SQUASHED SQUASH SAGA
@10to1
chapter 5.5 PRIVATE PARTY
最悪だ。
盗られないよう天井に吊ってあった干し肉を、めざとく見つけたところまでは、まぁ許そう。いや、ヤツの食い意地が生んだ好プレーと言ってやってもいい。実際あれは旨そうだった、かなり。4人で食ってまだ保存食にもできそうなくらいデカかったしな。罠ってなぁ、エサが上等じゃねぇと獲物は掛からないからな。敵さんながらよく分かってらっしゃる。ま、エサだけ掠めていい思いさせてもらうのが、俺たちレンジャーの常識なんだがね。
しっかしウドーのヤツときたら、これ見よがしに垂れたロープを何の疑いもなく引くかね?罠を探るから待てって言ったよなぁ。腹が減りすぎてバーサークしたってか?これだからデカい斧振り回してとにかく何でもぶった切りゃいいと勘違いしてる脳筋はイヤなんだよ。床がバックリ開いて落ちていくときのヤツの顔ときたら、思い出すだけで笑えてくるぜ。スライムだらけのこんな地下道へパーティー全員落っことした代償としちゃ安すぎるがな。
しかしここは何だ?地下道にしちゃ狭いし、どこへ繋がってるんだ?一撃でオダブツの針山とか深すぎて出られない落とし穴じゃなかっただけマシと思っとくか。水路、いや下水道か?待てよ、罠に掛かったと思ってたが、大量のゴミを捨てるダストシュートに勝手に落ちたのか?うわっダサっ。いやそんなことない。あれは罠だった。ものすごく巧妙な罠だった。そうに決まってる。
「おなかすいたー。なにかたべるー。たべるー。」
食糧が尽きてもう2日か、そりゃ腹も減ったろうよ。みんなそうだ。ギュネのやつ、2分おきに騒ぐのはやめろ。何か食いたきゃ自分で作れ。いやコイツにできるのは貴重な食材を焦げた石にするくらいだった。やっぱりやめだ。おとなしくしてろ。つか、ひらがなでしゃべるな。こっちまでうつるじゃないか。
だが実際、何か食べないとそろそろヤバいな。ただでさえダストシュートに落ち・・じゃなかった巧妙な罠にかかってみんなイラついてる。この際、質はいい。量だ。腹がふくれりゃ気も落ち着く。食事はパーティ結束の源だからな。しかしどうする?マジでスライムしかいないぞ。
「仕方ない、料理してみるか。」
「やたー。たべるー。」
「まさかスライムを食べるおつもりですか?」
「えー、すらいむー。むー。」
「ほかに何かあるんなら料理してやるが?」
「渇しても盗泉の水を飲まず、と申しますが?」
「腹が減っては戦はできねーんだろ?」
「そして、ついにスライムにまで手を出したと異名がつくのですね。」
エリクシルは基本的にサバイバル術を理解してないな。つくんだかどうだか分からん異名なんぞ気にして生き延びられるか。それに・・・
「あるんか?」
「え?」
「スライム食ったことあるんか。食えないと誰が決めた。どっかの島国じゃ、海の底に沈んでる馬の糞にトゲが生えたようなもんを喜んで食うらしいぞ。旨いかどうか知らんが、初めて食ってみたヤツは偉いよな。スライムだって分かんねーよ。」
ま、俺だって好きで食おうとしてる訳じゃないんだがな。
「なァ、オイラは腹が減ったぜ。とりあえず食って、それからでいいんじゃね?」
ウドーの単純さ、こういった時には悪くない。
「じゃ、まずはスライムを集めないとな。つってもここまで多けりゃ集めるまでもないが・・・こんなに種類があるもんなのか?」
黒、白、赤、青、深緑、紫、黄土色、こげ茶、銀・・・銀だと?こんなメタリックなヤツ、絶対に毒だろ。混ざり合って虹色になってるのも多いな。光ってるのもいるし。こりゃ食べられそうなのを選ぶだけで骨だな・・・
