シーソーゲーム!

清泪(せいな)

she so cute

「かいしょうーなしのーきみをわらぁったぁー」


 懐かしい歌が聴こえたなと思ったら酷い替え歌でついつい笑ってしまった。

 笑われたことに彼女は何故かご立腹で、不機嫌です、と言わんばかりに僕を睨みつけてくる。

 一回り下の君に睨まれたところで可愛くはあっても恐くはないよ、と言ってしまえばまたまた彼女は不機嫌さを増すだろう。

 僕は、すまない、と心にもない言葉を口にして頭を下げて乗っていた車椅子を動かした。


「ちょっと待ちなさいよ! ア、アンタも何か歌いなさいよ、替え歌!」


 無茶な振りにもほどがあることを言って、彼女は僕の車椅子を動かす手を止めた。

 替え歌なんてもう何十年考えてないだろうか?

 幼い頃は確かに考えてたかもしれないが、それがどういったものなのかも覚えていない。


 僕は首を横に振って答えた。

 彼女は眉をひそめて不機嫌ですと強調する。


「それじゃあ、今から考えなさいよ、一緒に考えてあげるから!」


 別に僕が替え歌を歌いたいわけではないのだけれど、僕の手を掴む彼女のことを考えるとまた首を横に振ることは躊躇われてた。

 僕は首を縦に振り、わかったと彼女に告げた。


 僕はそもそも歌が得意ではないのでどうにかこうにか歌うことを誤魔化していたら彼女が、もういい私が歌う、と癇癪を起こし好き勝手歌い始めた。

 知ってる曲と知らない曲がごちゃごちゃと入り交じるので、それがそもそも原曲か替え歌かの判断すら怪しくなってきた。

 だんだんと替え歌がどうとか関係無く彼女が気持ちよく歌うものだから、僕はそれが楽しくなってきた。

 そうして僕が笑うものだから、彼女はまたそれが気に入らないらしく不機嫌ですと眉をひそめた。

 僕はたまらずそれすらも笑ってしまって、とうとう彼女の歌を邪魔してしまう始末。


 流石にマズいと思った僕は今度はちゃんと一言謝ろうとしたところ、チャイムにそれを阻まれた。


 自由時間のおしまい。


 はーい、と言いながら担当介護職員が僕の車椅子の取っ手を掴んだ。

 部屋に帰る時間だ、とはーいの一言に含まれているのだろう。

 その他は何も言わずに運ばれていく。

 僕は彼女に別れの挨拶も言えずにいた。

 彼女の方を見ると、彼女の車椅子も担当介護職員に運ばれていく。

 椅子に項垂れる様に座り僕に対してそっぽを向いていた。


「ゆうがたはきょうみたいにーうたいたいなーうー」


 彼女の歌が聞こえて僕はまた笑ってしまった。


「何それおばあちゃん、何の歌?」


 彼女の担当介護職員が問いかけるも彼女の答えは聞こえなかった。


 無理矢理な替え歌だな、と僕は笑いが止まらなかった。


「あら、おじいちゃん、楽しそうね?」


 僕の担当介護職員がそう問うので、まあね、と出ない声でそう答えた。



 

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