コント風劇『卒都婆小町Remix』

小田舵木

《コント風劇『卒都婆小町Remix』》


【舞台】

   ①現代(↓から2000年代が正確なトコロですが、1920年代の雰囲気をいかかしたいので、細かいところは無視しましょう)の日本、老人ホーム(起、結)

   ②1920年代、ダンスホール (承、転)

【役】

   ボケ→老女、名は小野おの 歳:99歳 ①

   ツッコミ→ヘルパー ②

   ガヤ→男、女、各1人、その場面毎に設定は変える、複数名を演じる形となります


扮装ふんそう

   老女: 着たきりのパジャマ、下に女物おんなものの格好(ドレス?)

   ヘルパー: ジャージのようなユニフォーム、下にフロックコート調のスーツ

   ガヤ: 男は音声のみ、女は最終シーンのみ老人ホームのユニフォーム


【構成】


〈序(起~承)〉


 介護付き老人ホームの一室、認知症にんちしょううたがわれる①の老女はベッドの上に寝ている。

 そこにヘルパーの②が朝の食事介助かいじょを行う為に入ってくる。


(状況1)

 ①老女の部屋の前、②ヘルパーがひとり言をつぶやきながら、入るのをためらっている。手元には朝食をせた押し車。



②へ 「あ~あ。今日も仕事仕事っと…次は―小野おのさんかぁ…」

②へ 「あの人…認知症なんやけど…認めてへんからなぁ」

②へ 「服ぐん拒否ったりするん勘弁してほしいわ…」

②へ 「後なあ…たまーに俺の事、誰かと勘違いしよんねん。誰でもええけど、変な絡みされんのは堪忍かんにんやで…ま、ブツブツ言うてても始まらんな。さっさと済まそ」




(状況2)

