ホワイト・コレクター

武州人也

米寿から白寿へ

 僕は久々に、先月88歳を迎えた祖父とテレビ通話をしていた。地方の漁村にある実家を守る祖父とは、例の新型ウイルスのせいでずっと顔を合わせられないでいる。


「何だかこの頃思うんだが、俺の人生、“白 ”と縁があるよな」


 祖父が突然、妙なことを言い出した。


「白?」

「まず苗字が白石。それと、婆さんの旧姓は白井だろ?」

「ああ、確かにお祖母ちゃん白井だったわ」


 婆さん……僕にとっては祖母だ。祖母は四年前に亡くなっており、祖父の背後には遺影の中で微笑む祖母が写っている。年下の妻に先立たれるとは思っていなかったようで、祖父の取り乱しようは半端でなかった。


「あと、弟の誕生日が八月九日。八と九で「はく」って読める」

「なるほど」


 自分のじゃなくて弟の誕生日をわざわざ持ってくるところに、少し苦しさを感じる。ちなみに祖父自身の誕生日は四月八日だ。あと二日早ければ四月六日、「しろ」って読めたのだが……惜しい。


「あとは……俺の好物が白子なこととか、あと初めて競馬で大勝ちしたときの馬がホワイトベッセルっていう白い馬だったこととか」

「はぁ……」

「それから、米寿まで生きられたのもそうだろ」

「何で?」

「そりゃ、米っていったらピッカピカの白米だろう」


 何だか、だんだん無理矢理になってきたような気がする。どうにもこじつけくさいような……


「ああ、そうだ、大事なことを忘れておった」


 そういうと、祖父は写真を取り出して見せてきた。

 

 そこには、ブルーシートの上に横たえられた半端なく大きなサメが写っていた。でっぷりした白い腹に尖った鼻先をもつ巨大なサメのすぐ後ろには、漁師服姿の祖父が立っている。


「この間ホホジロザメを仕留めたんよ。五メートルはあるぞ」


 サメの写真と祖父の言葉が、それまでの話題を僕の頭の中からすっかり吹き飛ばしてしまった。まるでサメの竜巻に巻かれてしまったかのように。


 ……取り敢えず、元気そうでよかった。この年でバカでっかいサメを獲るとは思わなかったけれど。


「どうせなら、寿まで生きたいもんだ。わっはっは」


 そう語る祖父の声は、まだまだ生気に満ちていた。

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