第6話

 受話器を上げて教団支部に連絡を入れてみた。妻が亡くなったことを伝えた。女性信徒がこっちに人と車を寄越すと伝えてきた。

 電話を切るとこっちも準備に入った。床下の中から木箱を取り出すと、床のタオルの上に置き、ほこりを取り除いた。箱を開けると眩いばかりの金塊が二本と小粒の塊が現れた。片方のあやめ用の延棒を持ち上げた。

 彼女は障害年金で貯めた金塊を、貯めていたのである。金塊で貯蓄することには、抵抗がなかった。私のよりも重い感じがする。

 それを白布に巻いてポケットに入れ込んだ。小粒の金塊といっしょに。

 妻の仏壇から両親の写真を手に取ると、同じくポケットに入れた。

 玄関ドアを開けて待っているようにとの指示だった。

 非常に落ち着かない気分だった。妻が近いうちにこの部屋からいなくなり、私ひとりになると思うと、身体がざわついた。


 外で自動車の急ブレーキが鳴る音がした。

 白衣を着た男達が五、六人、棺を抱えて入ってきた。布団の横に棺を置き、男たちは静止した。年長の男にあやめの金塊を渡すと、彼らは再び動き出した。

 血圧計、心電図、聴診器を用意し、客観的な死のデータを計測しだした。どれにもあやめの反応は出なかった。


 二〇二二年三月十一日 十時十分死去 白松あやめ


 白衣を着る者は、手際良くあやめを棺に入れた。一人の牧師が質問した。

「棺の中に入れる物はあるか」

 焦りながらポケットに入れた両親の写真を入れようとした。

「これは故人の両親か。良い良い、構わんぞ、我らが教団でなくとも」と老人は答えた。

 棺を抱えた四人は、速やかに玄関の出入り口を通って外に出て、外に止めてあったシンプルで漆黒色の車の後部から、彼女の棺を入れた。

 私もいそいそと車に乗せられ、彼女と共に教団支部に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あやめをうたう 幾木装関 @decoengine

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