 ②、小野の朝食のぼんを片手に持ち、部屋の扉を開ける。①、ベッドの上に身を横たえている。

 ①、②を一瞥しながらベットの上で起き上がる。嫌そうな顔をする。



①老 「なんだい、あんたは?アタシがココで寝ているのが気に食わないのかい?」

②へ 「おはようございます、小野おのさん。お加減はいかがですか?」 ト老女の言葉を無視する

①老 「加減?いい加減だよ、アタシゃ」 ト言いながら指を折る老女

②へ 「いなら何より…小野さん?なんか数えてます?」

①老 「ああん?別にアンタにゃ関係無いだろう?」

②へ 「まあ…関係ないですねぇ…さ、ご飯食べましょうよ」ト老女のベッドの前に朝食の盆を置く

①老 「今日は何かしら?ビフテキ?」トにわかに若い声色で言う。ただし、老女が無理やり出したてい

②へ 「そんな訳ないでしょ…おかいさんですよー大体、アナタ、総入れ歯でしょうに」

②老 「歯茎でむんだよォ」 トまた老女の声色に戻る、口をパクパクさせる

②へ 「歯茎で、ねえ…見てみたいような」

①老 「なら、肉を用意しな!こんなジジィの吐瀉物ゲロじゃ腹はふくれないよ!」

②へ 「言い方!!まあ、食事があんま美味しくなさそうなのは申し訳ないけど」

②老 「まったく…最近の奴らときたら、老人をうやまう心がないよ」

②へ 「はいはい…済みませんねえー」 ト受け流す、おかゆを老女の口元に運ぶ

①老 「昔はアタシもちょうはなよとでられたモンなのに、今や、ムサイ男にゲロを食わせれる始末しまつ…」 トおかゆを食べながら言う

②へ 「食べながら文句言いなやぁ!」 ト強めのツッコミ

②老 「客になに言うんだい!!」トおかゆを口から飛ばす

②へ 「客っちゃ客やけど、アンタ、俺達の世話になってるやん。言葉が荒かったんは謝るけど」 ト顔に付いたおかゆをぬぐいながら言う

②老 「はん、アタシみたいな美女の相手してんだ!感謝しな!」

②へ 「美女ぉ?昔はどうだが知らんけど、今は普通の婆さんやん!」 ト仕事口調を忘れた感じでツッコむ

①老 「ああん?アタシはなぁ…昔は小野小町おののこまちの再来とまで言われたんだ!」

②へ 「小野小町だぁ~?頭が良くて美人だった、ってか?」

①老 「そうだよォ…男が列を作ったもんさ」

②へ 「想像でけへんわ…おかゆ顔にぶっかけてくるし」

①老 「しかるべき店なら有料のサービスだ、感謝しな!!」

②へ 「マニアックが過ぎるわ!」

①老 「アンタ、この辺じゃ有名だ、SM大好きだって」

②へ 「老人の噂ネットワーク怖っ」

①老 「言いふらされたくなきゃ、アタシを美人扱いしな!!」

②へ 「脅迫すな、ババァ!!」

①老 「交渉だよ!若造!」

②へ 「ほな、もっと交渉材料寄越せや、ババァ!どうせ俺はSM好きだ、そんなの知れたところで問題ねェ!!」

①老 「なんだぁ…昔の姿を見せりゃいいのかい?」



〈破(転)〉


(状況3)

 引き続き、老人ホームの1室、①の老女はベットの上、②は①のかたわら。


②へ 「何だ、ババァ、写真でもあんのか?」 トすっかりの口調の②

①老 「はん、あんな紙切れ、アタシの美しさを写しきってないよ」

②へ 「そんなに美人なのかよ…吉永よしなが小百合さゆり(第一次大戦後~世界恐慌期の女優の方が好ましいか?)みたいな感じか?」 ト老女に合わせた美人を示す

①老 「広瀬すず(最近美人って言われる女性なら誰でも)くらいだね!」

②へ 「詳しいな、最近の芸能界!!」とツッコミ

①老 「んな事ぁどうでもいい!!」

②へ 「ならどーすんだよ」

①老 「少し目を閉じな」

②へ 「何する気だよ」

①老 「細かいトコロにこだわるから素人童貞なんだよ!」

②へ 「やかましわ!!」

①老 「30分3万のあんな店に通うから女もロクに口説くどけないんだよ!!」

②へ 「どこまで広まってるんだ、俺のプライベート!!」

①老 「言いふらされ…」

②へ ↑に被せ気味に

   「言うこと聞いたるから黙れや!!」

①老 「よし…良いかい?ドMの小僧。アタシゃ…昔、一次大戦いちじたいせんが終わり、恐慌きょうこうが起きる前、大衆が文化を享受きょうじゅし始めたあの頃―」 トベッドの上から立ち上がる老女、99歳とは思えない動き

①老 「『モダン・ガール』だったのさ。髪はクロシェ―今はボブって言うかい?―服はアッパッパ」

②へ 「服の名前!!」 トツッコむが、状況に押され気味

①老 「ゆるいワンピースだよ!!」

②へ 「へいへい…良いから座んなさいよ」 ト閉じていた目を開けながら言う。

①老 「いいや、座らん!!あの時はねぇ…」 トダンスをするかのような動き、しかし足元あしもと覚束おぼつかない

②へ 「いや転んだらいよいよ死ぬて!!めぇや!!」

①老 「はん!!昔はコレで鳴らしたもんさ。この優雅ゆうがなステップに―あの陸軍少将しょうしょう深草四郎ふかくさしろうも夢中だった…」 トクルクル回る老女

②へ 「脚、ひねる前に止めれ!!」 ト老女の手を取る、老女力強く②の手を握り返す

①老 「それで良い!!さあ、踊れ―」 ト二人回りだす。

①老 「そして、目を閉じな小僧!!次に開ける時は―ダンスホールだよ」


(状況4)

 老人ホームの個室から、ダンスホールに舞台は移る。ベッドはホールのそでのテーブルを備えた席になる(書割みたいなんを回転させる?)


②へ 「ダンスホールになる訳ねぇだろ…老人ホームなんやから―」 ト目を開ける

②へ 「って!!マジでダンスホールや…」 ト言いつつ、自らの服装を見ると、スーツ姿になっているヘルパー(ジャージを脱いで対応?)

