最終話「合戦」

そして、二週間後。


市指定合戦場の河川敷に自警団の皆と赴くと、そこには大勢の警察官がいた。

警官隊は我らを見るなり銃を構え発砲してきた。


「うわー!!」


何と卑怯な、と抗議しかけたが誰一人倒れてない。

どうやら空砲で我々を威嚇してきた様だ。


「くそぅ、小賢しい真似をしよって」


我輩が歯噛みしていると、隣にいた発狂仮面が我輩に声をかけた。


「暴動仮面君、僕に任せてくれないか?」

「ん? 何か策でもあるのか?」

「開始と同時に仕掛けるさ」


発狂仮面はそう言って笑みを浮かべた。


そうして我らと警官達は睨み合いになった。

向かい合った大群の中心で、今回の合戦の主犯たる女市長、トルチョックがメガホンを片手に演説を始めた。


「本日は私の下らん提案と余興に付き合ってくれて感謝する。諸君らに与えられた課題は実にシンプル…向かいの『敵』を殲滅することだ」


お気楽言ってくれるな…。


「私はかねてから一般市民と警官隊が全力で殺し合う様子を見てみたかった! 本日は存分に諸君らの戦いぶりをとくと堪能させて貰おう…勝者にはこの市の警備業務全般を移譲、敗者には申請すれば本日の合戦で負傷した分の治療費と慰労金を支給してやろう」


実にお役人らしい態度だ。

感心する。


「それでは……始めッ!!」


トルチョックがそう叫ぶと、一斉に銃撃戦が始まった。


「撃てェ!! 撃って撃って撃ちまくれェ!! クソ暴徒共を皆殺しにしろ!!!」


国家公務員が一般市民に向ける感情としては醜悪かつ最悪最低極まりないが、かくいう暴徒側も…。


「クソポリ公共を誰一人生きて帰すな! 俺らの手で馘首にしてやれ!!」


余り向こうを悪く言えないのだった。


ともあれ、合戦は始まった。

発狂仮面はアーミーナイフ片手に奇声を発しながら警察に飛び付いて滅多刺しにしたり首元に噛み付いて肉を引き千切ったりしていた。

なるほど、これが策か。

我輩も負けじと飛び込んでいく。


我輩の武器はソードオフショットガンとミスリル製日本刀だ。


「うぉおおおっ!!」


我輩は雄叫びを上げつつ、警官隊に向かって突進していった。


「死ねぇっ!」


警官隊の中の一人が我輩に拳銃を向けてきたが、我輩は躊躇無く引き金を引いた。その刹那、銃弾の弾道を見切り弾丸を刀身で弾き飛ばし、相手の懐に飛び込み首を切り裂いた。


更に二人目、三人目を斬り捨てると警官隊は我輩を恐れて後退し始めた。


「逃すかぁっ!」


我輩は警官達を追いかけ回した。すると、パトカーの陰から別の警察官が現れてこちらに向けて発砲してきた。


「うわっ!?」咄嵯に身を屈めて避けると、弾は我輩の横を通り過ぎていった。


危なかった。

しかし、この攻撃は想定内だ。

我輩は再び走り出し、警官達の集団に突っ込んだ。

丁度後方から暴徒側のジープが走って来てる、これで一気に制圧しよう。


「ぐあっ!」

「ぎゃあ!」

「痛いぃいい!!」


警官達は次々と薙ぎ倒されていった。

警官共が車に轢き潰されるのを見るのは痛快だ。


「くそっ!」


一人の警官が車から降りてきて、我輩と対峙した。他の警官よりも少しだけ立派な装備をしている。


「お前だけは絶対に許さんぞ!」


彼はそう言うと剣を振りかざして襲ってきた。


「何だと?」


警官は刀を装備していないはずだが…? 我輩はその男の剣を受け止めると、彼の身体を蹴り飛ばした。


「な、何だ、今の脚力は……?」


男は仰天している様子だったが、我輩の方はそれどころではない。


「まさか……」


嫌な予感がしたので、後方にバックステップし様子を見る…どうやらC-4爆薬を全身に巻いてるようだ。道理でゴツく見えるわけだ。


「ハッハー! オレの身体に巻かれたC-4に気付いたな!? 暴徒共の真ん中で爆破させてや…」


ドカーン!


どうやら男は興奮の余り誤って起爆装置を作動させてしまったらしい。哀れな…。

爆風で吹っ飛ばされる警官達を尻目に、我輩はその場を離れた。

暫くして、発狂仮面と合流した。


「お疲れ様」


発狂仮面は笑顔で迎えてくれた。


「何だか拍子抜けだったな」

「そうかい? 僕は楽しかったよ」

「……まあいいか。それで、戦況は?」


発狂仮面は返り血を拭いつつ手短に話す。


「暴徒達の活躍もあって2/3は殺れたかな…お、クソポリ公みッッッケエエェェ!」


発狂仮面は再び戦場に舞い戻った。

吾輩も戻ろう。

それから、休憩時間を挟みつつ夕方。


合戦の決着はついた。結果、暴徒側は約半分死傷、警官側は死者多数ほぼ全滅という有様になった。

警官達と市民が互いに憎み合ってここまで陰惨な殺し合いをするのは異例だろう。


「やったぜー!!」

「ヒャッホーイ!!」


我らは勝どきを上げる。


「皆のおかげだよ」


発狂仮面は満面の笑みを浮かべている。


「ああ、そうだな……ところで、これからどうするんだ?」

「勿論、僕達の勝利を祝って宴会さ!」

「そうか……じゃあ行こう」


その後負傷者は病院へ、五体満足な者は居酒屋に向かい祝勝会を始めた。


「勝利に乾杯!」

「「「カンパーイ!!」」」


その後は皆で大いに本日の合戦について語り合った。


「いやぁ、流石にあの時は死ぬかと思ったねェ!」

「全くだ! あんな化物がいるなんて聞いてないぞ!」

「でも、勝ったから良いじゃないか」

「それもそうだな!」


それから数日後、市役所。

トルチョック市長による暴徒への警備業務移譲式が行われた。


「え~では、これより警備業務を暴徒側に委ねる事を宣言します。皆、よろしく頼むぞ!」


拍手喝采の中、トルチョック市長は退室していった。

こうしてこの日、我が街は暴徒の支配下となったのである。


吾輩個人の戦いはまだ続くが…それはまたの機会に語ろう。



終わり。

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暴動仮面 芥子川(けしかわ) @djsouchou

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