ひだまつる

棚霧書生

ひだまつる

 僕の大切な青春の一ページは一行目が書き込まれた途端に白紙に戻されてしまった。

「ハァ……」

「元気出してよ、金原。ハルカちゃんだって、行きたくなくて断ったわけじゃないんだから」

「まさか、今の時代に栄養失調で倒れたなんて予想外すぎるよ……」

「アッハッハ! ハルカちゃん、ちょっと抜けてるとこあるからなぁ! どうせまた制作に集中しすぎて食べるの忘れてたんでしょ」

 豊田がハルカちゃんのことをわかったように言う。僕にはそれがあまり面白くなかった。

「妖怪がテーマの企画に出展するんだって楽しそうに言ってたよ……」

 僕は自分の声が小さくなっていくのをまざまざと感じた。豊田は高校からの男友達。本来の予定なら今日、僕の隣には豊田ではなく、かわいいハルカちゃんがいるはずだった。

「てかさ、金原も大人しそうな顔してやることやってんのな。こーんな山奥にある旅館に女の子と二人で来ようなんて、この〜色男〜! 俺にもモテテク教えてクレメンス!」

 豊田が山道を登った先にある旅館を見て、僕のことを肘で小突いてくる。正直なところ、うっとうしいことこの上ない。運転の疲れも相まって僕は深いため息をつく。

 東京からここまでは車で約ニ時間とそれなりのアクセスの良さだった。前情報で旅館に続く山道は、車の通れる道ではないらしいと聞いていたので、僕と豊田は駐車場にレンタカーを停めて、デコボコとした小道を進んでいる。道の横はなかなかに急な斜面で木が生い茂っていた。夜に通ったら獣だけじゃなくて、オバケ的なものも出そうな感じ。ネットでも座敷童子が出そうな雰囲気と評判の旅館は僕がハルカちゃんの好みを考慮して選んだ。それなのに……、ハルカちゃんは体調不良で旅行の予定をドタキャン。代わりに暇そうな豊田を誘ったのたが、

「金原ぁ、ハルカちゃんに電話かけようよ~。目的地ついたよって。あっ、写真撮ろう、ラブラブツーショット! 俺、ハルカちゃん役やる〜」

 先ほどからうざ絡みが大変面倒くさい。

「ねぇ、お兄さ〜ん。無視しないでよ。ハルカちゃんとしっぽりしたかったのはわかったからさぁ」

「そんなんじゃないから! 僕は純粋にハルカちゃんに楽しんでもらいたかっただけだから!!」

「じゅ、純粋にってお前……ぷっふふ、大学生にもなって無理ありすぎっ! アハハハッハハッ!! ちょ、待って、死ぬ、笑い死ぬぅ……!」

 僕は豊田の笑い声にだんだん腹が立ってきて、歩くスピードを速めていく。後ろから豊田が僕を呼んでいるが、絶対に振り向いてやらない。

「待てって、金原! 旅館そっちじゃないぞ!」

「は? 旅館までは一本道だ。そんなわけ……」

 僕はまた豊田がふざけているのだと思った。

「あれ?」

 しかし、先ほどまでは確かに外観が見えていたはずの旅館がなくなっていた。建物がなくなるわけはないから、木の陰に隠れてしまったのだろうか。

 ざわざわざわ……、木の葉が擦れる音。太陽が雲に隠されて、辺りがほんのり暗くなっていく。日光が遮られたからか、なんだか寒い。豊田が手を振りながら僕の方に向かって走ってきている。このときの僕はなにかを感じ取っていたのか、感覚がやけに鋭くなっていた。すべてのものがいつもより、とてもゆっくりとしている。

 オオォオン……、どこからか人間のうめき声のようなものが聞こえた。

「うわっ!?」

 突然、異様な突風が吹き、豊田がたたらを踏む。豊田は僕にぶつかる。僕は豊田を支えきることはできなくて。倒れた先に道はない。

 結果、僕らは勢いよく山の斜面を転がった。


 ジュウ……、トントントン、グツグツグツグツ……

 誰かが料理をしている音が耳に入ってくる。鼻腔をくすぐるのは食べ物の匂い。僕は実家に帰ってきていたんだっけ?

