88歳のリクルート

はちこ

第1話

 ここは、とある喫茶店の中。高齢男女が楽しそうにお茶を楽しんでいる。会話を聞いてみることにしよう...


「佐藤さん、今年も引き続き、秋田の田んぼかね?」

「いや、今年は新潟の農協からも依頼があって、掛け持ちだわ。」

「やぁ、そりゃ忙しいな。」

「そういう山本さんは、今年はどんなだ?」

「九州の漁協との契約が終って、瀬戸内の方、面接受けようかと思っとる。」

「あ、遠藤さん、久しぶり?」

「みなさん、お揃いで。」

「遠藤さん、工房の方は順調かね?」

「おかげさまで、若い子が来てくれて。ただいま、絶賛指導中じゃ。」


 日本は超高齢化社会、定年年齢の引き上げはこれまで何度も行われてきたが、とうとう定年年齢の上限が撤廃された。少子化対策もなかなか成果が上がらず、今後、日本を支える人材を高齢者から募るという方針に転換したのだ。

 もちろん、ただ、高齢者に労働を課すわけではない。そこは日本の高い技術力を利用し、高齢者にとっても働きやすい環境が提供されている。

 主に使用するのは「VR」と「人間拡張」技術。高齢者は現場に赴くことなく、今まで培った技術を提供する。高齢者自身は自宅にてVRゴーグルを装着し、現場の状況を把握、人間拡張技術を用いて、感覚の共有を行う。共有相手はロボットであったり、若い人材であったりもする。

 特に、長年の経験やその経験に基づく感覚で判断を行うことが多い、一次産業分野での活躍が期待されている。さらに、後継者不足の分野においても、多くの高齢者の就労が求められている。VRと人間拡張技術を用いることで、文字通り手取り足取り、直接仕事を伝えることが出来るため、伝統技術の継承を見込めるためだ。

 日本における高度経済成長を支えてきた人々の知識や技術を失うことなく、未来に引き継ぐことで、さらなる経済の発展が期待されている。


 では、再び喫茶店の会話に耳を傾けてみよう。


「あ、涌井さん。新しく始めた事業は順調かい?」

「みなさん、お久しぶりです。おかげ様で、登録世帯が増えてね。」


 涌井さんはこの集まりの中でも、かなり先進的な方。なんと、高齢者の積極就労の波にのって、起業したのだ。涌井さんは、VRと人間拡張を利用して、ベビーシッター派遣業を始めた。子育てのベテラン高齢者が感覚共有する先はロボットやぬいぐるみ。利用するお子さんが好きなキャラクターを選べる仕様だ。また、保育士や教員を目指す若者たちの実習機会も提供しているとのこと。細かな感覚共有を経て、これから現場にでる若者たちは、自信をもって、仕事に就ける。涌井さんの新規事業のおかげで、お母さんたちの就労が徐々に増えているらしい。そして、子育てしながらの就労がぐんと楽になったことから、徐々に出生率も増えてきたとのこと。


 高齢者の就労が少子化対策にも貢献したのだ。これからの日本は、元気な高齢者とこれから成長する多くの子どもたちの手によって、ますます発展していくだろう。

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