第二十一稿 聖剣ゲット!

 私たちはサラダ村を出発した。


「ところであんたさぁ。聖剣がどこにあるのか知ってるの?」


 バジルちゃんが聞いてくるけど、もちろん知らない。


「クレソンは知ってるよ~」


「えぇ!? ホントに?」


 意外と近くにヒントがあった。


 クレソンちゃんが言うにはフェアリー村の中に祀られているらしい。


 それならバジルちゃんも知ってたはずでは?


「わ、私はほら。あんたと旅してたしね?」


 ジロリとバジルちゃんを見ると慌てて言い訳をし始めた。


「バジルちゃんはフェアリー村を飛び出しちゃったからね~」


 のほほんとクレソンちゃんが言うけど、そうだったのね。


「う。だってしょうがないじゃないー」


 ムキーっとバジルちゃんがルッコラ君の耳を引っ張る。


 どうやらルッコラ君の耳は、バジルちゃんのお気に入りになっているようね。


「何で村を飛び出したの?」


「うぇーん。勇者様ほんとに知らないのー?」


 泣きながらルッコラ君が言ってるけど何が?


「バジルさんはフェアリーの王女だよー」


 えぇ!? どういうこと??


「なによ。悪い? 父親と母親とケンカして飛び出したら木の枝に引っかかっちゃったところをあんたが助けてくれたのよ」


 私が驚いてバジルちゃんを見たら、バジルちゃんが照れくさそうにした。


 そうなんだ?なるほどね。クレソンちゃんが言ってたフェアリーが私に借りがあるって王女を助けられたからか。


 それにしてもバンパイアのルッコラ君がフェアリー村のことを知っているなんて意外だったわー。


「言っておくが、俺たちが住んでたバンパイア村とフェアリー村は隣同士だからな?」


 私の表情を読んでパクチー君が教えてくれる。


 そうなの?


「フェアリーとバンパイアは仲良く暮らしているのよ~。怪獣から村を守るための協力関係でもあるしね~」


 相変わらずのんびりとした口調でクレソンちゃんが言う。


「怪獣?」


「そっかぁ~。パセリちゃんは知らないのか~。この世界には、人民掌握軍の他にも怪獣と呼ばれる生き物がいるのよ~」


 怪獣って何? でっかくて町とかを破壊するあれ? ゴで始まってラで終わる3文字のあれ?


「その内分かるだろ。敵対する怪獣も容赦なく倒すからな」


 パクチー君は相変わらずだけど、私が知る怪獣そのものだったらかなり巨大だよ? 倒せる?


 そんな不安を抱えながら私たちはアンパイア村に入った。


 ●


 バンパイア村はその名の通りバンパイアが住む集落。


 家はなく、岩に穴を掘ったり土を盛土にして穴を掘ってその中に住んで生活しているようだ。


 それよりも私が驚いたのは――


「凄い陽気な村だね」


 辺りをキョロキョロしながらルッコラ君に言う。


「うん! バンパイアは基本的に明るい性格の人が多いから」


 そうなんだ? 私のイメージでは、バンパイアってもっと陰気な印象だけどなー。


 でもだからなのかな? 村の中がお祭り気分っていうのか、物凄く賑やか。


 少なくともサラダ村やレタス村よりも活気がある。


「あ! あれもしかして金魚すくい? うわー。小学生の頃やったなー」


 目の前の水が入った入れ物の屋台に近づいてみる。


 ……違った。


 金魚すくいじゃなかった。


 これは……何?


「金魚って何よ? これはウーオって怪獣よ」


 ジト目でバジルちゃんに言われたけど、物凄いブサイクな金魚。これがウーオの第一印象。


 両目は大きくて口はたらこ唇。色は水色で鯉レベルにでかい。そしてなぜかカエルのような鳴き声を発している。


「これが怪獣?」


「怪獣の中には、ペットにできたり仲良くできる怪獣もいるんだよー。バンパイアとフェアリーは友好的な怪獣とは共生してるんだ。ウーオも共生してる怪獣だよ」


 にこにこしながらルッコラ君が言う。


 これは金魚すくいでもなければウーオすくいでもなかった。


 屋台の店主のバンパイアが一緒に暮らしている怪獣だったのだ。


 私からしたらペットに見えなくもないけど、一緒に生活してるんだしペットじゃないんだろうね。


「それよりもこの屋台は何を売ってるの?」


「狩った怪獣の肉の炙りだろ?」


 さも当然のようにパクチー君が言うけど、そうなの?


