第28話警備隊詰め所
警備隊の詰め所は閑散としていた。
石壁の建物の高い位置に、小さい窓がついていて、外から日の光が差し込んでいた。入口の先は狭い部屋で、受付のカウンターがあるだけのシンプルなものだった。
受付には制服を着た男性が二人いて、八穂が入って行くと、カウンター横のドアを開けて、奥へ案内された。
奥は思っていた以上に広く、通路をはさんで、両側に部屋が複数並んでいたが、
どこもドアが閉じられていて、中のようすはわからなかった。
案内してくれた警備員が、いちばん手前のドアをノックすると、中から入るよう声がかった。
八穂が促されるままに、部屋に入ると、中央に置かれた大きなテーブルの前に、先ほどのジェストと呼ばれた人が座っていて、向かい側には胸に銀色のバッジをつけた制服の男性がすわっていた。
「お時間をとらせてすみません。警備隊第三部隊長のロインです。確認だけですから、すぐ終わります」
「八穂です」
八穂はジェストに目礼してから、椅子にすわると、ほうと息を吐いた。
八穂が経緯をのあらましを話すと、ロインは手元の書類に何か書き込みながら聞いていた。
「でも、あの人がなぜ、突っかかってきたのか、わからないのです」
八穂が困ったように言うと、ジェストが、腕組みしながら、嫌そうに吐き出した。
「ああいう奴らは、理由なんか何でもいいんだ。弱い者に当たりたいだけだ」
「そうなんですね、迷惑だな」
「長年、冒険者を見てきていますが、ああいう輩はどこにもいますね。トワは、これまでは、比較的穏やかだったのですが、近くにダンジョンができて、冒険者が集まってきていますから、トラブルも増えています」
ロインは手にしていた書類を立てて、トントンと揃え、横にあった箱の中に置いた。
「警備隊としても、見回りを強化するつもりです。街が荒れては、安心して外を歩けませんからね」
「ええ、ぜひお願いします。これまで、街のみなさん親切だったから、私も警戒心が薄かったのかもしれません」
「俺ら冒険者も、警戒しておくべきだな。ギルマスに言っておくか」
「それはぜひ」
ジェストの言葉に、ロインは頭を下げた。
「ジェストさん、お礼がまだでした。助けていただいて、ありがとうございました」
八穂が立ち上がってお礼を述べると、ジェストは照れくさそうに手を振った。
「通りすがりだ。大事に至らなくて良かった」
「屋台が壊されるのか、殴られるのかって、怯えていました。でも、どうにもできなくて」
その時、バタンと背後のドアが開いて、息を切らした
「八穂! 襲われたって聞いて」
「トーヤさん、困りますよ。勝手に入って来ちゃ。待っててくださいって言ったのに」
受付にいた職員らしい人が、後から追いかけてきて、
「悪い、急いでたんだ」
十矢は職員に手を上げて詫びた。
「十矢、ごめんね」
「リリイさんだっけ、隣の屋台の人に聞いてさ、
十矢は、八穂がいつものように、落ち着いたようすでいるのを見て、ひとまずは安心したようだった。
「乱暴されたのか?」
「殴られたりはしなかったけど、
八穂がジェストの方を振り向いた。
十矢は、今気がついたというようにジェストを見て、驚いた。
「ジェストさん? こっちへ来てたんですか」
「トーヤ、久しぶりだな。ダンジョンの内部調査で声がかかってな、とりあえず様子見に来てみた」
「そうなんですか、それは心強い」
「知り合いだったの?」
「うん、王都にいた頃、一緒だった。Sランクのジェストさんだ。」
「Sランク、それはすごい」
十矢のAランク冒険者でさえ、国内に一握りという実力者だ。Sランクともなると、数人いるかいないかという存在だった。
「八穂が助けてもらったようで。ありがとうございました」
十矢は頭を下げた。
いつもフランクな物言いの彼が、丁寧な言葉使いなのは珍しい。それだけ一目置いているということなのだろう。
「お話し終わりましたから、もうお帰りいただいていいですよ。ご協力ありがとうございました」
警備隊第三部隊長のロインの言葉に送られて、三人は街へ出た。
せっかくだからという十矢の提案で、近くの居酒屋に落ち着いた。
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