米寿ギャル、人生謳歌中

サビイみぎわくろぶっち

1.

 88歳になった。88歳と言うと、ズバリ米寿だ。

 一昔前の米寿のイメージは、自分の孫(だいたい30代くらいかな)や、子供夫婦(50代か60代くらい?)に囲まれて、「これからも長生きしてね。おめでとう」ってお祝いしてもらうのが一般的だったと思う。

 でも、21世紀も後半にさしかかった現代では、88歳の過半数は一人暮らしをしているという。

 理由は人それぞれだ。

 配偶者に先立たれた人もいれば、離婚でそうなった人もいるし、ずっと独身を通してきた人も、子供や孫がいても一人暮らしという人も普通にいる。

 ライフスタイルは人それぞれという考え方が定着したし、AIを始めとする科学技術のお陰で、ちょっとくらい年取って体が不自由になっても、自立して自由気ままに生活することが、現代では可能になったのだ。


 自分のバースデーケーキを、町まで買いに行くことにした。

 お目当てのケーキ屋さんまで約2Km。88歳が歩いて行くには、ちと辛い距離。

 でも、心配する必要はない。

 現在では、人が乗って目的地まで移動するための、手軽な乗り物型のロボットが普及している。

 形状は昔の電動シルバーカーみたいな感じだけどもう少しコンパクトで、階段なんかの段差もラクラク移動できるし、何かとぶつかったり、バランスを崩して横転したりなんてこともない。

 充電なんかのメンテナンスも超簡単だから、高齢者でも扱える。

 また、これには立ち乗りタイプというのもあって、最近はそっちの人気が急上昇している。

 立ち乗りタイプは、自分の足で歩いて移動するのをサポートする仕組みだから、運動にもなるのだ。

 でも、私のは、座って乗るタイプだ。立ち乗りタイプの主な支持者は70代。88歳の私には、座って乗るタイプで十分だよね。


 ケーキ屋に着いた。ショートケーキを6個買う。

 お店では、ケーキの名前と値段が書かれた札の文字が見えなかったり、店員さんの声が聞き取り辛かったりして、ちょっともたもたしてしまったが、優しい店員さんのお陰でちゃんと買えた。

 聞くところによると、若い人達はケーキなんか食べないのだそうだ。若い人は、なんとかという名前の、数年前から流行っているお菓子を食べていると言う。

 だから、ケーキ屋さんのお客さんのメインは、どこも60代以上らしい。親切にしてくれるのは、そういう理由もあるのかもしれない。

 どんな理由であれ、店員さんに助けてもらって無事にケーキを買うことができた私は、なんだかとても嬉しくなって、乗り物ロボットをぶっ飛ばして(実際には、スピードはそんなに出ないから安心してね)、友達の裕子ちゃんの家に行った。


「裕子ちゃん」

「琴美ちゃん、いらっしゃい」

 裕子ちゃんも一人暮らししている。旦那さんは12年前に亡くなって、息子さんが二人いるが、離れたところに住んでいる。

「ケーキ買ってきたの。一緒に食べようよ」

「すごい。いっぱい買ったんだね」

「うん。聡くんと紗枝ちゃんにも持って行くかもしれない。あ、でも、遠慮しないでたくさん食べて。二人と約束してる訳じゃないから」

「大丈夫、1個以上食べられる訳ないもん。1個でさえも一度に食べられるかどうか怪しいのに」

 元気なようでも、何だかんだ言って、これが88歳だ。

「あれ?箱の中にロウソクが入ってるよ」

「そうか、ケーキ屋さんがサービスで入れてくれたんだ。88歳の誕生日だって言ったから」

 すると、裕子ちゃんは私の顔を、まじまじと見ながら言った。

「琴美ちゃんってば。しっかりして。88歳の誕生日なんて、とうに終わったでしょ」

「はあ?」

 裕子ちゃんは何を言っているのだろう。

 じゃあ、私は今、何歳だっていうのさ?!

 しかし、その瞬間、私は自分の88歳の誕生日の時のことを思い出した。

「あ……。そう言えば…、そうかもしれない」

「でしょ?」

 でも、全部は思い出せない。

 誕生日が今日だっていうのは、合ってるはず…だよね?う…。これもちょっと怪しいかも………。

「私って、今、何歳だっけ?」

「もう、そんなことも忘れちゃったの?」

 裕子ちゃんが大笑いした。

 良かった、裕子ちゃんはちゃんと分かってるんだ。持つべきものは、自分よりしっかりしてる友達だ。

「琴美ちゃんは私の一つ年上だよ。だから…、だから…、え、え~と???」

「裕子ちゃんも忘れちゃったの?」

「そうみたい…」

 私達は顔を見合わせて、困り顔でワハハと笑った。

「聡くんか紗枝ちゃんとこ行ってみる?」

「そうだね。それもいいかも」

「でも、誰も覚えてなくて、最後まで自分の年が分からなかったらどうしよう」

「そんなことないってば!きっと誰かは覚えてるよ」

 私と裕子ちゃんは、残ったケーキを持って、二人で乗り物ロボットに乗って出かけた。

 私達はこんなに年を取ってしまったけれど、中身は以前と全然変わっていない。

 精神年齢は20代?まさか高校生ではないと思うけど。

 私達は、一体何歳まで生きるんだろう。

 でも、生きるのは苦ではない。むしろ楽しい。

 米寿(以上)ギャル、人生を謳歌中!ってとこかな?

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