萩市立地球防衛軍★KACその⑤【88歳編】
暗黒星雲
88歳の誕生日
「誕生日おめでとう!」
パンパンパン!
その場にいた全員がクラッカーを鳴らした。
中心にいた少女の周りで、紙のリボンがふわりと舞っていた。
えんじ色のリボンが可愛らしいセーラー服に身を包んでいる彼女は、まだ思春期前といったあどけない表情をしていた。肩まである黒髪を三つ編みのおさげにしてる可愛らしい少女だ。
彼女は旧海軍の重巡洋艦最上。そのインターフェイスである。
狐耳のビアンカが祝辞を読み上げる。
「今日、3月14日は彼女の誕生日です。88年前の昭和9年に進水されました。その後、昭和44年に沈没されるまで八面六臂の大活躍をされた超優秀で頼れる主力艦です。今日は彼女の米寿をお祝いし、また、過去において日本の為に身を捧げた人々と兵器に対し深く感謝するとともに、彼らに哀悼の意を捧げたいと思います」
その言葉に防衛軍隊長のララが頷く。
「という訳で、今日は無礼講だ。酒はないが料理は沢山用意してある。遠慮はいらんぞ」
ここ、萩市立地球防衛軍の指令室にはメンバー全員が集っていた。その中の会議用の長テーブルには萩近海で採れた魚介類の刺身や寿司、地元特産のむつみ豚や長州和牛の肉料理が所せましと並んでいた。
「ところでララさん? お祝いの席でありながら、何故、ワインの一本もないのかしら?」
ララをジト目で見つめるのは総司令のミサキだった。あからさまに不満げである。
「姉さま。まだ午前11時です。ワインも用意してありますが、それは二次会以降でご賞味下さい」
「あら。けちんぼね」
「ケチとかどうとかという問題ではありません。何かにつけてお酒をせびるその浅ましい根性をどうにかしてください」
「あら? 言われちゃったかな?」
「まあまあ。姉妹喧嘩はほどほどに。今日は最上さんの、77年ぶりの復活と誕生日のお祝いですから」
ララとミサキの、実は大したこともない日常的な諍いに割って入ったのは長門だった。
「スマン」
「ごめんなさいね。長門さん」
「いえいえ。どういたしまして。ところで最上さん。77年ぶりの地上はいかがかしら?」
急に話を振られた最上はというと、赤面して俯いてしまった。
「いえ。このような姿で地上に存在している事に驚愕しています。そして皆さまと直接お話できる事にも戸惑っています」
「大丈夫よ。すぐに慣れるわ」
「そうでしょうか? こんな女の子の姿に慣れるとか信じられないのですけど」
「ええ。大丈夫よ。男の選び方と貢がせ方は、私がしっかりとレクチャーしますから。最上さんは、そうですねえ。思春期真っ盛りJKが趣味の、イケナイオジサマがバカみたいに釣れますよ」
「釣れるだなんて……でも、私みたいな貧相な体形の女子に夢中になる男性っているのかな」
「貧相?」
最上の言葉に疑問を持ったのか、ミサキが彼女を後ろから抱きしめた。そして二つの胸の膨らみをやわやわと揉む。
「ひや!」
ビクリを体を硬直させる最上だが、ミサキは彼女のうなじにふうっと息を吹きかける。すると最上は身体を弛緩させ、ミサキに寄りかかってしまった。
「うんうん。これは82のBかな。意外と着痩せしてますね。この、やや小ぶりな美乳系は、実は大人気なのよ」
ミサキの一言に反応した長門が最上の顔を覗き込む。
「Bなの? 最上さんBなの?」
「バストのサイズなんて知りません。だって、私が接した事があるのは皆さん殿方ですし、艦内も男臭い環境でしたし」
「そうなのね。私、羨ましいなんて思ったりしませんから」
などと言いつつ目を背けた長門である。普通に羨ましかったらしい。ちなみに彼女は78のAである。
じゃれ合っている三人にララが注意をしようとしたその時、指令室内にアラームが鳴り響いた。ソフィアが現状報告を始める。
「萩市紫福地区に未確認攻勢生物が出現しました。大板山たたら製鉄遺跡付近です。むつみ基地のイージス・アショア護衛部隊が現地に急行しておりますが、到着まで15分程度要します。これは無人偵察機による映像です」
炎に包まれた山林の中ほどに、額から三本の角が突き出ているカブトムシのような姿の大型攻勢生物がいた。その三本の角が共鳴して発光し、熱線を放射した。着弾点から爆炎が吹き上がる。更にその大型攻勢生物は自身の羽を広げ、炎を煽って火災をさらに広げていた。
「体長は約75メートル。ワームホールから突如出現したものと思われます」
「むつみ基地のイージス・アショアが叩かれると不味いな。奴は空を飛ぶのか?」
「現状は不明です。しかし先程、羽を広げて炎を煽る行動とりました。形状と振幅数から判断し、飛行可能な個体であると思われます」
ソフィアの説明に頷きつつ、ララが指示を出す。
「黒猫とビアンカは鋼鉄人形にて待機。椿と正蔵、ソフィアはハイペリオンにて待機。最上はテレポートで現場に直行だ。私と総司令が乗り組む。最上発進」
「了解です」
