ランチモーニング

小早敷 彰良

ランチモーニング

目を覚ましたとき、そこは十二日ぶりの休日だった。

まだ、ぎりぎりで午前中だ。この時間、隣で眠る男は起きることはない。隣に眠る男も、濃い隈が目の下に浮かんでいる。私だけでなく、彼まで忙しくするとは。ファッキン労働。

私は、のそりと体を起こす。

お腹が、減った。

毎日早朝から深夜まで働いている私たちにとって、冷蔵庫は飲み物を冷やすためだけの場所だ。あとは、食べ残しを入れておいて、カチカチにする役割を果たすこともある。

宅配アプリを立ち上げて、すぐに閉じる。都心に住居を構えているはずなのに、配達パートナーがいないため利用できないと、そこには書かれていた。

我慢してもいい。ファスティングという、プチ断食が周囲では流行っている。いや、何か食べたいな。私一人ならまだしも、彼もいることだし。

冷蔵庫の周辺の、食料ラックを漁る。

主食を探すと、パンはかびて、パスタは残っていなかった。パスタソースだけ余っている。生米だけはある。確実に今日で食べきる量だ。カップ麺なんて便利なものは、とうに食べ尽くしている。

野菜や果物は冷凍も缶もない。スパム缶はある。コーヒーすら切れているのに、コーヒーフレッシュだけあった。調味料は塩と胡椒、レモン果汁の瓶はある。他はスパイスのみ残っている。砂糖すらない。現状は非常にしょっぱい。

ヨーグルト味のプロテインは食品か飲料か、調味料か不明だが、ともかくこれで、我が家にある食べ物はすべてだった。

絶望的な食糧事情だ。私は大きくあくびをする。

外出する気力はないが、快晴の太陽光は浴びたい。私はカーテンを全開にした。もぞりと身じろぎした彼は、まだ起きない。

さあ、料理開始だ。

タッパに米と水を、一対二の割合でいれる。電子レンジで十五分温めて炊いておきながら、スパム缶と調味料をざっくり混ぜておく。

彼がゆるゆる起き上がろうとして、失敗しているのを見ながら、プロテインとレモン果汁、コーヒーフレッシュを混ぜて、ラッシーもどきを作る。

レンジからは、お米の炊ける良い匂いがしてきた。スパムとパスタソースを具材に四角く成型すれば、ちょっとは見所あるライスバーガーに化けた。

名付けて、ランチモーニング。午前中まるまる寝て、ランチタイムにモーニングを食べるような、休日の昼食だ。

ランチモーニングを二枚のプレートに盛って、ベランダに、折り畳み椅子をふたつ並べる。ベランダからは、向かいのマンションの真っ白な洗濯物と、街路樹の葉っぱが見えていた。青い空には雲一つない。

彼がのそりと起きてきて、向かい側の椅子に座った。膝の上にプレートを置く。代わりに彼が差し出したのは、大人にならないと飲めないアレだった。

雑誌にも、本にも載せられない食事で、光景だ。

「休日、最高」

ぼそりと言った彼に同意してかぶりつくランチモーニングは、自由と希望ある味がした。

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ランチモーニング 小早敷 彰良 @akira_kobayakawa

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