「ほんで、どーやって食うんだ?やっぱまずはナマかーぁ?活け作りかーぁ?おお?この銀色の、ひょっとしていいんじゃね?装甲硬くなるんじゃね?また強くなっちまうんじゃね?バシバシバシッとぶった切り~ふ~んふんふんっとぉ。んじゃ、お先にいただくぜ~。うぉッ!思ってたよりイケるんじゃね?ちょっとピリッとした感じのシビレが何とも・・・ウボぼぼボぼBoボボBoboぼぼ・・・ぴぽっ。」
「あ、ちんだ。」
「銀色は毒のようですね。」
「見るからに毒なんだけどな。」
「ウドーさんの軽挙妄動を無駄にしてはいけません。」
軽挙妄動自体が無駄なんだけどな。だがまぁ、残念ながらヤツは、この程度のことじゃ死なない。
「ゲフゲフゲフフフフフフ・・・フフフフ・・・」
「あ、おきた。」
「1分25秒か。銀はヤバいな・・・やめよう。」
「無難そうな色から試しましょう。まずは無色透明から・・・えぇと、生で食べるんですか?」
「時間計る暇あったら、さっさと解毒しろやーッ!」
「俺らはウドーと違うからな。鍋にぶち込んで火だけは通そう。ギュネ、火の精霊を呼び出してくれ。」
「えー。じめじめきらいー。」
「そこを何とかできるのがギュネだろ?」
ギュネはだいぶアレだが、おだてておけば仕事はする。何より呼び出す精霊が強力で知性的、かなり優秀だ。言われなくてもちょうどいい加減に炎を調節してくれる。マジ優秀。どうしてギュネみたいなのに従ってるんだか、サッパリ分からん。
「溶けましたね。」
「でも形は残ってるな、水分が出たんだろう。じっくり煮て殺菌にもなったろうし、味見してみるか。」
「んじゃ、オイラが。・・・さっきのより味はだいぶ薄いな。その分、毒もないんじゃね?水をドロドロにしたみたいだ。」
「たべるー。あじないー。べったりー。」
「確かに味はほとんどない、ですけど、味はつけられますし。それよりも食感が独特ですね。非常に高い粘度で・・・ベトッとというか、もうちょっと・・・」
「ヴェトッて感じじゃね?ベトッじゃ物足りねぇ。」
「う゛ぇとー」
ベトでもヴェトでもどうでもいいんだが、とりあえず腹はふくれそうだ。他のスライムなら味があるかもしれないし、思ったよりは期待できそうだな。
「なぁ、この赤いスライム、エビみてーな匂いすんじゃね?」
言われてみればそんな気もする。光ってるのはキノコっぽいと言えなくもない。たぶんヤバいキノコだ。大概のは得体の知れない匂いだが、なんとなく色とも関連性がありそうだ。
「スライムが消化したものの特徴が、そのまま残ってるんですね。これなら選ぶのも楽になるかもしれません。」
なるほど、捨てられた生ゴミをスライムが掃除してたってことか。道理できれいサッパリ、スライム以外に何も見当たらなかったわけだ。おそらくスライムが増えたら水でまとめて押し流すんだろう。どこまでよくできたダストシュー・・じゃなかった罠なんだ。スライムの体内で腐ってしまうと、きっと毒ができたり不味くなったりするんだろうが、それなら匂いや見た目で何とかなる。差し当たってエビっぽい赤と植物らしき緑系が狙い目か。
「さっきから思ってたんだが・・・ウドーがちぎると、なんとなく固くないか?」
「この力の入れ方は、誰にもマネできねーだろーな。」
「だまれ、じじー。」
「テメーはオイラより3倍歳くってるダローが。」
「まほう、こころのわかさ、だいじー」
精神年齢の間違いだろ?
「ねー。えりくー。」
エリクシルは心が若いんじゃねーから。9歳のマセガキだから。実際若いから。64歳のギュネと一緒にはなんねーから。
「3倍だったのは去年ですね。今年は3倍までいきません。」
「ほらー。」
じゃなくて。今はスライムの話だから。力加減で固さが変わるとか、あるか?