「痛っ……、は? どこだよ、ここ……?」

 体を起こすときにじんわりとした痛みを感じる。その痛みでようやく、僕は豊田と一緒に斜面を転がり落ちたことを思い出してきた。

「そうだ……豊田。豊田っ近くにいるか!」

 僕が寝ていたのは旅館にあるような広い宴会場のような場所で、床は板張り、周囲のあちこちに階段があるのが見えているが暗すぎて詳細はわからない。とにかく建築物としては無茶苦茶な造りをしていることだけは素人目にも確かだった。

「ぅう……金原……?」

 僕は豊田の寝起きのような声を聞きとめた。僕が声の方に近づくと、そこにはボヤーッとしている豊田がいた。

「いつもの低血圧?」

「うん……」

 豊田は寝起きが悪い。さっきまでのハイテンションうざ絡みが嘘のようだ。寝起きの豊田は本調子になるまで、放って置くしかない。

 その間、僕は時間を無駄にしないために、スマホで現在地を調べようとした。

「山のど真ん中じゃん……。これ合ってるのかな?」

 グーグルマップが表示している僕らの現在地はなにもない山の中ということになっている。田舎だから基地局がなくて、正確な結果が返ってきていないのかもしれない。

「豊田、そろそろ大丈夫そう? 僕たちの現在地、調べてもわかんなかったから、とりあえず人がいないか探そうと思うんだけど。どこからか料理してる音もしてるしさ」

 僕が提案を出した直後、パンッと小気味よい音とともにある一点が強く照らし出された。

「やあやあ、新人料理人の諸君! 私たちは君たちを歓迎する!!」

 僕らの今いる位置が一階だとすれば、その男が立っているのは三階ぐらいの高さだろう。オペラの観客席みたいに少し飛び出していて、そこにはスタンドマイクが立てられている。男はシャンソン歌手みたいにマイクに手を添えて、淀みなく喋り始める。

「私は飛騨ひだ! 飛騨真鶴ひだまつる! この名前は君たちにとってとても重要なことだから、よく覚えておきなさい。そして、ヒントもあげましょう。“松竹梅ショウチクバイショウを抜くと真実が見える”。ああ、最初に教えてあげる私ってなんて慈悲深いのでしょう! さて、新しくここにきた子たちのために、いつものごとく、ここでの決まりをお話しますよ」

 謎の男、もとい飛騨の喋り声はとても楽しそうだ。飛騨はスラリとした体型で灰色の着物を身につけている。顔全体を覆う真っ黒な仮面さえつけていなければ、僕ら以外の人間の登場に少しは安心できていたのかもしれない。

