YELLOW-せなあかんやん-

枡本 実樹

なんか面白いことねーかなぁ。

「 はぁーあぁ。なんか面白いことねーかなぁ。」


はい、こちらの『 面白いことねーかなぁ。』が口癖の彼。

葛原くずはらトウマくん。高校三年生。身長182cm。

なかなかの長身の彼は、都内でも有名なバスケ強豪校のセンターとして活躍していた、カッコイイわたしのご主人様なのです。


あ、申し遅れました。わたしは、トウマくんの相方といっても過言ではない、クマのぬいぐるみの熊五郎クマゴロウと申します。以後、お見知りおきを。

え?いま、わたしの名前を聞いて『ダッサ。』と思ったそこのあなた!

わたしの名前はですね、けっしてダサくなどないのです。


本名は【 クマじゅげむじゅげむコのすりきれかいじゃりすいぎょの・・・・ぴーちくぱーのなんちゃらかんちゃら・・・ぽんぽこりん金太! 】という、なんとも有難くも素晴らしい名前を付けてくれたトウマくんが「長すぎるから略してにするな。」と、愛称を付け、呼んでくれているのです。


なんとも、出だしからの心温まるエピソードに、トウマくんの魅力が溢れ出てしまいそうですが、彼とわたしのエピソードは、もっとステキなものなのです。


と、話し込みたいところをグッとこらえて。

今回は、そんなわたしの大好きなトウマくんの日常を、みなさんにもお見せできたらなぁと思います。

それでは、どうぞ。



「 はぁーあぁ。なんか面白いことねーかなぁ。」

「また言ってんの。そうそう面白れぇことばっか転がってないって。」

いつもの場所へ向かう途中、隣のクラスから合流してきた仲間のユズと廊下を歩いてると、いつも通りの返事が返ってくる。


昼休み始まりのチャイムと同時に、急ぎ足で教室を出て、出来るだけ目立たないよう廊下を通り過ぎる。

時代が時代なら、忍者として活躍するしかねーな。

なんてことを思いながら、歩いていく。


お、ユウおつかれー。また呼ばれてるな。

廊下を歩きながら、三つ隣のクラスの入り口で、二人の女子と向かい合って、どんな顔したらいいのか解らない・・といった表情の仲間を横目に【 おさきに~ 】と心で呟いて、ウナギのようにすり抜ける。


