第5話中央広場
神様にもらった冊子によると、トワはメイリン王国南東部の中規模都市と言うことだけれど、かなり賑やかに思えた。
特に何をするという目的もないので、中央広場付近を歩きながら、街のようすを観察した。
街の建物の多くは、灰色がかった石造りで、まれに赤いレンガを積んだような建物もある。屋上には金属の囲いが設けられていて、それぞれ工夫を凝らして花や草木などで飾られていた。
噴水のある中央広場から四方に、石畳の大通りが伸びて、たくさんの人が行き交っていた。
貴族かお金持ちのものなのだろう、豪華な馬車が通る時は、従者らしい少年が声を上げて、通行人を道のわきに寄せていた。
大通りの南端が入り口の石門。中央広場の北側には、通りをはさんで西に冒険者ギルド、東に商業ギルドがあった。
広場周辺は商業区になっているらしく、小売店や食堂などが入り乱れて建っていたが、
何かを焼く香ばしい匂いがただよってきた。
食欲をそそる匂いにひかれて、近づいて行くと、串に刺した肉を焼いている屋台だった。
「お、坊主、串焼きどうだい」
網の上の肉を返しながら、店主が声をかけた。
「美味しそうですね、何の肉」
八穂が尋ねた。
「
「それじゃ一本ください、それとこの子に、タレなしでも一本欲しいんですけど」
物欲しげに、八穂を見上げているリクに気がついて、追加をたのんでみた。
「おう、いいぞ。ワイルドキャット? にしちゃちっこいな。毛も長いし、変わった使役獣だね」
「あはは、そうですね。リクは特別な子なんです」
「はいよ、熱いから
「ありがとう」
八穂は、店主にお金を支払うと、一センチほどの厚さの肉が三枚刺さっている串を渡された。
リクの水飲み用に持って来ていたボウルを、神様ポーチから出して、足もとに置き、串からはずした、味なしの肉を入れてやると、リクは鼻を近づけてニオイを確認した後で、肉にかぶりついた。
八穂も人目もはばからず、ガブリと肉を噛むと、塩味に加えて爽やかな果物の甘味と酸味が口の中に広がった。
「おいしい、おいしいです」
ネギのような香りと他に何か香草を使っているらしく、肉の臭みが上手に消されていて、食べやすかった。
「おう、気に入ってもらえたら嬉しいよ」
店主は満足そうに言うと、新しい肉を網の上に乗せた。
「坊主はこのあたりのもんじゃないね」
「ええ」
どうやらまた、男の子と間違われているらしかったが、八穂はあえて訂正せずにうなずいた。
「だろうな、赤牛の肉を知らないなんて、このあたりにはいねえからな」
「そうなんですね、すごい田舎にいて、最近出て来たばかりなので」
「へえ、田舎なのに赤牛がいないのか? 背中にちっこい羽が生えた、これくらいの牛だ。この国の家畜では珍しくもないんだが」
店主は両手で一メートルくらいの幅を示して言った。
「まあいい、たんと味わっていけ」
「ありがとうございます」
八穂は内心焦りながら礼を言った。
異世界転移のことを気軽に話していいものか、判断がつかなかったので、ここは黙っていた方が良いと考えたのだ。
「ごちそうさま、美味しかった」
串焼きを食べ終えて屋台を後にした。
たっぷり朝御飯を食べて来たので、ボリュームのある串焼きを食べたらお腹が苦しかった。腹ごなしに少し歩こうと考えた。
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