 よく見たらお肉が木の枝に突き刺さって火に炙られている。


「野蛮なバンパイアがしそうなことでしょ」


 ふん。と面白くなさそうにバジルちゃんが言うけど、あちらこちらにある屋台のおしいそうな香りに釣られそうになってるから、本心は楽しんでるんだろうね。


 それにしてもそっかー。怪獣の肉は食べれるのか。


「ねぇ! バンパイア村のこの雰囲気って絶対いい観光スポットになると思うの! バンパイア村と連携できたら、この出店や屋台をもっと大々的に売り出したいね!」


「いい考えね~でもそれはまだまだ先のことでしょ~? まずはフェアリー村に行くわよ~」


 バンパイア村、またの名をお祭り村とでも呼ぼうかしら。


 とりあえず私たちはお祭り気分のこの村の誘惑を断ち切りつつ、フェアリー村に入った。


 ●


 バンパイア村が想像に反して陽気な村だったから私の予想ではフェアリー村は逆に陰気な村なのかな? なんて考えていたんだけど、フェアリー村もそれなりに活気があった。


 お祭りとは違うけど、森の中で生活していて笑顔の絶えない村だった。


 可愛らしい声でキャッキャッとはしゃいでいる。


「どの辺に聖剣は祀られてるの?」


 バジルちゃんとクレソンちゃんに聞く。


 もっともバジルちゃんは、フェアリー村に入るなり身を隠すようにルッコラ君の陰に隠れちゃったけど。


 王女様なのにねー。親と喧嘩して気まずいのは分かるけどね~。


「あの小高い丘のてっぺんだよ~」


 クレソンちゃんがのほほんと言う。


 私たちはクレソンちゃんの案内で小高い丘へと向かった。


「バジルちゃんがいれば簡単に手に入るはずよ~」


「やっぱり王女だから?」


「やめなさいよ! 私は協力しないわよ? 父親や母親にお願いするなんて願い下げよ!」


 ひょこっとルッコラ君の陰から顔を出して言うだけ言うと、またヒョイっと隠れた。


 なんか可愛い。


「バジルはどうして喧嘩したの?」


「別に。いい加減王位を継げって言われたから断っただけよ」


 私が聞くと、悪い? と言わんばかりの不機嫌な声で答えられた。


 もしかしてバジルちゃんってすごく偉い人?


「えーっと、今のフェアリーの王様にお願いしないと聖剣って貰えないのかな?」


 話をそらす目的で言うとクレソンちゃんが、そんなことはないと思うよ。と答えた。


「パセリちゃんが勇者だしきっと簡単に渡してくれると思うよ~? ただ、バジルちゃんが説得した方が速いと思うけどね~」


 そうこうしている内に私たちは、小高い丘を上り始めた。


 ●


 小高い丘は相変わらず私にとってはかなりしんどい。


 でも私は思う。人間のいいところは学習能力にある! と。


 私は前回の転移でカラアゲさんとナポリタンに、丘の登り方を教えてもらっている。


 カラアゲさんが言うには両手を大きく振るだったね。この方法は筋肉バカにしか効果ないとかナポリタンが言ってたけど、パセリなら平気な気がする。


 あとは呼吸法か。吸う吸う吐くだっけ?


「あんた意外と体力あるのね」


 バジルちゃんに褒められるけど、これは私の力というよりパセリの身体能力とカラアゲさんとナポリタンのアドバイスのおかげ。


 苦笑いで返すとなぜかパクチー君が抵抗してきた。


「俺も疲れてねーけどな!」


「バンパイアは身体能力が高いからね~」


 にこにこ笑いながらそれにツッコムクレソンちゃん。なんか怖いよ。


 丘を登りきると、確かに聖剣はそこにあった。


 地面に突き刺さる形で両側に石が積まれている。


 見方によっては確かに祀られているようにも見えるけど、私からしたらぞんざいに扱われているようにしか見えない。


「あれが聖剣?」


 念のためにクレソンちゃんに確認すると、笑顔で微笑まれた。


 どうやらあのぞんざいに扱われているのが聖剣で、フェアリーの中ではあれを祀っているようだ。


 近くに行けば行く程にぞんざいに扱われていたのが分かる。


 まずクモの巣! どれ程手入れをしていないのかが分かる。


 そして埃! 何年も誰も掃除をしていないのが分かる。


 積もりに積もった落ち葉から周囲すらも掃除していないのだろうね。私ですら年に1回はお墓参りに行って掃除とかするのに。


「随分汚れてるな」


 パクチー君! よくぞ言ってくれた。私が言ったらバジルちゃんからの、あんたばかぁ? が飛んできてたよ!