②へ 「しっかし―何したんや?あのババァ?」

①老 「私のことかしら?」 ト若返った老女登場。以下、①女とする

②へ 「どちらさんですかね?」 トひっくり返った声で返事

①女 「非道ひどい言いざまね?貴方あなたに誘われたから、来たのに」

②へ 「はい?」

①女 「だから―②―さん、貴方が誘ったんじゃない?」

②へ 「何、そういうていなの?」

①女 「そ。さぁ、先の不幸も知らず―浮かれ、騒ぎ、消えゆく、人々をご覧なさい」

②へ 「うっわ、あそこでおっさんおさつ燃やしとる…教科書ちゃうねんから」

①女 「戦後の特需とくじゅにあぐらをかいた阿呆あほうね…先は恐慌だと言うのに―」

②へ 「社会派か!!」 ト調子を戻しツッコミ

①女 「社会よ、ココは」 ト真面目な調子崩さず

②へ 「調子狂うわ…」

①女 「さあ、踊りましょう、四の五の言っても始まらない―」 ト②の手を取り踊りだす


ガヤ女①「あれ、小野のお嬢様よ、美しいわねえ」

ガヤ男①「小野のご令嬢れいじょうが男と踊ってるぞ」

ガヤ女②「小野のお嬢様、わたくしとお話くださらないかしら」

ガヤ男②「あんな男より、僕のような役人と―」


②へ 「周りからねたみの視線がぶっ刺さるわあ…」

①女 「私が言っていた事、分かったかしら?」

②へ 「分かったから帰してくれ…しんどいわ」

②女 「まあまあ…もう少し付き合って下さらない?」

②へ 「なんでぇや…アンタは美人、認めるから」 ト少し強めに言う

①女 「今日…深草四郎ふかくさしろうが私に会いに来る…」

②へ 「さっき言ってたアンタに惚れた男かい?」

①女 「そう。私に言い寄ってきた陸軍の少将しょうしょう…」

②へ 「アンタとソイツは結ばれ―なかったのか…」

①女 「そう。私と結婚したければ―百回私を訪ねなさい、そんな約束の百回目…」

②へ 「卒都婆小町そとばこまちじゃねぇんだから」

①女 「たまたま私が小野おのせいだったから始めた悪ふざけ―真面目な深草君は果たそうとしたの」

②へ 「アンタ、大概性格悪いな?」

①女 「でしょうね。でも美貌にあぐらをかいた私は―孤独な老女と成り果てる」

②へ 「で。俺に迷惑をかける、まったく」



〈急(結・オチ)〉


(状況5)

 引き続きダンスホール


ガヤ男 「陸軍の深草、小野のご令嬢に『お百度ひゃくどもうで』してるらしいぞ」

ガヤ女 「そうなの?でも、深草さん、今度、ロシアに行くみたい」

ガヤ男 「あの―ソビエトが跋扈ばっこするロシアにかい?殉死じゅんしするんじゃないか?」

ガヤ女 「少将しょうしょうなら―三井や三菱で遊べるでしょう、死にはしないわ」

ガヤ男 「とは言え、思いをける小野の『小町こまち』には会えなくなる訳だ―」

ガヤ女 「喜ばしいやらなげかわしいやら―わたくし、今度、小野様にお声をかけようかしら―」

ガヤ男 「その時は僕もお付き合いしよう」

ガヤ女 「まあ、嫌らしい」

ガヤ男 「ははは…」


②へ 「おい、聞こえたか?」 ト①に呼びかける。

①女 「知ってる」 ト被せ気味に返事

②へ 「アンタ―彼の事、見捨てたのかい?」 ト少し真面目にたずねる

①女 「いけず、というヤツね」

②へ 「京都の女のアレか」

①女 「童貞の貴方あなたは知るよしもない話ね」

②へ 「俺は確かに童貞だが―」

①女 「何よ?」

②へ 「なあ、アンタ、良いM奴隷どれいってどんなんか分かるか?」

①女 「知らないわよ」

②へ 「S、即ち女王を気づかう、案外SMはMが場を主導しゅどうするんだ」

①女 「へぇ、気持ち悪い」

②へ 「案外、アンタは―深草少将の手の上じゃないのかい?」

①女 「私が?」

②へ 「ああ―『お百度詣ひゃくどもうで』ってハナシになった時点で―アンタは彼に惚れてたんだ」

①女 「そんな訳―」

②へ 「なんで、あしらわなかった?」

②女 「それは―」

②へ 「彼は―やがて、遠いシベリアだかどっかで死んじまう。その後悔こうかい背負ってアンタは99になるんだ」

①女 「私は―」ト頭を抱え、うずくまる

②へ 「おい?」ト慌てた様子


(状況6)

