春キャベツとミートボールのペペロンチーノ
鈴音
第1話
「どうしよう」
悩んでいた。とにかく私は悩んでいた。
『だからカロリー爆弾な昼食作っていけばそれでいいじゃん。唐揚げとか卵使った料理とか。チャーハンとかラーメンでも良くない?ハルはそんなに食べないなら料理番組とか今やってるし参考にすれば』
『そんなこと言われたって相手の好みもわからないんだから。それに!異性とのランチがなんだからそんな色気のかけらのないもの用意できないでしょ一人飯じゃないんだから……』
『観光地や映画デートするくらいになったんだから好みくらいはわかるでしょじゃーねー』
「ちょっと!」
藁にもすがる思いで相談したのに通話をしていた友達は肝心な時に全くと言っていいほど当てにならなかった。
『ハルが作ったものならなんだっていいでしょ。彼ベタ惚れみたいだし』
そう言われても。たまに料理はするが最近はデリバリーばかり。意中の相手が喜ぶ料理なんてわからない。
結局当日。朝から仕方なく急いでキッチンに立つ。結局何がいいかわからないままその日を迎えてしまった。
春の陽気が気持ちいい日和となったのでテラスでランチを自分の家で食べようということになったのだ。春らしい料理なんてわからない。そう唸っているとふと思い出した言葉があった。
『ショウタさんはよく食べるんですね』
『お腹すいた時はそれなりに。しょっぱいものも食べたいけどガッツリ肉で腹も満たしたいので』
でも彼は野菜はあまり好まなかった。苦味が好きではないのだという。
「うーん」
正直自分自身はあまり食べない方なので何が正解かなんてわからない。食事はいつも肉食と言ったところだったからだ。しかし、全く野菜を食べないというのもどうだろうか……
「甘くすればいいんじゃない?」
自分も生野菜はあまり好きじゃない。ならば熱を加えて苦味を取ればいいのではないか。確か冷蔵庫に春キャベツがあった気がする。絶対に春キャベツなんて食べないだろうと察した私は引っ張り出して調理を開始した。
パスタは彼の家に遊びに来るまで時間があることを考えて早めに茹で上げ別のボールに隔離。ニンニクと唐獅子を炒めてまたあえ直しておく。その間にパン粉、牛乳、挽肉、玉ねぎ、卵等々を混ぜ、ミートボールの種を作って揚げておく。ついでに挽肉が余っているので味変も考えてミートソースもついでに作ってしまう。これは簡単だ。鍋にトマト缶と塩胡椒に挽肉をぶち込めばいい。噛みごたえたっぷりのミートソースの出来上がりである。隠し味にウスターソースを入れれば、クツクツと浮き上がる気泡と香りで食欲をそそられた。ミートボールもジュウ、という音がカラカラカラと高音に変わってきたところで揚げて炒めた春キャベツとミートボールを混ぜ合わせてワンプレートの出来上がりである。つけ合わせて昨日の夜から漬け込んでいたピクルスを添えておけば赤と緑色は付けられる。ほっとため息をついたところにベルが鳴った。
「いらっしゃい……」
「どうも……」
ショウタさんは時間より早く来た。当日慌てて準備したには上出来の唐辛子とミートボールの香りを一瞬不思議がったのか一瞬キッチンの方に視線を向けたようだが、すぐに準備すると言って彼を部屋にあげて平たい皿にパスタを盛り付ければ目が輝いたように見える。本当にこれでよかったかと思っていたが、ベランダに机と椅子を用意していただきますと手を合わせれば暖かな風が頬を撫でつつもお手製のランチが始まった。黙々と食べる彼に不安になったが、半分ほど食べた時にふとこんなことを言い出した。
「久しぶりなんです」
「えっ」
「女性が作ってくれたご飯を食べるのは」
父親と暮らしていたことは会話の端々から知ってはいた。でも母親がいないなんて初耳だった。私が絶句している間に皿はみるみる空になってゆく。
彼は器用にパスタを巻きながら口にするとミートボールもサクサクと食べていった。味変のミートソースにもちゃっかりつけて美味しそうに頬張っていたのが印象的だった。
本当にこんな冷蔵庫の残り物のような物でよかったのだろうか。だって一応デートなのにワンプレートの素っ気ないご飯になってしまったのに。
「ええと、その。今日作ったのは本当に。そんなに手がこんでいるとは言えなくて。咄嗟に思いついた物だから。もっと見栄えのする物とか手がかかってるものとかにすればもっと、その」
「とっても美味しいです」
そう言いながら一人前に盛ったパスタをぺろりと平らげるとゆっくりとお茶を飲む。
「……おかわりしますか」
「是非」
「……紅茶も淹れますね」
悩んでいたのが嘘みたいに彼は平らげてしまった。ただ無言の時間は意外と居心地は悪くなくなった。どうせなら念のために買っておいたケーキを出してもいいかもしれない。白とピンクのコントラストが可愛らしいクリームをたっぷりのせたティラミス。ちょうど今日の天気によく似合う物になっている。桜が開花しそうだというテレビをBGMに私達は晴れた空の下。きっとこれからもっと暖かくなるだろう風に頬を撫でられて昼下がりを過ごすことに決めた。
春キャベツとミートボールのペペロンチーノ 鈴音 @suzu7ne2
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