「君たちの使命は私たちを楽しませる料理をつくること、ただ一つ! では今日も楽しくっ、れっつくっきーんぐ!」

 頭の回りきっていない豊田はこの意味のわからない展開を真っ正直に受けとめ、つぶやくように疑問を口にした。

「俺、料理は全然つくれないけど、そういうのはどうすんだろ……」

 飛騨が豊田を見下ろした。嫌な雰囲気。僕は首の後ろがジリジリするのを感じる。

「ふふっふふふふふ! 正直な申告ありがとうございます! そうですね、ここには料理をつくらない子は……要らないです!」

 飛騨が言い終わると同時に豊田の目の前に、ドンッ! と人が降ってきた。それは小さな女の子だった。きれいな振り袖でおかっぱ頭。クリクリとした赤茶色の目が可愛らしい。

 彼女はびっくりしている僕と豊田を交互に見た。

「おりょうりできないのは、どっち?」

 彼女がコテンと首を傾げる姿に思わず、僕は頬をゆるませる。豊田も毒気が抜けたように、俺俺と自分自身のことを指差す。

「そう。わかった」

 彼女は小さい手で豊田の腕を掴んで、引っ張った。

「は!? え、痛いっ痛い痛いっ痛いって!」

 少女は男である豊田の抵抗を物ともせず、無理矢理にどこかへと引きずっていく。僕はといえば、見たこともない光景に焦り、とっさに動くことができなかった。

 ひとつのふすまの前で少女の歩みが止まる。豊田は暴れているが、少女の力の方が強いらしく振り解くことが未だにできていない。

 少女はふすまを開いて「キガさん……あとはよろしくおねがいします」と言うと、豊田を部屋の中に放り込む。そして即座にふすまを閉めた。

「うわああああ!? なんだお前!? こっち、来るなっ、ギャッ!」

 メキッゴキンッ……バキバキ……

 ふすまの奥から嫌な音がしている。まるで人間がぐちゃぐちゃに壊されているような。

「……あ、え……と、とよだ……?」

 耳に飛び込んでくる悲鳴と損壊音に現実感がない。僕はただ立ち尽くしていた。だけど、だんだんと小さく弱々しくなっていく豊田の声に、恐怖の輪郭がはっきりとしてくる。

「あ、ああ……、ごめん、ごめん豊田!」

 僕は豊田が投げ込まれたふすまの部屋とは反対方向に走り出していた。

「最低だ。こんなのって!」

 僕は走った。恥ずかしいくらいに走った。怖かったから。豊田のことはいい友達だと思っていたはずなのに、助ける選択肢は真っ先に切り落とした。

「クソッ、どうすればいいんだよ……」

 頭の中で豊田の叫び声が耳鳴りみたいにわんわん鳴っている。僕を責め立てるみたいに。

「あーっ、うるさいっうるさいっ! 仕方ないだろ!!」

 怖くて怖くて、涙が出てくる。誰も僕を追いかけてきてはいない。だけど、これから僕はどうなる? 豊田はどうなった?

 トゥルルルルルル! トゥルルルルルル!

「ひっ……。で、電話か」

 スマホから間の抜けた着信音が流れている。スマホの画面にはハルカちゃんの名前が表示されていて、僕は一も二もなく通話ボタンを押す。

「ハルカちゃんっ、たい、大変なんだ! 豊田が、しん……」

 僕は言葉を続けられなかった。言ったら、豊田の身に起こったことが本当になってしまう気がして。

『どうしたの金原くん? おっきい声出して。あっ、わかった、豊っちとの旅行が楽しすぎて興奮してる? いやぁ、私も医者からストップかけられてなきゃ行ったんたけどなー』

「来ちゃダメだ!!」

『わかってるよ。安静にしてますって。今日の金原くん、なんか変だね。豊っちとケンカでもした?』

「ケンカなんて……、してないよ……。僕が最低な奴で……どうしようもなくて…………もう豊田とは会えないんだっ……」

『金原くん、泣いてるの? 大丈夫だよ、豊っちは器が大きいから。なにがあったのかわからないけど、きっと許してくれるよ』

「もう無理だよっ……」

 僕は泣きながら、ハルカちゃんにさっき目の前で起こったことを話した。僕は弱いから、とてもひとりでは抱えていられなかった。懺悔するようにハルカちゃんに全部をぶちまける。