「フェアリーは掃除とか苦手だからねー」


 のほほんとクレソンちゃんが言うけどそうなの? むしろ得意なのかと思い込んでたよ!


「もしかして料理とかも苦手とか?」


 まさかと思って聞いた私の問に、バジルちゃんが当たり前じゃない。となぜか堂々と答えた。


 どうやらフェアリーは家事全般が苦手なようね。


「えーと、これを勝手に抜いて持って行っていいの?」


 気を取り直して聖剣を見ながらバジルちゃんとクレソンちゃんに聞く。


「勝手に取ったらダメでしょ」


 背後から声をかけられる。


「お! お母さん!」


 バジルちゃんが驚いて両目を見開く。


 私たちの後ろにはバジルちゃんのお母さんが立っていた。


 ●


 私たちはバジルちゃんの家というか宮殿に連れて行かれた。


 勝手に聖剣を抜こうとしたことで怒られるんじゃないの?


「まずはお帰りバジル」


 優しくバジルちゃんのお母さんが微笑む。


「べ、別に帰って来たわけじゃないんだけど」


 フンとそっぽを向いてツンデレ対応するバジルちゃんは何だか可愛い。


「勇者様も、ようこそ。そしてバジルと仲良くしてくださってありがとうございます」


「え、あ、いえ」


 改めてお礼を言われるとちょっと緊張する。


「それで、聖剣を入手しに来たのですか?」


 早速核心を突く質問だねー。


「そうだ。パセリは勇者だから聖盾を持っている。もう1つの勇者の印の聖剣を手に入れる必要があるんだ」


 ちょ、パクチー君。そんな言い方しちゃ駄目よ。


「そうですね。まずは確認しておきたいのですが、バジル。あなたはまだ王位を継ぐ気はないのですか?」


「ないよ」


 バ、バジルちゃん即答じゃない。


 いいの?


「では勇者様。これからもバジルの面倒を見てくれますか?」


「え? 私? ですか? 面倒を見るって、そう、ですね。はい。その、バジルが一緒に来てくれるなら一緒に居たいと思っています」


 急に聞かれてちょっとドギマギしちゃった。


 あ、バジルちゃんのこと呼び捨てにしちゃったよ。


「王妃様」


 私がドギマギしているとクレソンちゃんが、しっかりとした口調で話しかける。


「あら、あなたはクレソンじゃないですか。あなたも勇者様と一緒に旅を?」


「えぇ」


 にこりとクレソンちゃんが答えると、バジルちゃんのお母さんの顔が晴れた。


「それなら安心ですね。それでは勇者様、聖剣を引き抜きに行きましょう」


 すくっと立ち上がってバジルちゃんのお母さんが言う。


 私はとりあえず、はい。と返事をしてそのまま後を付いて行くことにした。


 再び丘の上を登って、どうぞと言われたから聖剣を抜いた。


 よくありがちの強く刺さってて抜けないとか、勇者の資質がないと抜けないとかそういうのは全くなくて、普通に抜けた。


「バジルのこと。よろしくお願いいたしますね」


 お母さんは最後までバジルちゃんのことを心配していた。


 そっか。きっと私に念押しするためとバジルちゃんの気持ちを確認したかったんだ。


 こうして私は聖剣を手に入れてやっと勇者の印を揃えることができた。


 長かったよ。


 私たちは再びサラダ村に戻ることにした。


 ちゃんと村の長たちは協力してくれていただろうか。


 心地よい風が吹くと私のちょっとしたそういう不安を吹き飛ばしてくれた。


 最初こそ1人だったけど、今はフェアリーとバンパイアが仲間になってくれて主人公の印も手に入れた。


 自分が作った内容とは大分違ってきているけれども心強い味方と一緒に頑張るしかないよね!


 吹き抜けた風がアヤメの髪を優しく撫でて去って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界転生しか勝たん shiyushiyu @shiyushiyu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