おばあちゃんの思い出

平 遊

おばあちゃんの思い出

うちのおばあちゃん?

うん、この間亡くなったんだ。

88歳のお誕生日会をした数日後に。

あんなに元気だったのにな。

あー、そんな顔、しないで?

大往生だったの。眠るように亡くなったんだ。なんか、満足そうな顔にも見えるくらい。

だからね。

少し寂しいけど…そんなに悲しくはないの。


おばあちゃんね、わたしがまだ小さい頃だから…50代とか60代前半くらいの時からかな?

ずっとね。

88歳になるの、楽しみにしてたんだよ。

え?なんでって?

うちのおばあちゃん、米子よねこ、って名前でね。あ、戸籍上は『よね』だったんだけど。勝手に自分で『子』を付けたみたい。戸籍見て初めて知ったよ!

それはいいんだけど。


『米』って漢字って、さ。

分解すると、八十八、でしょ?

だからおばあちゃんね。


『88歳は、私の歳だ!』


なんて言って。

すごく、楽しみにしてたんだよね。

それで、いざ88歳になったら、今度は


『私は88歳で死にたい!』


って言い始めて。

まだまだ元気いっぱいの顔でそんなこと言うんだもん。参っちゃったよ。

ん?

そうだよ?

おばあちゃんは『88歳のお誕生日会』のあとで亡くなったの。

それじゃ、希望通りじゃないかって、思った?

まぁ、そうだね。

ある意味、希望通りだったのかも。


実はね。

おばあちゃん、88歳になった頃から、少しずつ痴呆が進み始めてたんだ。

そんなにはひどくなかったんだけど。

でも、歳だけは、88歳のままだったの。

何年経っても、歳取らないの!

他は譲っても、これだけは絶対に譲らなかった。

…もしかして、おばあちゃん本当は、痴呆なんか無いんじゃないかって思うくらい。

だから、『88歳のお誕生日会』はね、今年で6回目だったんだよ。

本当はおばあちゃん、93歳だったんだ。

でも、おばあちゃんの中ではずっと88歳だった。

だから、なんだと思うんだ。


あんなに満足そうな顔をして、旅立ったのは。


うらやましい、って思う。少しだけ。

わたしも、あんな風な最期を迎えたいなって、思っちゃうんだよね…


【終】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おばあちゃんの思い出 平 遊 @taira_yuu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