『辛かったね、金原くん』

 ハルカちゃんは荒唐無稽な僕の話を最後までちゃんと聞いてくれた。そして、ハルカちゃんは落ち着いた芯のある声で僕に告げる。

『金原くん、今から私の言う通りにして。そこから出る方法を私は知ってる』

「えっ、わかるの!?」

『その男の人、飛騨真鶴って名乗ったんだよね?』

「そうだよ、“松竹梅の松を抜くと真実が見える”とも言ってた」

『いま手元に食べられるものはある?』

「食べられるもの? 待って、探す」

 あいにくと僕は手ぶらの状態だった。だが、ポケットに手を入れたとき指先に硬いものが当たる。もしやと思って出してみるとそれは可愛いピンク色の包装がされた飴玉だった。

「飴玉ならあったけど、これが役に立つの?」

『完璧だよ! 金原くん、今すぐにその飴を……』

 ハルカちゃんとの会話はそこで途切れる。僕のスマホが取り上げられたからだ。

「ズルはいけません」

「飛騨真鶴……」

 僕のスマホは飛騨の手の中にあった。

「うふふっ。名前を覚えてくれて嬉しいですよ」

 飛騨は笑い、片手の握力だけで僕のスマホを握り潰してみせた。



 お好み焼きにチーズを入れる。刻んだ海苔もたっぷり。ソースで食べても美味しいけど、ここは醤油をベースにした特製のタレをかける。僕はさらに鰹節をまぶすのが好き。

「たっぷり海苔の和風お好み焼きです……」

 僕はホカホカのお好み焼きを乗せた皿をそっと畳の上に置いた。ここは竹の間と呼ばれる大部屋。飛騨に囚われた人たちが料理を作って差し入れる場所になっている。そして、僕もその囚人のひとり。畳の上にはズラッと和洋中と様々なジャンルの料理が所狭しと並んでいる。大量の料理に対して、部屋の真ん中に居座っているのは一人だけ。醜い顔で各種の料理を貪り食らっている小男は木賀という名前らしい。

 僕は飛騨にスマホを破壊され、ハルカちゃんから飴をどうしたらいいのか聞きそびれてしまったものだから、僕はまだこのおかしな空間から逃げられないままでいる。

 料理をつくっていれば、なにかされることはない。しかし、ただ料理をつくっていれば安全というわけでもない。

 木賀がその理由の一つ。

「また、オコノミヤキか?」

 木賀がお好み焼きを持ってきた僕を睨む。

「お好み焼きはいくら食べても、美味しいでしょう?」

「フン、お前のつくるのはマアマアだ。行っていいぞ」

「失礼しましたー……」

 僕の料理は木賀の査定を無事通過し、僕は竹の間から出ることを許された。だけど、僕は知っている。竹の間からたまに出てこない人がいることを。そして、豊田が投げ込まれる際にあの少女が口にした名前が、“キガさん”だったことを。

 竹の間から出て、怒りで腹がふつふつとしてくる。僕はなにかするべきなんじゃないかと竹の間を振り返る。そして、木賀がなにやらブツブツと文句を言っているのを耳にしてしまった。

「あぁ、腹が減った。腹が減ったなぁ。あいつらは料理をつくるのが遅いんだ。俺の腹が減るのはあいつらのせいだ。ああああああ、ムシャクシャしてもっと腹が空いてきた。やっぱ食うか。あいつら食うか。一番、料理が下手なやつから食ってしまおう。そうだ、それなら美味い料理が長く楽しめて俺の腹も多少は膨れる。妙案だ! ああ、いい考えを出したら、また腹が減ってきた」

 木賀が再び目の前に山とある料理を貪り食らう。弱虫な僕は料理をつくるために厨房に戻る。



 キューキューと薄切りにしたジャガイモがフライパンの上で鳴く。そろそろ、火が通っただろうか。厚めのポテトチップスもどきポテトステーキを皿に移す。この料理のポイントはチップスかステーキかわからない厚さに切ることだ。バーベキューソースとタルタルソースをつけて食べると飽きがこない。

 僕は正直なところ、料理があまり好きじゃない。大学入学を機に一人暮らしを始めたから、多少はつくれるけれど、料理にすごくこだわりがあるわけじゃないし、たくさんのレシピを覚えているわけでもない。

 You Tubeでバカみたいに酒を飲みながら料理の作り方を教えてくれる料理のお兄さんの動画を視聴していたおかげで、ここまではどうにかなっているけど、木賀のあの様子だと僕が食材になる日も近いかもしれない。

「お酒って、美味しいのかな……?」

 現実逃避をしたくて、そんなことをふと思う。僕はまだ成人していないから飲んだことがないけれど、こういうときにお酒を飲めれば多少は気が楽になったりするんだろうか。次の誕生日で二十歳だから、ちょっと楽しみだな。そういえば今日は何日になったのだろう?

 待て……、僕はどのくらいの間、ここに滞在している? 全く思い出せない。だけど、一日、二日じゃ済まないってことだけは確かだ。それなのに、僕は……

「ここに来てから食事をしてない……?」

 やつらに提供するための料理の味見は何度もしている。が、きちんとした食事は摂った記憶がない。

 食べ物。空腹。木賀。飛騨真鶴……。

 僕はマヨネーズでフライパンの上に文字を書く。

“ひだまつる”

「“松竹梅の松を抜く”」

 溶き卵を“ま”と“つ”を消すようにしてフライパンに流し込む。

“ひだる”

「ひだる……、どこかで聞いたことが」

 僕はハルカちゃんの顔を思い出した。そう、ハルカちゃんから聞いた話にそんな妖怪が出てくるのがあった。

「ひだる神……! 飛騨はひだる神だ!」

 パチパチパチパチパチパチ!

