第12話

「なに突っ立ってんだよ!」

「いや、感心して見てたんだ」


 思わず怒鳴った竜馬に返ってきた言葉が冗談でもなんでもないのは、顔を見ればわかる。


「お前、この世界から消えていた間、本当に神的な何かの下で修行を積んだんじゃないのか。夢を見てたわけじゃなかったんだ。その異次元の力が証拠だ」


 素直な驚きと興奮で瞳を明るくしている一巳からは、戦意も殺気もまるで感じられない。道理で獣たちも、殺る気剥き出しの竜馬一人に集中するわけだ。


「感心してる場合か! お前も戦え!」

「俺は……」


 一巳は悔しそうな表情をチラリと覗かせた。


「俺を助ける気ねぇのかよ!」

「今の俺では足手まといになりかねない」


 謙遜ではない。きっと本心からそう思っている。

 自分たちに埋めようのない力の差が開いた現実を目の当たりにし、ショックを受けているに違いない一巳に、竜馬は教えてやる。


「俺の修行が夢でないなら、お前もだろ! 足を見ろよ!」


 竜馬もたった今気がついた。一巳の両足が淡い光に包まれていた。竜馬に力が発動する前、両手に灯った光と同じだ。 

 超人的な力を手にした竜馬の戦いぶりに興奮するあまり、自分の身体の異変に気づかなかったのだろう。あの居ても立ってもいられないムズムズした感覚と、血液が沸騰するような熱さと……。一巳はようやく思い出した顔つきになり、視線を下へと滑らせた。


「お前は足が武器になるんじゃないのか!」


 二人の様子を窺っていた残りの六頭が、一頭、また一頭と大きく身震いした。鋭い爪を見せつけるように足を踏み出し、ジリリと距離をつめてくる。

 第二ラウンドのゴングが鳴ろうとしていた。


「そうだ! ひょっとして、足からエネルギー弾でも出るんじゃねぇ? ボールを蹴る時みたいにしてみろよ」


 焦った竜馬は早口になった。とっさにサッカーをイメージしたのは、単純に漫画的にカッコいい、絵になると思ったからだったが、一巳はその無責任なアドバイスを聞き終わるか終わらないうちに実行に移した。


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