第二十稿 初めての外交

私たちはサラダ村でしばしの休息を取っていた。


クレソンちゃんが妖精魔法を使って作物の成長を促してくれたおかげで、じゃが芋と小麦がすんなりと収穫ができて、次の分まで撒いた。


クレソンちゃんが言うには、あまり魔法に頼りすぎるのはよくないとかで、今回撒いた分は魔法を使わずに村の人の自力で育ててもらうことにした。


まぁ、何となく言ってることは分かる気がするから私もそれには反対しない。


それよりもいいことがあった。


「ついにレタス村がサラダ村と連携を組むことを承諾してくれたの!」


これで私たちは広大な土地を手に入れたも同然だ。


「勇者である私やパクチーの力を認めて貰ったみたい。この前のケルベロス部隊との戦闘が役に立ったみたいだね。」


「僕もバンパイア村が正式にサラダ村と連携を取るって約束を取り付けたよー。」


にこにこしながらルッコラ君が言う。


しょせんバンパイアよ!とバジルちゃんはちょっと不満そう。


そこで私たちは顔合わせも兼ねて、サラダ村の村長、レタス村の村長、バンパイア村の村長、そして私たちでちょっとした食事会をすることにした。


「パセリちゃん~。ここの交渉で失敗すればレタス村が割に合わない状況にもなるから気をつけてね~?」


クレソンちゃんが注意してくれるけど、交渉ってなに?


みんなで手を取り合って協力しましょう。じゃないの?


この食事会で私は現実というものを思い知らされた。


分かってはいたのに。


しょせん人間は自分の利益になることしか選ばない。


ということに。



サラダ村の村長の家に主要人物が集まって第1回掌握軍対策会議が始まった。


もちろん題目は名目上で話しの内容はサラダ村との連携が中心。


ただ、やっぱりみんな自分の住み慣れた村を出たくない人が多い。


わざわざ作物や資材を提供だって無償ならしたくない。できるだけ高値で売りたい。でも人民掌握軍からは守ってもらいたい。


これが本音。


あとは腹の探り合いだ。


正直私には向いていない。


「私は人間もバンパイアもどうなろうと知ったこっちゃないわ。」


バジルちゃんは早々に会議からリタイアした。


行くわよルッコラ。とか言って村長の家から出ようとしたもんだから、さすがにまずいと思って慌てて引き留めた。


「俺も連携とか同盟とかはどうでもいい。掌握軍さえ全滅させられればな。」


ふん。と鼻を鳴らしてパクチー君も無関心を貫いた。


頼みの綱は戦略を練るのが上手なクレソンちゃんだけになってしまった。


頼むよ?クレソンちゃん!


「まずはっきりとさせておきたいのですが、勇者はサラダ村を守ります。」


大方みんなの意見が出終わってから、クレソンちゃんがいつもののんびりとした言い方ではなくはきはきとした言い方できっぱりと言う。


「これは、連携していようといまいと変わりません。」


レタス村の村長が何か言いたげなのを遮ってきっぱりと言う。


「私たちは5人です。この5人で3つの村を同時に守ることは物理的に不可能ですからね。」


ツンとした言い方をしてる。珍しい。


「それならば、我々バンパイアが連携を取ることはない。」


バンパイア村の村長が息を荒げる。


そりゃそうだ。守って貰えないならメリットないもん。


「まぁ、私たちが住んでるフェアリー村もそうですけど、バンパイアとフェアリーは勇者に借りがありますよね?」


フェアリーもなの?バンパイアは村を救ったという貸しがあると言えばあるけど。


「そんなもの。パクチーとルッコラが仲間になったことでチャラだ。」


またもやバンパイア村村長が息を荒げる。


でも言ってることは真っ当だ。


「百歩譲って、これでチャラだと言うならば連携を取る取らないはもちろんその村の長が決めることです。ところで、私たちのサラダ村にはご覧になったように防護柵が施されています。勇者の案はこの防護柵をさらにレタス村やバンパイア村にまで広げるというもの。その防護柵の近くに掌握軍が進軍してくればすぐにでも勇者は駆け付けますが?」


なるほど。下手に出ないでむしろ向こうの足元を見た感じかな?


「その柵を囲うための資材や人材はどうするつもりだね?」


レタス村の村長だ。


「連携を取るならば均等割りかと?」


さも当然のようにクレソンちゃんが言う。


にこりとした冷ややかな笑顔に他の村長は何も言い返せずにいた。



「すごいよクレソン!」


会議後の会食前に私がクレソンちゃんに言う。


結局他のどの村長も勇者に守られるなら、多少自分たちの村から人手を出してもいいという結論に至った。


話がまとまったことで会食となった。


サラダ村には料理として提供できるものは何もないけどね。


「まだだよ~パセリちゃん~。決まったのは村3つを大きくぐるりと柵で囲うことだけだよ~?この後、見張りはどうするとか最終的には今のサラダ村にみんなが住んで、レタス村の産業をもっと発展させることが目標でしょ~?」


