第6話冒険者ギルド

 果汁や果物を扱っている屋台、鉄板の上でクレープのようなものを焼いている屋台、手作りらしいアクセサリー、刺繍をしたハンカチのような布を並べている屋台など、中央広場の屋台を通りすぎて、八穂は冒険者ギルドへ向かった。


 冒険者ギルドは、日本でいえばハローワーク。職業斡旋所に近い。個人や団体からの仕事依頼を受けて、仕事を求めている人に紹介する役割だ。

国営なので信用度も高く、仕事は個人の雑用から、魔獣の討伐まで多岐にわたる。


 仕事を受ける人を冒険者と呼ぶが、本来の意味での「冒険」をしている者はこくわずかだ。


 実力と達成度によってランク分けされていて、FランクからAランク、及び特別なランクとしてSランクがある。

『異世界の暮らし方』の受け売りの知識だが。


 冒険者ギルドは、赤黒い石造りのガッシリした建物だった。屋根近くにも窓が見えるので、二階建てなのだろう。


 入り口は、二枚の板がバネで両開きに開くスイングドア。その手前には、夜間には閉められるのだろう、頑丈な鉄格子の扉が折りたたまれて端に寄せられていた。


 八穂やほはおそるおそる足を踏み入れた。

お昼前ということもあって、人は少なかったが、依頼を選んでいたのだろう、大きな掲示板の前にいた冒険者の何人かが、振り返って八穂を見た。


 おそらくは、たいしたヤツじゃないと判断したのだろう、振り返った男達は何の感情も浮かべずに、また掲示板に向かった。


 部屋はかなり広く、八穂は高校の体育館くらいかなと感じた。

右側は食堂になっているらしい。衝立で仕切られているので見えないが、スパイスのきいた、おいしそうな匂いや、食器をカチャカチャさせる音が聞こえていた。


 受付カウンターには、二人の女性が座っていて、前に立つ冒険者と何か話していた。

カウンターの前には丸太を削って作ったようなベンチが並んでいるが、今は誰も座っていなかった。


 八穂はベンチに座ってまわりを見渡した。

これが冒険者ギルドか。小説などでは、ここで腕自慢の冒険者に絡まれたりするのだが、幸いなことに何もなかった。


 もっとも、絡まれたって、返り討ちにできるような力もないし、どうしようも無い。ヘコヘコあやまって逃げるだけだな、なんて考えていた。


「次の方、御用はなんでしょうか」

二人の受付嬢のうち年上に見える方の女性から、声がかかった。

若い方の女性はまだ、前にいる冒険者と楽しそうに話していた。


「私、ですか?」

見学に来ているだけで、特に用事もないのに、八穂はなんと答えようかと、とまどった。


「はい、窓口へどうぞ」

「あー ちょっと見学させてもらいに来ただけなんです」

八穂は、カウンターに近づいて頭を下げた。


「はあ、見学ですか」

「ええ、遠い田舎から出てきたばかりなんで、珍しくて、色々見て回っているんです」


「なるほど、今後はこちらにお住まいですか」

「そうです。街中ではなくて、この近くですが」

「通行税を払ってこられたんですね」

女性は、八穂の手首の印を見て言った。


「はい」

「街の近くに住むのなら、来るたびに、大銀貨二枚は大変でしょう?」

「確かに、そうですね」


「それなら、ギルドカードを作りませんか? 身分証になりますよ。メイリン王国内ならどこの街でも、通行税免除になりますし」

「なるほど、確かにその方が便利ですね」


「冒険者ギルドに限らずですが。トワには他に、商業ギルドと職人ギルドがあります。もっと大きな街に行けば、薬師ギルドとか、魔術師ギルドなどもありますけれど」


「おお、魔術師ギルド、ここには魔術があるんですね、ステキ」

八穂は魔術と聞いて、ちょっと浮き足立った。

魔術師がいたら、ぜひ魔術を見てみたいと思ったのだ。


「魔術師はとても少ないですけれどね。ほとんどが王室や貴族のお抱えになっているので、市井にはほとんどいませんけれど」

「そうなんですね、残念」


「それで、どうなさいますか?」

女性が訪ねた。


 八穂は最初、何かの企みで勧誘しているのかと、少し疑っていったのだが、女性と話してみて、悪気はなく、単に親切で言ってくれているようだと感じた。


「私、けもの魔獣まじゅうを狩ったりできませんが、冒険者になれますか?」

「はい、冒険者と言っても色々ありますから。高ランクの冒険者には武力は必要ですけれど、近くの森で薬草摘みや、街中での雑用などの依頼もあります。初心者でもできる依頼はあります」


「なるほど、それではお願いします」

八穂はギルドに登録することを決めた。知り合いもいないこの世界で身分を保障してもらえるのは助かる。それに、この世界の一員として受け入れてもらえるような気がした。


「そちらにいるのは、使役獣ですか」

女性はリクを見て聞いてきた。

「そうです、リクと言います」

「可愛いですね。それじゃ、使役獣の登録もしておきますね」

「おねがいします」


 八穂に渡されたカードは、Fランク冒険者の白いカードだった。

最低一年に三回は依頼を受けないと降格してしまうそうなので、簡単な依頼を五回以上受けて、Eランクまでは上げておいた方が良いと説明された。


 八穂はそのうちに、何か簡単なものを受けてみようと考えた。

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