ゆらゆら陰陽師と…
兎緑夕季
陰陽師の戯言
平安の世ーー
陰陽師が活躍した時代。
「いや〜陰陽師を呼んでよかったよ」
「お役に立てたのなら幸いな限りにございます」
加納春信は公家の男に挨拶をして屋敷を後にした。空には大きな月がのぼっている。
用意された牛車に乗り込み、家路につこうとしていた。
「おい!」
春信は耳元で喚く声を無視した。
「お〜い!聞こえてるんだろ?返事ぐらいしろよ!」
春信は盛大なため息をついた。
自分の体の周りを漂う冷気が濃くなる。
斜め後ろを振り向けば、冷気の主である妖が姿を見せた。
「どうして、俺を呼ばなかった!」
二本のツノを生やしている以外は人間そのもの妖は美しい容姿をしている。
「お前の手を使うほどの案件ではなかっただけだ。どうせ、早くこの体がほしいのであろう。だが、そうはさせん」
この妖に好まれていく年を重ねたか…
妖の力は強大。出会った頃はむしろ好機と捉えた。何せ、力を貸してもらえれば陰陽師としての能力はあがる。その見返りが死後、妖に体を差し出すというものではあったが、そんなもの些細な事だ。しかし…
「お前とてこんな老いぼれの体がまだ欲しいと思っておるのか?」
「うん?貴様今年で何歳だ?」
「八十八を迎えた」
「だから、どうしたというのだ?俺たちのような妖からすれば、小僧だよ」
「ウハハハッ!そうか。そうだよな」
「急に笑うとはなんだ?」
「いや、すまんな。切磋琢磨した仲間たちが次々この世を去り、気落ちした。なんせ最近ではわしを不老長寿の薬でも飲んでいるのでは?噂する者もおる」
「飲んだのか?」
「まさか…」
「それはよかった。でなければいつまでもお前の体をもらえぬからな」
「心配するな。その時が来たらお前にわしのすべてをくれてやる」
「おう、当然だ」
「だが、まだその時ではない。わしを陰陽師最高齢などと抜かしておる奴らよりも長生きしてやるわ」
白い髭に濃い皺が無数にある春信はゆったりと揺れる牛車の中で愉快に笑った。
今宵も妖怪日和である。
ゆらゆら陰陽師と… 兎緑夕季 @tomiyuki
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