「そうだね。それに、サラダ村とレタス村の間の防衛拠点も作りたいし、バンパイア村との間にも必要になってくるよね。道のりは長いね。」


のんびりとした口調に戻ったクレソンちゃんに、微笑みながら私が言うとクレソンちゃんは、のんびりいきましょ~と微笑み返してくれた。


まぁ、私としてはのんびりこの異世界に居たくはないんだけどね。


会食は質素なものだった。


サラダ村に作物がほとんどないのだから仕方ない。


それをレタス村の村長に伝えて、今後の私の展望を話すと、考えておく。と曖昧な返事だった。


「利益があればってことだと思うよ~。」


話を聞いていたクレソンちゃんが私の背後から言う。


「やっぱり?まだまだ下に見られてるってことかな?」


「それなら、聖剣を探しに行かねーか?」


パクチー君が思わぬ提案をしてきた。


あ、そんなものもあったね。偉才とか何やらですっかり忘れてた。


「いいんじゃない?聖剣と聖盾があれば勇者の印になるから、あんたが勇者って確実に認められるじゃないそうすればめんどくさい交渉なんてしなくても、向こうから助けてくれーってお願いしに来るんじゃない?」


大雑把だけどバジルちゃんの考えはあながち間違いじゃない気がする。


私のラノベでも、サラダ村・レタス村・バンパイア村の連携が確定したら聖剣を探す旅に出るしね。


でもそうなると、また緊急会議が必要になるんじゃない?柵を誰が作るだとかその間に攻められたらどうするんだとか。私がいない場合について話してなかったもんね。


「とりあえず、しばらく柵を作ってから第2回掌握軍対策会議を行いましょ。」


外交ってすごくめんどくさいと改めて思ったのだった。



日にちが経つにつれて3つの村をグループ囲う柵はどんどん出来上がっていく。


奇妙なことだけど、大きな柵の中にサラダ村だけを囲う柵があって、サラダ村の北道付近には、敵の襲撃を防ぐために一直線の柵まである。


まぁ小さなことから少しずつ大きくしていった結果だね。


ある程度の目途が立ったところで、私たちは再び顔を合わせた。


第2回掌握軍対策会議が始まった。


「おかげさまで、掌握軍を防ぐための柵は完成間近です。」


クレソンちゃんが前置きをする。


「前置きや挨拶などはいらぬ。要件を申したまえ。」


相変わらずの上から目線なのはバンパイア村の村長だ。


「私たち勇者は、伝説の武器聖剣を手に入れる旅に出ようと考えています。」


クレソンちゃんが直球で伝えると、レタス村の村長とバンパイア村の村長が次々に畳みかけてきた。


「何!?この柵はどうするんだ?」


「勇者がいない間に掌握軍が攻めてきたらどうするつもりだね?」


予想通りの反応だね。


「まさか、我々の村から人員を出せ。と言うわけではないだろうな?」


相変わらずバンパイア村の村長が息を荒げている。


「それに勇者様は、柵に掌握軍が迫ってきたらすぐに駆けつけると言いましたよね?」


レタス村の村長が私に言ってくる。


それを言ったのはクレソンちゃんだけどね。


「まぁ、私がいない間はサラダ村・レタス村・バンパイア村で協力してもらうしかないと思います。」


苦笑いしつつ答えると2人の村長から鬼の形相で迫られた。


「これも均等割りとか言うのか!?」


「バカな!我々レタス村はそこまで協力すると言った覚えはありませんよ!?」


そんなこと言っても仕方ないじゃん。


「ふざけるな!人間の身勝手でバンパイアを危険に晒せるか!」


「聞き捨てならんぞバンパイア!我々レタス村は勇者たちのように身勝手ではない!同じ一括りにするな!」


今度は村長同士で言い争いを始めたよ。大人の話し合いじゃなかったの?


それにしても聞けば聞くほどイライラする。


私が身勝手?そっちはもっと身勝手でしょうが!


「もういい!それなら連携は解除しましょ。私は掌握軍を倒すために体を張って、伝説の武器を手に入れようと考えているのに、あなたたちはそれに協力する気がないのでしょう?何かとつけては自分たちの村がー村がーって!ちょっとは協力しなさいよ!」



間が開いた。


はっ!しまった!


「えっと…その…」


「もういいぞパセリ。」


慌てる私をパクチー君が落ち着かせた。


「俺は今てめぇが言った掌握軍を倒すってのに賛同して協力してんだ。元々国作りになんて興味がねぇ。さっさと聖剣を手に入れるぞ。」


「私も人間とバンパイアの国作りに興味なんてないわ。いくわよルッコラ。」


バジルちゃんがルッコラ君の耳を引っ張りながら、前を歩くパクチー君を追う。


「痛い痛いよぅー。うぇーん。」


泣きながらルッコラ君も会議の場を後にする。


「さてパセリちゃん。」


にこりとクレソンちゃんが微笑んでくる。


「クレソンたちも行きましょう。」


「え、でも…」


私が、まだ固まっている2人の村長を見る。サラダ村の村長は大きく頷いている。


いいの?


「パセリちゃんが言ったんでしょ?連携を解除するって。後はどうするかはその2人の村長さん次第でしょ?クレソンたちがいない間の態度で分かるはずよ?」


私を押しながら会議の場から出る。


「クレソン。いいの?」


村の外で聞くと、いいのよ。とクレソンちゃんが笑顔で答えた。


「さっきのパセリちゃんの言葉で、勇者と組んだ方がいいとあの2人の村長も気がついたはずよ。大丈夫。ちゃんとやってくれるわよ。私たちは私たちのやるべきことをしましょ?まずは聖剣を手に入れて、それから村の防衛機能を強力化して、いよいよ掌握軍を切り崩しにいくわよ?」


ぽん。と背中を押されて私たちは村を後にした。


暖かい風が私たちをそっと包んだ。

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