第14話商業ギルド

 イルアの森の魔獣事件があってから十日あまり後、ひとまず落ち着いた八穂やほは、トワの街を歩いていた。


  森の調査に関しては『ソールの剣』や、他の高ランク冒険者がするので、八穂が手伝えることはなかった。


 薬草摘みの依頼は一時停止されたので、今の八穂ができる唯一の依頼仕事もなくなってしまった。


 今日の八穂の目的は、商業ギルドだ。

先日串焼きを食べた屋台の店主に、中央広場で屋台を出すにはどうしたらよいか聞いたところ、商業ギルドで申し込みができるとのことだった。


 ただ、屋台の数には制限があるので、いつでも受け付けてもらえるとは限らないらしい。

ダメでも、早めに相談しておく方がいいだろうと、今日の外出になった。


 商業ギルドは、中央広場の北側、大通りをはさんで、冒険者ギルドの右隣にあたる。赤いレンガの建物で、屋根が三角のとんがり屋根になっている、シャレた造りだ。


 入り口のドアは、下半分は色の違う板を組み合わせたようなモザイク模様、上半分はトワでは珍しい透明のガラス窓になっていた。


 商業ギルドの中は、カウンターがあるのは冒険者ギルドと変わらないが、五つある受付の間は仕切られていて、それぞれに椅子が置かれていた。


 商談用だろうか、左右の端は板で仕切られた小部屋になっていて、使用中の部屋は入り口に薄いカーテンがおろされていた。


「こんにちは」

八穂は誰もいないカウンターの、受付窓口に声をかけた。


「はい、うけたまわります」

向こう側の机で書類仕事をしている職員の一人が立ち上がって近寄ってきた。

薄いクリーム色のシャツを着た青年で、袖をひじのあたりまでまくり上げている。


 青年はカウンターごしに、八穂に座るように促すと、自分も椅子にかけ、改めて挨拶した。

「いらっしゃいませ、シュルツと申します。ご用件をうかがいます」


「あ、はい。私、中央広場で屋台をはじめたくて。商業ギルドで申請できると聞いてきました」

「そうですか、申請するには商業ギルドへの登録が必要になりますが、ギルドカードはお持ちですか」


「持ってません。冒険者ギルドのカードは持っているのですが」

「わかりました、冒険者ギルドカードと連携させて登録できますけれど、どうしますか」

「お願いします」


 商業ギルドへの登録も、手順は冒険者ギルドと変わりなかった。八穂は小規模商店の白い組合カードをもらって、年会費と、半年分の税金の前払いをした。


 商業組合のランクは、小規模商店、中規模商店、大規模商店の三つで、店舗の規模と従業員の数で決められる。会員を維持するためには毎年、組合の年会費と、それぞれ決められた額の税金前払いが必要だった。


 中央広場の屋台出店申請は、随時受け付けていて、場所が空いていればすぐに許可が下りるという。八穂は申請書に記入して職員に渡し、空いている場所を探してもらうことにした。


 屋台の場所は、最初は広場の端の方になるのが普通で、半年ごと、年二回の入れ替わりがあり、人気のある屋台は、真ん中にある噴水付近に移動できる。


 悪評が続くと許可が取り消される可能性もあるので、お客様の人気と誠実な経理が大切、と、シュルツさんからの諸注意を聞きながら、結果が出るのを待った。


 半時間ほどして、幸いなことに広場の東大通り寄りの端に、出店を認められたので、その場で出店申請の書類にサインして契約を終えた。

 八穂は、早めに申請して、しばらく待つつもりだったので、こんなにすぐに決まるとは思っていなくて、あわててしまった。


それでも、いつ決まるかやきもきして待つよりずっといい。これから準備しなくてはならないものを考えて、八穂は心をおどらせた。

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