姫様とホワイトデー
石花うめ
姫様とホワイトデー
昼下がり。
姫様がいきなり私の部屋に入ってきた。
「私、マカロンが一番好きなの! だから今日はマカロンを作りなさい」
何を言い出すのかと思ったら、どうやらアフタヌーンティーの話みたいだ。
「はい、もちろん。……しかし姫様、私が記憶しているところによりますと、姫様が一番お好きなのはクッキーではなかったですか?」
「そんなことないわ。私が一番好きなのはマカロンよ! だから早く作りなさい。必ず今日食べなきゃいけないの!」
従者である私は、幼少期からずっと姫様と一緒に過ごしてきた。
私は姫様のことが大好きだ。しかも従者として毎日姫様のお側にいるので、姫様のことは何でも知っている。それなのに、好きなお菓子を偽ろうなんて無理がある。
それに、今日食べなきゃと突然言い出すなんて。
相変わらず、わがままで可愛い人だ。
「それじゃ、私は先にキッチンに行って、食べる準備をしておくわ。早く作ってちょうだい」
姫様は急いで部屋を出て行ってしまった。
こうなった以上、大好きな姫様に満足してもらえるように美味しいマカロンを作らなければ。
しかし、ほとんど作ったことがないマカロンの作り方なんて分からないので、お屋敷にある本で調べることにした。
お菓子のレシピ本を見つけて、マカロンの作り方のページを開くと、ページの角が折ってあった。誰かが先にこの本を読んだらしい。
そしてもう1ページ、角が折られているページを発見した。コラムのページだった。「ホワイトデーに送るマカロンには『あなたは特別な人』という意味が込められています」と書かれている。
まさか。
カレンダーを見ると、今日の日付は3月14日。ホワイトデーだった。
本を持ったまま慌ててキッチンに行くと、姫様が後ろで手を組んで私のことを待っていた。
そして、後ろに隠し持っていた手作りキャンディーを私にくれた。
「これを舐めて、私のためにマカロンを作りなさい!」
「はい! すぐに作ります」
私はキャンディーを口に入れてレシピ本を開いた。角が折ってあるページを探して開く。間違えてコラムの方のページを開いてしまった。マカロンのコラムの下に「ホワイトデーに送るキャンディーには『あなたのことが好き』という意味が込められています」と書かれていた。
本から目線を上げると、姫様はさっきまでの威勢が嘘みたいに、頬を赤らめて恥ずかしそうにしている。
どうやら私は、姫様が本当に一番好きなものを知らなかったみたいだ。
姫様とホワイトデー 石花うめ @umimei_over
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます