串焼き

lager

焼き鳥

 僕は焼き鳥が好きだ。

 僕が小さい時からずうっとそう言ってるから、母も僕が喜ぶと思ってたまに焼き鳥を買ってくる。

 だけど、それをあの男に見つかってはいけない。

 子供にぜーたくをさせてはいけないと、全て捨ててしまうのだ。

 僕は泣いたけど、泣いたって何も変わらない。

 僕を守ってあの男に母が殴られるのが嫌だったから、僕は何も言わないようにした。

 それはそれで、なんだその目つきはと殴られるのだけど、どうせ何をしても殴られるんだから何もしないほうがいい。


 僕は焼き鳥が好きだ。

 そう言い続けてはいるのだけれど、僕が本当に欲しいものはいつだって手に入らない。

 屋台で買ってきてくれる焼き鳥には、それがないから。


 けど、ある時あの男がやけに上機嫌で家に来たと思ったら、僕と母を連れてちゃんとしたお店の焼き鳥屋さんに連れて行ってくれた。

 あの男はたまにこうして気まぐれを起こすのだ。

 それで全ての悪いことをなかったことにできると思ってる。


 だけど、今回は本当にそうなった。

 僕はあの男の全てをなかったことにしてやった。


 だって、手に入ったから。

 僕がずっと欲しかったもの。

 固くて鋭い鉄の串が。


 僕は知ってる。

 漫画で読んだから知ってるんだ。

 人間の首の後ろを、固い棒で突き刺すと、そいつをやっつけられるって、知ってるんだ。


 屋台の焼き鳥は竹の串だもの。ちょっと頼りない。


 僕はついに手に入れた。

 悪い奴をやっつける武器を手に入れたんだ。


 僕は今日、自由になる。

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