88歳の長老サル最期の自慢話

アほリ

88歳の長老サル最期の自慢話

 「ええっ!!長老様が危篤なんだって?!」


 「ええっ!?本当かい?!」


 「マジかよ!!」


 「おらぁ、長老様には何度もお世話になっただよ!!」


 「行こう!!みんな!!長老様のとこへ!!」


 うきーーーっ!!うきーーーっ!!うきーーーっ!!うきーーーっ!!うきーーーっ!!うきーーーっ!!うきーーーっ!!うきーーーっ!!うきーーーっ!!うきーーーっ!!うきーーーっ!!うきーーーっ!!



 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!



 とある山奥のサル山で、以前から病に伏している推定88歳になる長老サルのソイチが重篤だと聞き付けたサル群団が一斉に木々を渡って立派な大木の枝がいっぱい重さってる広場で寝ている長老サルの元へサル仲間達が一斉に集った。


 「長老!」


 「長老!」


 「長老!目を覚ましてください!!」


 「長老!死んじゃいやー!!」


 うきーーーっ!!うきーーーっ!!うきーーーっ!!うきーーーっ!!うきーーーっ!!うきーーーっ!!うきーーーっ!!うきーーーっ!!


 大勢のサル達がが取り囲む中、死期がせまりつつある長老サルのソイチは、腹這いからムクッと起きて辺りを見渡した。


 「やあ、ゴリラの皆さん。良く来たねぇ・・・」


 「わたしはゴリラじゃありませーん!」


 「俺らニホンザルですがぁ?」


 「僕もニホンザルでぇす!!」


 「あちきもニホンザルですがぁ?」


 うきーーーっ!!うきーーーっ!!うきーーーっ!!うきーーーっ!!うきーーーっ!!うきーーーっ!!


 元気な時から言いはなってきた冗談めいた長老サルのソイチの返答を聞いたサル達は、まずはホッと一安心した。


 「皆集まったからには、ここで1つ。わしの若い頃の自慢話をしようかね?」


 うきーーーっ!!うきーーーっ!!うきーーーっ!!うきーーーっ!!うきーーーっ!!うきーーーっ!!


 「そら始まった!!」


 「長老お得意のホラ話!!」


 「この前は何だったっけ?」


 「戦争が起きた頃に爆撃機がこの山の上にやってきた時に、長老が投げた石ころが爆撃機に命中して撃墜させたとか。」


 「高度成長期に、山の切り開いて遊園地を建てようとした人間どもの目の前で、若い衆集めて全員の組体操で巨大な怪獣を形成して、人間どもを追い払ったとか。」


 「リゾート開発でまたしても、木を伐ってきた人間どもを追い払う為に・・・何だっけ?」


 「その時は、自らの奥義の秘孔突きで人間どもを爆散させたって!!」


 「わーーい!!何それ?!まじうけるーー!!」


 「それとそれと、山の近くに高速道路通った時にトラックの荷台に飛び乗ったら、そのまま大阪万博に来ていたとか。」


 「これにはバリエーションがあって、ポートピアに来ていたとか、筑波科学万博に来ていたとか、愛地球博に来ていたとか・・・」


 「なんじゃそりゃー!!長老の自慢話って信憑性あるのー?!」


 うきーーーっ!!うきーーーっ!!うきーーーっ!!うきーーーっ!!うきーーーっ!!うきーーーっ!!うきーーーっ!!


 「うっせーうっせぇな!!長老のもしかしたらもう最期だと覚悟した渾身のホラ・・・じゃなくて自慢話だぞ!?

 静かに聞けや!!」


 「はーーーーーーい!!」


 長老のソイチは、淡々と話し始めた。


 「誰にも喋らなかったんだが、わしは実は風船で空を飛んだ事があるんじゃ。


 それはな、まだ若々しかった頃に今は皆鬼籍に入っとる仲間とつるんでヤンチャしておった。


 特に、今は人間が作ったダムの底に沈んでる村の祭りで、仲間と屋台を荒らし回ってた。


 ふとわしは空を見上げると、空に向かって飛んでいく、まあるい玉に見惚れていたんじゃ。


 「あれはなんじゃ?」の仲間に聞いてみたら、

 「あれはゴム風船だ」と言われて、わしはとっても欲しくなって、風船の屋台にわしは乱入したんじゃ。


 「こらまてぇーーー!!」と屋台の人間の怒号をよそに、わしは屋台に売られていた風船を根こそぎ掴んでくすね捕ろうとした事じゃった。


 あら、不思議?!


 わしの身体はいっぱい持ってる風船の浮力で宙に浮いたんじゃ。


 ふうわりふわふわとね。


 それにはわしの仲間も呆然として見上げてな、何度もわしを風船から降ろそうと躍起になってるのをわしは必死に拒否ってな、


 わしは、身体に持ってた風船の紐を結びつけて悠々と大空の旅に出掛けたんじゃ。


 大空はいいぞ。


 渡り鳥とランデブーしたり、

 雲の中を通過したり。


 人間のいっぱい住む建物が眼下に見えてきたんじゃ。


 ここに、わしらの山々を切り開いたり捕まえていじめたりする人間どもがいっぱい居ると思うと怖くなってな・・・


 臭い!!スモッグだ!!あの頃の人間の街は、煙突や車の排気ガスで汚れててな。臭いってなんのって!!


