消化機関が喜ぶ完全パーフェクトスムージードリンク

小早敷 彰良

完全パーフェクトスムージードリンク

同居人のアンドロイドは言った。

「お前、もっとおいしいものを食べろ」

それを聞いたとき、俺は即座に、飲んでいた完全食のドリンクを差し出した。俺にとっては十分に美味しいものだ。

受け取って一口飲んだアンドロイドは、通信端末を操作して、自分の顔色を、怒りを表す赤に設定した。

このアンドロイドは2022年製で、製造されてからもう500年経っている。今からすれば信じられないことに、当時はアンドロイド生成が違法どころか、可能だとも思われておらず、法律自体がなかったらしい。

だからか、体の部品は入れ替えられて人間由来の成分は1匙分も残っていないのに、たまにこのアンドロイドは合理的でないことを言う。

「おいしいものを食べたい。食事は文化だろう。文化、ほら、ぜひとも守らねば」

「また訳のわからんことを」

「新鮮な野菜を食す菜食文化も、分厚いステーキを頬張る食肉文化も残っている。お前がマイノリティだぞ!」

アンドロイドの指摘を、俺は聞かないふりをする。

昔から食事に関心が持てなかった。俺の消化機関が弱く、野菜も肉も、ついでに魚も胃もたれすることと関係はあるだろう。

「舌は人並みに味を感じるのだろう」

「機能はしている」

アンドロイドは使命感に駆られたようだった。

手元のミキサーに、プロテインや調味料、冷蔵庫から取り出した野菜をごちゃごちゃと入れ始める。途中、フライパンで砂糖を炒めてミキサーに入れる力の入りようだ。

「完全パーフェクトスムージードリンクだ」

「頭の悪そうな名前だな」

「遊び心と言ってくれ」

「アンドロイドのくせに」

出来上がったスムージーを手渡して、アンドロイドは笑った。

見た目は悪い冗談のようだ。匂いは複雑で判断がつかない。

アンドロイドはにっこり笑っている。この笑顔を見ると、逆らえないように俺は出来ている。

意を決して、俺はそのスムージーを飲んだ。

柑橘系と栄養ある野菜の味がする。カラメル由来の香ばしい甘さがあるが、他の材料のおかげかさっぱりして、何杯でも飲める味だった。

「栄養バランスも、たんぱく質含め摂取できる」

「……完全パーフェクトスムージードリンクと、認めてやってもいいぜ」

人由来の成分が1ミクロンもない、純正ロボットの俺にすら、そのスムージーは美味だった。

「私たちも人間もきっと、体に良いもの、栄養のあるものは、おいしく感じるようにできているんだよ」

俺に人間の知り合いはいない。アンドロイドの言うことの真偽はわからない。それでも、俺はロボットのくせに、栄養はこれほどおいしく感じた。

人間なら、この完全パーフェクトスムージードリンクは、どれだけおいしいものなのか。聞けないことが少しだけ残念だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

消化機関が喜ぶ完全パーフェクトスムージードリンク 小早敷 彰良 @akira_kobayakawa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