもどっていた。

「さっきは、たべられたくないっていったけど。

 ぼくは、きょうのゆうごはんのおかずなんだ。

 おいしくたべてね!」

「うん……」

 つくねが、ぴょんととんで、てーぶるのうえのおさらにねころんだ。

「かわいそう」

「あたしは、つくねすき。おいしそう」

「でもさ、きつねになったつくねだよ。

 つくしにもなった。ほんとに、おいしいのかな?」

「たべてみようか」

「たべちゃおう」


 むしゃ、むしゃ……。

 すっごく、おいしかったんだって。


* * *


「シュールすぎる」

 僕が書いた童話は、亜姫あきには不評だった。

「最後に、テーブルまで飛ぶけど。これって、つくねは、それまで、床の上にいたってこと?」

「そういうことになるのかな」

郁郎いくろうには、お話を書く才能がないよ」

「ないとは、言いきれないよ。誰にでも、のびしろってものが」

「ないって」

「そうかな……」

「あたし、つくねが食べたくなった。責任とって」

「いいよ。買いに行こう」

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