 わしは慌てて高度をあげようと手足をバタバタさせたけど、全く揚がらなくてな・・・


 ふと、足の指を見たんじゃ。


 そこには、屋台で風船の束をくすねた時に慌てたのか、足の指にまだ膨らましてない風船を何個か掴んでてな。


 わしは、一生懸命になってその風船を口でプープー膨らまして、紐に結んだじゃ!!


 そしたら、脱出成功!スモッグの都会から更に上空へ向かって飛べたんじゃ!」




 「風船って、吐息で浮くんだっけ?ヘリウムガスじゃないと・・・」


 「うきー!細かい突っ込みは、この際置いといてよ!」



 「やがて、風船で空を飛んでいるわしは遂に海に出たんじゃ!


 海はいいぞぉーー!!


 クジラはでっかいぞぉーーー!!

 大きく跳躍!!尾びれどっぱーん!!

 わしが見惚れてたら、クジラの潮吹きに飛ばされな、わははは!!


 海を渡ったら、今度は日本を飛びだして世界じゃ!!


 中国の万里の長城、


 砂漠の上を飛んだら、

 

 イギリスのバッキンガム宮殿、


 フランスのエッフェル塔、


 密林でゴリラとチンパンジーやテナガザル

 アフリカでマントヒヒといった、わしらサルの仲間にも逢ったわい!!」




 「何だか、本当の話なのかホラ話なのか、解んなくなったなー!!」


 「しーーっ!!」




 「わしは、そして見たんだ!!自由の女神!!わしは風船でアメリカ上空を飛んだんじゃ!!

 ニホンザル史上初じゃろうな!!アメリカ上空を風船で飛んだニホンザルは!!


 ていうか、風船で世界一周した初のニホンザルじゃなかろうか?!


 わしは、自由の女神に手を合わせたじゃ。

 「ありがたやー!ありがたやー!」と!!」




 「うわー!!寛大なるホラばな・・・」


 「うきーーーっ!!」


 「うわっ!!引っ掻かないで!!」



 「という訳で風船で世界一周してきたわしは、海を渡ってまたこの山に帰ってきたとたんに事件が起きたんじゃ・・・!!


 突然ぱーーん!!と、わしの付けてた風船がパンクしたと思うと、次から次へとぱーーん!!ぱーーん!!ぱーーん!!ぱーーん!!とパンクしまくってビックリして上を見上げると・・・


 カラスじゃ!!


 カラスの集団がわしの風船を嘴で割りまくって、わしは必死に爪をたててしっ!しっ!とカラスを追い払おうとしたら、いつの間に風船は後1個になって・・・何とか死守しないと!と思って風船を抱きしめたら、


 ぱーーん!


 わしの爪で最後の風船がパンクしちゃって、わしは青ざめた。


 案の定、わしは空からまっ逆さまに墜落していった・・・もうわしは地面に激闘して死ぬんだ・・・


 と、思ったら・・・


 気が付いたら、わしは1匹のメスザルに抱き抱えられてたんじゃ・・・


 そのメスザルこそ・・・わしの許嫁のヨシコじゃったが・・・」




 「何だか、凄い事を聞いちゃったなあ。」


 「これは本当だったら、凄い経験したんだなこのジジイは・・・?」




 長老サルのソイチと妻のヨシコは、仲睦まじいおしどり夫婦だった。


 しかし、妻のヨシコに先立たれてからソイチは元気を無くして飲まず食わずの日々が続き、ソイチを立ち直らせたのはこの周囲に集うサル仲間の絆だった。


 「ヨシコ・・・ヨシコが虹の橋の向こうの三途の川で手招きしてる・・・

 ヨシコ・・・逢いたかったヨシコ・・・今すぐここに行く・・・

 あ・・・また風船で空を飛びたかったな・・・今度はヨシコと一緒・・・」



 がくっ・・・



 長老サルのソイチはそれっきり動かなくなってしまった。


 「ちょ・・・」「長老ぉぉぉぉぉーー!!」


 「死ぬな長老ぉぉぉぉぉーー!!!」


 「長老ぉ!死んじゃ嫌ぁー!!」


 うきーーーっ!!うきーーーっ!!うきーーーっ!!うきーーーっ!!うきーーーっ!!


 サル仲間達は皆、長老サルのソイチの死を嘆いた。

 

 「皆ぁ!!聞いたか?!ソイチ長老の最期の願いを叶えようじゃないか!!ソイチ長老を再び風船で飛ばすんだ!!

 ソイチ長老最期の経験だ!!」


 涙で顔を赤らめているボスザルの命令を聞き付けたサル仲間達は、一斉に至る場所からゴムやマイラーのヘリウム風船を持ち寄ってきて88歳で大往生した長老サルの亡骸を身体に結んで、空へ飛ばした。


 「ありがとう!!長老ぉーー!!」


 「さようなら!!長老ぉーー!!」


 「長老ぉーー!!天国の妻と仲良く暮らせよーーー!!」


 「長老ぉーー!!」「長老ぉーー!!」


 どんどん空へ空へと昇っていく長老サルのソイチに向かって、サル仲間達は涙を流して手を降った。



 もぞもぞもぞもぞ・・・



 「あれ?」「ソイチ長老の亡骸が蠢いてるよ?!」




 「な、何するんだあんたらは!!な、何でわしは風船で飛ばされてるんじゃ!!

 この老いぼれを飛ばすなーー!!下ろせーーーっ!!」




 「えーーーーーーーーーーーーーっ?!!」

 




 ~88歳の長老サル最期の自慢話~


 ~fin~

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