第25話
いったいなにがどうなったのか。竜馬にはわからなかった。崩れてめちゃくちゃになった平屋を見た瞬間、視界が赤く染まった記憶だけが残っていた。
気がつくと、両手に捕まえた鬼の頭を必死になって潰そうとしている自分がいた。
頭が手鞠に見えるほど、大きな手だった。
指先に力をこめると、黒い爪が頭にめりこんだ。
薄黒い、分厚い皮をした両手で、万力みたいに締め上げる。
ぐしゃ。
頭が潰れた。みかんのような手応えのなさに、竜馬はおこりに罹ったように震えた。
(こんなもんで、許せるか!)
怒りが身体のなかをいっぱいに埋めつくしていた。それはまるで生き物のようにむくむくと膨らみ続け、今にも皮膚が弾けて何かが出てきそうだ。自分なのに自分ではない、恐ろしい何かが生まれそうだ。
(美夜さん!)
美夜は死んだかもしれない。
今度こそ、はっきりとした死が彼女を連れ去ってしまったかもしれない。
(俺のせいだ! 俺が━━!)
怒りの感情は、誰よりも自分自身に向いていた。
どこにもぶつけようのない苦しさをどうにかしたくて、竜馬は両手を振り回し、両足を踏みならして暴れた。
オオオオオオオッ!
人間とは思えない吠え声が、腹のなかまで響いた。
頭で考えるより先に手が、足が動く。鬼が封じられていたお堂を蹴飛ばし踏みつぶし、庭木を次々と引っこ抜く。
こんなパワーがいったい自分のどこに眠っていたのか? あとからあとから湧き上がってくる。怒りを巻き込み、溢れくる。
「ウオッ」
後頭部に爆弾をくらったような衝撃に見舞われた。
一発目で前のめりにたたら踏んだ竜馬を、二発目が襲う。見事、顔面から地面に激突し、頭に血が上った。
「この馬鹿ザル! いい加減にしろ!」
向けられた言葉の半分も聞いていなかった。目の前の憎たらしい顔を殴りつけようとした竜馬は、
「竜馬っ!」
叱りつける口調で名前を呼ばれ、ピクリと大きな耳を震わせた。
「俺だよ。わかるよな」
(? ……誰だ? ……一巳? 一巳だ)
怒りではち切れそうになっていた肩から、ふっと力が抜けた。
「もういい。もう十分だよ。お前の気持ちはわかったから」
「ウ……?」
「落ち着け。姉さんは無事だ」
一巳の腕に、抱きかかえられた美夜の穏やかな寝顔があった。
(……美夜さん? 美夜さん! 無事……だった……!)
竜馬はしゃがみこんだ。
まるで穴の空いた風船だ。行き場を無くし暴れ回っていた熱いものが、たちまち身体から抜けていった。
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