第23話
由良の言う敵の術者の差し向けた二番手の化け物が、ここまで追いかけてきたのでは?
犬首山での悪夢再び━━の予感は当たった。
化け物がのっしのっしと近づくたびに、怯えたように地面が震えた。しかし、あと数メートルのところまで迫った化け物の顔を見て、竜馬はギョッとした。
「どうして、あいつが出てくるんだ?」
あいつは確かに、お堂に封じられたはずの鬼の像。
「都市伝説にも恐怖スポットにもなってないし、見たことあるのも俺と一巳だけで、どっちも余裕で怖がってないのになんで?」
「ごめん」と、突然一巳が言った。
「俺、あの顔を初めて見た時、心臓が口から飛び出るかと思った。本当はすごく怖かったんだ。たまに夢に出てくる」
今になって白状した。
「お前もだろ?」
一巳が横目で竜馬を睨んだ。
「そっ……! 俺はそんなことは! そんなことは……、なくはない」
竜馬もソッコー謝った。今日まで意地でも「怖がっていない」つもりでいたが、本当はずっと怖かったのだ。そうでなければたった一度見ただけのあの顔が、こんなにもくっきり脳裏に焼きついているはずがなかった。
筋骨隆々とした身体は、たとえるなら仁王像。上半身は裸、下半身は薄布のズボンを履き、草鞋を履いている。
問題は━━首から上だった。人々を襲っては食ったという鬼の頭だ。それは、鬼と聞いて誰もがイメージするのとはまったく違う顔を持っていた。
青白く痩せた面に削げた頰。
眉根に刻まれた深い皺。
歪み、つり上がった両眼。
角のない頭に黒髪をザンバラに振り乱し、朱色に塗られた剥き出しの歯はガチガチと鳴っている。
怨みに憎しみを足してこね上げ作った、まるで幽霊面だ。
竜馬が幽霊や妖怪の類が苦手になったのも、元をたどればきっかけはあの鬼の顔だったかもかもしれない。
(でも、今夜で終わりだ! 全部を粉砕してやる!)
近づいてくるアレを見た時は尻込みしたが、落ち着いて考えれば、格好の機会だった。抱いていた恐怖心ごと、この腕で潰してしまえる。
「お前は関わらないと決めたんだから、手を出すなよ」
竜馬は手を上げ、一巳を制した。
「まかせろ」
左右の腕を水を切るように大きく振ると、眩い光の帯びが遠くまで伸び、一瞬で戻ってきた。両腕を両刀に変えるコツは、今朝までかかって練習し、ほぼつかんでいた。
竜馬は負ける気がしなかった。敵は山犬の化け物のように大きくなかったし━━自分とは、頭ひとつ高い程度の差しかない━━何より鬼は武器を持っていないのだ。
(あいつ、たぶん俺よりのろまだ!)
自分の直感を躊躇うことなく信じて、竜馬は飛び出した。実際、スピードでは、一巳の方が鬼に勝っていると感じた。
こららの攻撃に呼応し、向かってくる鬼の動きがよく見える。
竜馬は瞬時に軌道修正、すれ違いざま、鬼の胴を右の刀で大きくなぎ払った。
一撃必殺!
竜馬の頭のなかでは、漫画の見開きページのごとくだった。まさに「一撃必殺!」の文字を背負って、華麗に技を決めていた。胴を真っ二つにして、鬼を見事仕留めていた。
しかし、現実は━━。
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