第22話「その後のカイテル公爵家とオーベルト男爵家」最終話
――ミハエル・オーベルト視点――
「カイテル公爵、僕のことをレーア様の婿として認めて下さったのですね!」
「わしは『婿候補』と言っただけだよ。
『婿』とは言ってない」
「お父様、私とミハエル様は婚約しているのですよ。
いい加減私たちの仲を認めてください」
レーア様が僕の腕に手を回す。
「嫌だ〜〜!
ミハエルくんがわしを『お義父様』と呼ぶのも、
わしがミハエルくんを『婿殿』と呼ぶのも嫌だ〜〜!
そんな未来、想像したくな〜〜い!」
いやいやと首を振るカイテル公爵。
王国の虎と呼ばれ恐れられるカイテル公爵と、目の前の子離れ出来ないわがままなおじさんが、同じ人物だとはとても思えない。
「お父様、諦めが悪いですよ」
レーア様が呆れている。
「ミハエル様、先程は私を守って下さりありがとうございます。
先ほどのミハエル様はいつもにも増してかっこよかったですわ。
私、惚れ直してしまいました」
レーア様に褒められると照れてしまう。
「婚約者を守るのは当然のことです。
昔の僕ならイルク侯爵子息に脅されただけでガタガタと震えていたでしょう。
レーア様と婚約してから七カ月、お義父様に威圧され、
ここ一カ月死の荒野でお義父様と実績を交えて剣の特訓をしたので、
多少のことには動じなくなりました」
この七カ月、カイテル公爵の無言の圧力や眼力による威圧に耐えてきた。
最強の男と七カ月も同居してきたんだ。
今の僕にとって。マクベスなど取るに足らない小者にしか見えない。
「また『お義父様』って呼んだ〜〜!
ミハエルくんはまだレーアと結婚してないんだから、
『お義父様』って呼ぶの禁止〜〜!!」
「すみません。
カイテル公爵」
カイテル公爵を怒らせてしまった。
当分「お義父様」は禁句だ。
「パパったら〜、会場でわがままを言って〜、娘を困らせてどうするの〜?」
どこからともなく、
「パパのことは〜、私に任せて〜、二人は踊ってらっしゃい〜」
「ありがとうございます、お母様」
カイテル公爵家では、お義母様が最強のようだ。
「ミハエル様、お父様のことはお母様に任せましょう。
ミハエル様、もう一曲踊っていただけますか?」
「はい喜んで、レーア様」
僕は曲に合わせてレーア様と踊った。
息の合った僕たちのダンスに、会場にいた人たちが見惚れていたことを、後でお義母様に教えてもらった。
☆
イルク侯爵家の息子に堂々とした態度で接したことで、僕の評価はうなぎのぼりらしい。
いわく、カイテル公爵令嬢に愛され、カイテル公爵にも一目置かれているとか。
ときどき僕に言い寄ってくる令嬢もいる。
僕はレーア様以外の方に心を寄せることは一生ないので、丁重にお断りしている。
パーティから五カ月後、僕はレーア様と結婚した。
花嫁衣装に身を包んだレーア様は、天使や女神よりも美しかった。
カイテル公爵とチェイさんは、めちゃくちゃ泣いてた。
「これからは僕がレーア様をお守りします」
と言ったら、カイテル公爵とチェイさんが大泣きしてしまった。
結婚後、改修工事が終わったオーベルト男爵家に引っ越した。
オーベルト男爵家は、カイテル公爵家の支援を受け、異国の珍しい植物の栽培に成功した。
オーベルト男爵家は数年後、巨万の富を得ることになる。
☆
結婚式から数カ月後、オーベルト男爵家の前には、カイテル公爵夫妻にモンスター退治を依頼したい貴族が列をなしている。(カイテル公爵夫妻はオーベルト男爵家に住んでいる)
各地でスタンピードが起きはじめると、「人々は国を守っているのはカイテル公爵家だ」と言い、カイテル公爵家を持ち上げ始めた。
エーダー王家を廃して、カイテル公爵家を王族にという声が各地で上がった。
それから数年後――。
エーダー王家は力を失い、国王は自ら王位を退き、王位をカイテル公爵に譲った。
かくしてカイテル王国が誕生した。
かつての王族は北方の地へと逃げるように移住した。
初代カイテル国王の長女の嫁ぎ先であるオーベルト男爵家は、公爵家へと昇格。
僕は公爵となった。
お義父様は「レーアちゃんと同居できなくなるからやだーー!」と最後まで、国王になりたくないとごねていた。
早々に息子に王位を譲り、オーベルト公爵家での隠居を考えているらしい。
☆
これは後の人々が僕を讃えて言った言葉。
ミハエル・オーベルトは公爵の地位を得ても奢らず、妻を一途に愛し、親を敬い、民を慈しみ、善政を行った。
初代オーベルト公爵は、歴代オーベルト公爵の中で最も民に慕われたと――。
――終わり――
最後まで読んで下さりありがとうございました。
「第一王子に婚約破棄されましたが平気です。私を大切にしてくださる男爵様に一途に愛されて幸せに暮らしますので」 まほりろ @tukumosawa
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