 背後から拍手の音。僕はゾッとして振り返る。

「ぶらーぼー! よく気がつきましたね」

「飛騨!?」

「もう少しここにいませんか? 人材不足で困っているんです」

「ヤダね。僕は帰るんだ。ハルカちゃんの待ってる現実に」

 僕はポケットにずっと入れたままにしていた飴玉を取り出す。

「またのお越しをお待ちしております」

「二度と来ないよ」

 僕は飴玉を口に放りこんで“食べた”。



 目が覚めるとやけに白い空間だった。またおかしな場所に来てしまったのかと僕はひやりとした。けど、その不安はすぐに打ち砕かれる。

「金原くん……? 目が覚めたんだねッ、よかったぁ!」

「ハルカちゃん?」

 僕の可愛いハルカちゃんがなぜか僕に飛びついてきてくれる。こんな幸福があっていいのだろうか。

「心配したよ〜。金原くん、山道で行方不明になって、栄養失調で倒れてたんだよ」

「ごめん……」

 僕が寝ていたのはどうやら、病院のベッドのようだ。腕には点滴が刺さっている。

「豊っちも死ぬほど心配してたから、あとで電話してあげてよ?」

「えっ豊田が!?」

「なんでそんなにびっくりしてるの? 豊っちは友達想いだし、金原くんとは仲がいいんだから心配するくらい当然でしょ」

 僕はハルカちゃんのスマホを借りて、すぐさま豊田に電話をかける。トゥルルルルルという呼び出し音をこれほど長く感じたことはない。

『は~い、どったのハルカちゃん?』

「豊田!」

『おっ! 金原ぁあ!! 起きたのか、気分はどうよ〜?』

「豊田の顔が見たいっ……うっうう……」

『ほわっつ!? なになに金原クライボーイなの!? 豊田お兄さんに会いたくて会いたくて震えちゃってる〜?』

 豊田はとても元気そうだった。これから、病院にお見舞い来てくれるらしい。僕は豊田に会ったら、絶対に謝ろうと覚悟しての通話を切った。

 ハルカちゃんからの話によると、僕は一人で旅行に出かけていたらしい。ハルカちゃんは栄養失調で倒れてないし、そもそも僕と旅行の約束も最初からしてないみたいだった。もちろん、豊田も旅行には同行していなくて、初めっから僕の一人旅。

「あれは全部、夢だったんだなぁ……」

「栄養失調で倒れて、ひだる神の夢を見るなんて金原くん、なかなか妖怪センスあるよ!」

 僕の夢の話を聞いたハルカちゃんは興奮気味に言った。僕は妖怪センスってなんだろうなと疑問に思ったけれど、ハルカちゃんがキラキラとした笑顔でいたので、そんな些末なことはどうでもいいと思えた。

 グウゥ……と僕のお腹が鳴る。

「金原くん、お腹空いてる? 塩昆布入りの卵がゆならお弁当ジャーに入れて持ってきてるけど……」

 ハルカちゃんがおずおずと提案してくる。ハルカちゃんは料理をするタイプの子じゃないから、きっと緊張してるんだろう。その頑張ってる感じがすごく可愛い。食べてしまいたい。

「食べる。たくさん、たくさん、食べたいな!」

 僕がハルカちゃんの手料理を食べる絶好の機会を逃すはずがない。

 ハルカちゃんの手づくり卵がゆは米がトロッとしていて卵は多め、塩昆布と小ネギがちらしてあって程良い塩味。五臓六腑に染み渡るとはこのことか……。

「お腹いっぱい食べてね」

「ありがとう、ハルカちゃん」

 ハルカちゃんと美味しいごはんのハッピーセットを僕は心ゆくまで堪能した。

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