「ウドーさんの手、なんだか白くありません?」
「あー、これね。斧を振るのに滑り止めつけてんだわ。」
それだ。その怪しい粉にスライムを固める何かが入ってるんだろう。
「ちょっとそれ、貸せ。」
思った通りだ。粉を入れてしばらくもんでやると、固まる。固まるなんてもんじゃないぞ。ものすごくプリプリだ。面白ぇ。煮てやれば粉の苦みも取れるぞ。プリプリとベトベトをうまいこと組み合わせれば、結構なごちそうになりそうだ。
「見てくれよこの紫の。スゲーいい匂いじゃね?」
相変わらず脳天気なヤツだな。すっかり楽しんでやがる。上機嫌だ。だがこういうとき、コイツの野生の勘は鋭いんだよ。
「そいつはクリーピングワインだな。酔っ払わせて獲物を捕る、スライムの中でも結構危険なヤツだ。だが酒に強けりゃご褒美でしかないし、アルコールを飛ばしてやれば何の危険もない。風味付けにも最高だ。今日は俺たちが楽しませてもらう。」
「ひのせい、よったー。」
「クリーピングワインを熱している間、ずっと青い炎に当たってたので酔ってしまったんですね。」
アルコールが残っていても俺たちは問題ない。むしろ望ましい。だがマセてるとはいえ9歳のエリクシルにはダメだろう。
「せっかくのワインだが、諦めるか。」
「私のことならご心配なさらず。」
イヤイヤイヤ、ダメだって。さすがに早すぎるって。
「熱する方法は、炎だけではありませんよ。」
ん?見た目には変わってないみたいだが、何かしてるのか?んんんっ?湯気?熱くなってるのか?何だこれ?魔法か?あ、魔法だよな。コイツヤベー、ぜってーヤべー。
「・・・何をした?」
「標的の体内にある水分を高速で振動させることで熱を発生させる、私オリジナルの魔法、マイクロウェーブです。3年くらい前に干し芋をかじってて思いつきました。仲間の血をたぎらせて攻撃力アップにも応用できそうですね。」
いろいろ突っ込みどころは多そうだが、エリクシルがヤバいことは確定した。血が実際にたぎったら死ぬだろ。が、内側から熱くできるってのは新しい気がするな。
「いい感じに煮詰まってるな。アルコールも抜けてなかなかうまい。プリプリだったのが水分抜けてもっとブリブリザクザクになったが、これはこれで悪くない。たくさんできたことだし、そろそろ食うか。」
穴から落ちたときはどうなることかと思ったが、まさかスライムがごちそうになるとはな。プリンとしてドロッとして、食感も面白いし満腹感もある。なんだかんだ言ってたくせに、奪い合って食ってるもんな。
ひょっとしたら食い物屋で売れるかもな。いっそ育てるか?スライム自体は水みたいなもんだし、エサを工夫すれば味も思いのままだろう。甘くしてデザートでもいけそうだ。しかも体内で発酵するとか、ポテンシャルたけー。ワインの他にチーズみたいなのもいたな。こりゃ金の匂いがプンプンするぜ。スライム料理で大儲けして、俺は気ままな旅に出るのさ。伝説の天然スライムを求めてな・・・
「あー、うめぇ。スライムってうめぇんだな。あんた料理の天才か?」
もっと言え。
「サバイバル術にもレベルってもんがあるんだよ。だてに35年生きてきてない。」
「必要は発明の母ですね。」
「創意工夫と言ってほしいね。で、この料理、何て名前にする?さすがに『スライムの煮込み』じゃ客が・・じゃなかった聞こえが悪いだろ。」
「ぷりー。う゛ぇとー。」
「そうですね。同じスライムから全然違う食感。プリッとベトッとしてる感じがいいですね、プリベトって。」
「プリヴェト、なー。」
だからベトでもヴェトでもどっちでもいいんだって。
「でもよぉ、食感はともかく、もうちっと塩が効いてる方がよくね?」
塩がねぇんだよ。しゃーねーだろ。ロクに手伝いもしねぇくせに、文句ばっかり言いやがる。テメーの体中から吹き出てるその汗はなんだ。塩分無駄に流してんじゃねぇよ。調味料にするぞコラ。
「塩がほしけりゃ尻でも炙ってやろうか?」
あ、つい口に出しちまった。
「オイラの汗で味付けするなー!」
「リュウジさん、ゲテモノを創意工夫とはき違えるのは愚か者ですよ。」
「あせ、いらんー。うどー、あぶるー。あぶるー。あぶるあぶるあぶるー。」
「オイオイ、スライム自体がゲテモノじゃね?」
「貴方の汗とスライムと一緒にしないでください。」
「そういうこったな、すまん。せっかくのプリヴェトをマズくするところだった。料理のことになると、どうも俺はやり過ぎるようだ。」
「あぶるあぶるあぶるあぶるあぶあぶあぶあぶあぶあぶあぶあぶぶぶぶぶぶ。」
「オイラの汗がゲテモノかどうか、やってみろ!」
やらねーよ。だがまぁ、うん、次の旅から塩は多めに準備、だな。
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