第11話
牙を剥き飛びかかってきた見たこともない獣から、竜馬と一巳はとっさに左右に飛び退って逃げた。
「なんだよ、こいつら!」
「俺に聞くな!」
「山犬の化け物って、ほんとにいたのか!?」
どう考えてもそうとしか思えなかった。
一匹ではなく一頭と数えるに相応しい獣は、牛ほども大きい。触れれば切れそうにごわついた灰色の毛に、全身を覆われていた。涎を垂らして唸る口には、鋭く巨大な犬歯。ライオンもトラもかなわない。これで瞳が赤いとなれば、化け物と呼ぶしかない。
なぜ、こんな現実に存在しないはずの生き物がいきなり自分たちの前に現れたのか? 説明はまったくできない二人だったが、おそらく神隠しと関係があるのだろう見当はついた。そして、やつらが━━そう、相手は一頭ではなかった。ざっと数えて十数頭はいた━━自分たちを食べる気満々でいることだけは間違いなかった。
戦わなければ、食われる! 殺される!
(どうする! こっちはなんも武器がねぇってのに!)
使えるものはないか? とっさに周囲を見回した竜馬から数メート離れた場所で、一巳も同じ動きをしていた。
「う……?」
竜馬は両手を見た。気がつけば、肩から先が今にも燃え上がりそうなあの感覚に包まれている。指先が震えだしそうにムズムズしていた。
ぽうっと。両の手のひらが丸い光に包まれた。
次の瞬間━━!
「うおっ!?」
竜馬は叫んで、思わず両腕を振り回していた。
なぜなら、ずっと抱いていた「両手が別の何かに変わってしまいそうな予感」が現実になったからだった。
左右とも肘から先が刀に変化してしまった。
虹色の輝きに包まれた、光の刀だ。
「竜馬!」
こちらの力を測るかのように様子を窺っていた山犬の一頭が、突如として現れた刀に刺激されたのか。二階の高さに跳ねたと見るや、弾丸の勢いでぶつかってきた。
両腕を両刀とみなし、とっさに構えをとったのは、竜馬の武闘家としての本能だった。
ズン!
竜馬の刃が一頭分の重みをまともに受け止めた。踏みしめたつもりの両足が地面を抉って後退したものの、刀は曲がることも折れることもなかった。
自分の肉体の一部となった武器の威力を竜馬が思い知ったのは、獣が真っ二つになった瞬間だった。眉間から尾の先へと綺麗に縦に切断された身体が、竜馬の後ろに音をたてて転がり落ちた。
最初の一頭が倒されたのを合図に、山犬たちは次々と襲いかかってきた。
竜馬の力に連動してか、それとも闘気によるものなのか。刀は伸びたり縮んだり、刃の部分が広くなったり厚くなったりとさまざまに形を変えた。だが、竜馬はまだうまく操ることができない。
(宮本武蔵かよ!)
それでも頭のなかで二刀流をイメージしながら、必死に応戦した。
「くそっ」
思うような斬道が描けなかった。狙った場所からどうしても数ミリずれてしまう。ずれを取り戻そうとすれば、動きに無駄が出る。無駄が重なれば、疲れが加速する。
すぐに足がふらつくほど息が乱れはじめた。
(あと何頭だ?)
右腕でなぎ払った一頭が展望台の柵をぶち壊し、斜面を転がり落ちていった。
急に動きを止めた竜馬を警戒してか、残った山犬たちもそろって動かなくなった。
(やばいな。まだ半分はいるぞ)
残り二、三頭のつもりだったのに。こんなにバテているわりには、戦果があがっていなかった。自分一人の手にはとても負えそうにない。
「━━ん? あれ?」
(一人って……一巳は?)
慌てて探すと、一巳と目が合った。一巳は明らかに戦いのとばっちりを避けた場所に立っていた。
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