 ダンスホールだが、演者2人にクローズアップ

 ①女に深草少将の霊がく。衣裳はそのままで良い。声色は男のものに。優男やさおとこ風が好ましい。よって、以下①女の表記を①深に変える。


① 深 「さぁ―そこの君、小野のご令嬢のもとともをして欲しいのだが」 トこのタイミングで男声

②へ 「何言ってんだ、ババア?」 トツッコミ、②はまだ気づかず

①深 「僕は―近々ロシアへ行くんだ、今日、思いをげなければ―」

②へ 「あんたは…死ぬ」トここでさと

①深 「ああ。僕は―戦場でもなんでも無い街中まちなか卒中そっちゅう起こして死ぬんだよ」

②へ 「あんた―霊だって言うのかい?」トツッコミ

①深 「ああ、そうさ、小野のご令嬢の許に99度も通ったあわれな深草という霊さ!!」ト声を張り上げる

② へ 「あんたさ…今どんな格好してんだい?」 ト優しい口調で

①深 「ん?軍服はダンスホールに野暮やぼだから―山高帽やまだかぼうにフロックコート…ステッキも」

②へ 「阿呆あほう、よーく自分の体を見ろ!!」

①深 「コレは―もしや…」 トめる

②へ 「お前のおもい人だ、馬鹿野郎!!」 ト全力でツッコミ

①深 「これは―失敬しっけい

②へ 「俺に謝るな!!」

①深 「で?どうしたら良い?」

②へ 「俺に聞くぅ?」

①深 「ああ。小野のご令嬢の体、うるわしきはなだ」

②へ 「はよ、そこから出ぇや」 トあきれ気味に突っ込む

①深 「そしたら僕の想いは―」

②へ 「叶わんね」

①深 「ああ、やっとの想いで来たのに…」

②へ 「知らん。ついでに今の小野さんはババァだよ、しわくちゃの」

①深 「ふん…」 ト考え込む

②へ 「諦めろ、そして俺を元の時代に帰せよ」

①深 「…」 ト更に

②へ 「今日は給料入るんだ…早く仕事終わらして、行きたいんだよ、あの店によ」

①深 「良いことを思いついた―」 ト少しめたすえに言う

②へ 「へ?」

①深 「君の体をうばえば良いじゃないか―」

②へ 「そも、ここ、ババァの思い出の中じゃねーのか?」 ト少しあせった声

①深 「そうだろうが―関係ないね」

②へ 「それでえんか自分!!」 トツッコミ

①深 「構わん」

②へ 「まさかのホラー展開!!」


(状況7)

 依然としてダンスホール

 ①と②もみ合いになる

 ①、②の胸ぐらを掴む


②へ 「堪忍してぇや」

①深 「さあ、思いをげさせよ―」

②へ 「いや、おっさんにからんで何してんねん!!」 トもがく

①深 「君のくちびるから中に入るのだ―いざ」

②へ 「見た目美女の中身おっさんに唇奪われるゥ!!」

①深 「大人しくせぃ!!」

②へ 「初めてのキスが―中身おっさんは性癖ゆがむて!!」

①深 「うぉぉぉ…」 ト②の顔に迫る―


 【ココで場面転換、元の老人ホームに戻る。①と②は姿が見えない、部屋の前に②の同僚の女性】


ガヤ女 「②ィ、朝食だけでどんだけ時間食ってんねんな…」

ガヤ女 「フォローすんのしんどいねん…」 ト部屋の扉を開ける


 【ここで①老女と②ヘルパーの姿が見える、調度キス寸前】


ガヤ女 「②ィー何してんねん!!」

②へ 「いや、ちゃうねん!!」

①老 「違わないよ!!」 ト老女の声に戻し、こたえる

②へ 「いや、お前、分かってるやろ!!」

①老 「犯されるぅ~」

ガヤ女 「イヤぁあぁぁぁ!!」



【終劇】



 ※今作、『卒都婆小町Remix』を制作するにあたり、以下の文献・サイトを参考にしたことを明記します。


三島由紀夫 「近代能楽集」―「卒塔婆小町」 1968年 新潮社

天野文雄 「能楽名作選 上」―「卒都婆小町」 2018年 株式会社KADOKAWA

the能.com 演目辞典 卒都婆小町

https://www.the-noh.com/jp/plays/data/program_069.html

the能.com 演目STORY PAPER:卒都婆小町

https://www.the-noh.com/download/download.cgi?name=069.pdf

『モボ・モガ』 ウィキペディア

https://ja.wikipedia.org/wiki/モボ・モガ

『シベリア出兵』

https://ja.wikipedia.org/wiki/シベリア出兵


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コント風劇『卒都婆小町Remix』 小田舵木 @odakajiki

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