第25話新ダンジョン認定
「
夕刻、八穂が屋台を閉める準備をしていると、
「うん、あとは、屋台をしまうだけ」
八穂は言って、屋台を、腰につけた神様ポーチに収納した。
最初の頃は、神様ポーチは秘密にした方がいいのかと思って、人前では使わないようにしていたのだが、十矢が当たり前のように使っているのを見て、隠すのをやめた。
神様ポーチほどの性能かどうかはわからないが、商人や高ランク冒険者などは、マジックバッグを持つ人は、少なくないらしい。
「買い物があるんだけど、市場に寄っていいかな」
「いいよ、オレも欲しいものあるし」
二人は広場から、東大通りの商店街を抜けて、トワ市場の方へ足を向けた。
市場は周辺の農村から新鮮な農作物がたくさん集まってくる。本来は小売店が仕入れに行く場所なのだが、個人にも販売してくれる。
まとまった量買う必要はあるのだが、格安で買えるので、マジックバッグ持ちの八穂はよく利用していた。
夕暮れが近いためか、人通りは少なかった。
店じまいしているところもチラホラあって、八穂はそんな売り場をのぞきながら歩いていた。
閉店間際には、値段を下げて、売り切ってしまおうとする店が多いのだ。このあたりは、日本のスーパーと同じだった。
「今日、イルアの森ダンジョンが公式発表されたよ」
十矢が言った。
「やっぱり、ダンジョンなのね」
「ああ、崖の亀裂が広がって、入口ができた」
「そこから、魔獣出てくる?」
先日、自宅前に現れたエビルボアを思い出して、心配になった。
「可能性はある。今は入口は封鎖してあるし、すぐに防護壁ができると思う。今はトワ男爵の兵が警戒してる」
「それならいいけど……」
ダンジョンのできはじめは、シンプルな縦穴らしいが、魔素が凝縮してできる
そのせいか、体に感じられるような弱い地震が頻発するようになっていた。
地球の、八穂がもともと住んでいた地域は、普段から地震の多いところだったので、少しくらいの揺れには驚かなかったが、毎日のように小刻みに揺れる地面には、多少の不安も感じていた。
また、森には、小さな魔獣が出るようになっていた。
彼女と十矢の使役獣、リクとイツが周辺を警戒してくれていて、彼らが狩った角ウサギや牙アナグマなどの小型の魔獣が、戸口の前に並べられていたりもする。
「これからは、冒険者が多くなるはずだから、森に魔獣が出てもすぐ討伐されるよ」
十矢の話によると、ダンジョンは危険ではあるけれど、稼ぎになる場所なのだそうだ。 ダンジョンから出る魔石やドロップ品で、商売が生まれ、流通が活発になり、人が集まってくる。
そのため、ダンジョンへの出入りを管理して、周辺を開発し、まずは開拓町のような集落を整えるという。
八穂の自宅周辺にも、商店や宿屋や住居などができる予定らしい。
開拓されるのは、イルアの森の三分の一くらいの場所で、薬草やベリーなどが摘める自然は残されるようだ。
「そういう意味では、八穂は新しい開拓町、最初の住人だな」
十矢が笑うと、八穂は、複雑そうな表情を浮かべた。
「もしかすると、エリーネ神の策略なのかもね」
「そうだな、神様の考えることはわからん」
これからは、冒険者たちに依頼して、森の危険な魔獣を討伐し、トワ男爵の兵たちが安全を守り、職人たちの伐採整地、建設などがはじまるのだという。
同時に、十矢や『ソールの剣』などの、高ランクの冒険者が依頼されて、ダンジョンの内部調査をするのだそうだ。
「危険じゃない?」
八穂が心配すると、十矢は肩をすくめた。
「そりゃ危険さ。多少はね。でも、無理はしないよ」
「うんうん、そうしてくれると安心する」
八穂は言って、暗くなってきた空を見上げた。
これから八穂の家のまわりは、どんどん変わって行くのだろう。
八穂は魔獣と戦えるわけでもなく、役立つスキルを持っているわけでもない。
ただ、料理を作って、食べてもらうことだけが喜びだ。
役に立つことはできないかもしれないけれど、八穂は自分ができることをしようと思った。
そして、ダンジョンのことなんて、まったく想像もつかないが、新しい町がどうできるのか、どう変わって行くのか、楽しみだなと思った。
(第1部終)
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今回で第1部が終了しました。
拙作をお読みいただき、フォローや応援、お星様も、たくさんいただきまして、ありがとうございました。
第二部は、現在八割方書けているのですが、推敲の時間も合わせて、しばらくお休みをいただきます。
再開の折には、また引き続き、お読みいただければ幸いです。
仲津麻子
追記
第二部の更新をはじめました。
どうぞよろしくお願いします。(2022年11月07日)
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