ミサキの抱擁から離れた最上が敬礼した。その瞬間、指令室は眩い光で溢れ、その場にいた人員は全て配置についた。
そしてここは萩市紫福地区上空である。例の大型攻勢生物の直上に浮遊しているのは重巡洋艦最上であった。
「重力制御は良好に作動中。現在、目標の直上3000メートルです」
最上の報告にララとミサキが頷く。
「主砲発射だ。左舷90度、艦体をロールさせ斉射しろ」
「了解」
最上は艦体を斜めに倒し、三連装の主砲三基を左舷に向けた。
「三連装? 最上の主砲は20・3センチの連装砲ではなかったのか?」
「ララさん。細かいことはいいの。主砲は三連装。これが宇宙戦艦アニメの標準なのよ」
「いや、アニメの話など」
「最上さん、斉射して」
「了解」
艦体前部に設置してある三連装砲三基が一斉に火を噴いた。
9発の実体弾が発射され、全てが攻勢生物に吸い込まれた。そして一気に爆発した。
「やったか?」
「いえ。直上に攻勢生物です」
「何だと?」
「テレポートにて被弾を回避した模様」
鞘翅(しょうし)を開き、後翅(こうし)を激しく振動させている。
「右舷対空砲斉射!」
右舷の連装高角砲が一斉に火を噴いた。続けて25ミリ機関銃が多数の炸裂弾をばら撒いた。
しかし、砲弾はことごとく跳ね返された。
「あれは……シールドか?」
「肯定。重力波シールドです。実体弾は確実に弾かれます」
「構わん。主砲発射!」
左舷から右舷へ、180度向きを変えた主砲が火を噴いた。九つの光弾が大型攻勢生物に吸い込まれ炸裂した。その衝撃に押され、あの化け物甲虫が揺らいだ。
「効いているのか」
「ダメージは与えていません」
「くそっ」
ララは悔しそうに歯ぎしりをした。最上搭載の火砲では、あの攻勢生物を倒せない。
そして、攻勢生物の角が輝いて熱線を放射し、それが最上を直撃した。艦体がぐらりと揺れる。
「大丈夫か?」
「数発なら問題ありません」
最上自身はまだ余裕がありそうだ。しかし、形成を逆転させるためには何か別の一手が必要だ。ララが思考を巡らせているその時、ミサキが最上に話しかけた。
「最上さん、アレを飛ばしましょ」
「はい」
不審な表情のララを無視し、ミサキが指示を出す。
「カタパルト接続。94式発進せよ」
後部甲板に設置されている航空機用のカタパルトに、二機の複葉機が姿を現した。そして、爆発音と共に火薬式のカタパルトが作動し、複葉機が飛び上がる。
「姉さま? アレは?」
「94式艦上爆撃機です。重力子爆弾を搭載しています」
「重力子爆弾?」
「ええ。この最上は未知の攻勢生物と戦う兵器ですからね。その位の装備は当然です」
「しかし、何故94式なのですか? 航空機ならば防衛軍の彩雲があるし、自衛隊の戦闘機でもよいのでは?」
「あの94式もね、今年で88歳なの。今回は特別出演なのよ」
ララはその一言で納得した。運営の情け容赦ないお題に対する無理くりの回答がここにあったのだ。
「全火砲で斉射せよ。こちらに注意を引き付ける」
「了解」
最上の主砲、高角砲、機銃が一斉に射撃を開始した。砲弾は全てシールドに弾かれているが、攻勢生物の注意も最上に集中していた。断続的に放つ熱線は、全て最上に向かっている。
遥か上空へと高度を上げた二機の爆撃機が、攻勢生物へと向けて一気に急降下してきた。そして二発の重力子爆弾を放った。
重力子爆弾は攻勢生物のシールドに接触し炸裂した。虹色の光芒が溢れシールドごと攻勢生物を包み込んだ。そして一気に地面へと落下し、数十メートルほど沈み込んだ。その後、攻勢生物は激しく発火し爆発した。
「凄まじい威力ですね」
「ええ。瞬間的ですが、効果範囲の重力を数千倍にするのです。対象はぺしゃんこになり、その高圧による高熱で全ての物質は融解します」
落下地点では直径数百メートルの竪穴が生成され、その中では溶けた大地が溶岩となり煮えたぎっていた。
「一件落着だな。これからもよろしく頼むぞ」
「はい。こちらこそ」
最上とララが熱い握手を交わしていた。ミサキはというと、どこからか取り出したスパークリングワインに頬ずりをしていた。
萩市沖の見島に裏宇宙へと繋がるワームホールが存在していた。先般、戦艦長門の活躍によりそのワームホールは消滅した。にもかかわらず、裏宇宙より飛来したと思われる攻勢生物が度々萩市を襲うようになった。
萩市立地球防衛軍に所属している重巡洋艦最上がその攻勢生物を撃破した。88歳の彼女が地球の平和を守ったのである。
※重巡洋艦最上の誕生日は進水時としています。昭和9年3月14日ですね。また、九四式艦上爆撃機は正式採用された時を誕生日としています。昭和9年11月。当初は九四式艦上軽爆撃機でした。字数の関係でメカの解説は紹介文に記載します。
萩市立地球防衛軍★KACその⑤【88歳編】 暗黒星雲 @darknebula
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