とにかく目立たないよう、静かに、あの場所まで行けば大丈夫だ。

昼休みを、自由に過ごすため。ほぼほぼ毎日、俺たちは通っている。

そんな日が始まって、もうすぐ一年が経つ。


そこに集まるメンバーは七人。

昨年、同じクラスだった愉快な仲間たち。いや、愉快ではないかもしれない。

学園祭の前までは、全員とそんなに親しかったわけではない。

だが、学園祭の三日間を終えた後からの約一年近くを、ほぼほぼ一緒に過ごすことになり、いまとなっては、大切な仲間であり、戦友のような存在となっている。


中学の時からの友人で、昨年は生徒会長だった大崎。

そして、その彼女であり学級委員だったリコ。

性格もいい上にノリもいい二人が中心となってクラスを盛り上げてくれていた。

そんなクラスでの学園祭は楽しくないはずがなく、企画以前からみんな盛り上がっていた。

出し物は、よくあるお化け屋敷やら、なんとか喫茶なんかをやるもんだとばかり思っていた。


だがしかーし、男子よりも圧倒的勢力の強い女子の提案から、アイドルグループ【 ニノナナ 】のステージイベントが決まった。

身長以外は目立つタイプでもなかった俺は、大道具やら、なにかしらの力仕事が回ってくると思っていた。


が、しかし。

「レッドはヒビキね。ブルーはユウで、イエローはトウマで、グリーンはユズ、ピンクはイッシ―ね。」

有無を言わせぬ発表により、俺はそのアイドルグループ【 ニノナナ 】の一員となっていたのである。


同じバスケ部のキャプテンであるヒビキは、男女人気NO.1!のザ・アイドル。

これまた同じバスケ部で副キャプテンのユウは、口数が少ないけど、いつもみんなのことを見て気遣ってくれる、クールなイケメン。

最近よくつるんでる、ユズこと柚沢ゆずさわはサッカー部副キャプテンで、ノリもいいうえに顔もいい。

イッシ―こと石田は、ほとんど話したこともなかったので、どんなヤツか全然知らなかったけど。当時あることにより、クラスをざわつかせたかなりの美男子だ。


そこになぜ俺が投入されたのかはナゾだった。

ノリノリで指導してくれる担任と副担任の細かい指示もあり、オレたち五人は

【 歌って “ さわれる ” アイドル ニノナナ 】として三日間、活動させられたのだ。


それで終われば、特に問題なく、だったのだが。

このアイドルのプロデューサー率いる企画メンバーたちの細かい設定が、やたらと上手かったらしく、俺たちに元の生活が戻ってくることはなくなってしまった。

それから色々とあり、いまのような、忍者になりたくてもなれないやつ、みたいなコソコソした日々が続いているのだが。


その前は、本当に自由だったな・・。なんて、感傷に浸っても仕方ないけど。

部活がなくなった今、昼休みくらいは、またあいつらとバスケしたかったな〜。なんて。

思ったり、思わなかったり。思ったり。


「 面白いことねーかなぁ。」

なんてボヤいてるうちに、来ました、最大の難関。渡り廊下。

ココさえ無事に過ぎれば、あとはすぐに到着。なのだが。


「トウマせんぱーい!」

中庭から叫ぶ、名も知らぬ後輩たち。


すまない、見逃してくれ。と、急ぎ足で通り過ぎようとするが。

「あれー、聞こえないのかなぁ?」

「もっかい呼ぶ?」


せーので呼ぼう!と聞こえてきたと同時に。

「トウマせんぱーいっっ!!!」

振り向くと、キラキラした表情の後輩たち。まぶしいよ、君たちの笑顔。


「おう、じゃーな。」

いつも通り、右手を上げて過ぎ去ろうとすると。


「いつものお願いしまーす!」

やっぱり、キラキラした表情。まぶしいす、君たち。はぁー。期待の眼差し。


いつものって。なに?いつもね普段の俺、コレっすけど。と思いつつ。

早くこの場を去りたい、思いが打ち勝つ。


「ほなね~!」

ギュイーンと濃い表情を作り、思いっきり笑顔。そしてヤケクソで声に出し、手をブンブン振って過ぎ去る。


『 キャーーーッ♡ 』

喜んでいただけたようで・・・。


なんで俺、関西弁喋ってるんだろう・・・。

両親ともに関東出身。俺、生まれも育ちも都内。

方言男子、たしかにカッコイイだろうけども。なぜに俺が。


ククククッ。

聞こえてますけど?

声を抑えてるなユズを横目で見ながら、なんでお前だけ被害に遭わない。と腹が立ってくる。


「やっぱ、トウマパイセン、キャラたってるよなー。」

ゲラゲラ笑いだすユズにひざ蹴りをしながら、いつもの場所へと急いだ。


ドアを開けると、大崎とイッシ―が飯を食いながら、オウッと軽く手を上げる。

いつもの席に座って、弁当を食べる。

全員揃ってウダウダしながら、しょーもないことをしながら過ごす。


「 なんか面白いことねーかなぁ。」

天井を見上げてると。

「あ、トウマ、また生徒会室に届いてたってよ。」

大崎が思い出したように、ダンボールを持ってくる。


その大きさ。嫌な予感しかしないんすけど・・・。

なぜだかわからないが、俺宛と書いたダンボールが生徒会室に時折届くのだ。


先日は、大量のバナナを貰った。

俺ゴリラじゃねーし。と、中身を見てつい呟いてしまったが。

『本当の姿がゴリラでも、オレたちの友情はかわんねーから』と真面目な顔したユウが口にして、『なんだよ、その友情ー。』ってみんなで転げまわっていやがった。


その前は、大量のレモン。その前は、大量のプリン。

その前は大量のポテチ。その前は大量の粉末コーンスープ・・・。

コーンスープって。粉って。え?いやいや、そんなツッコミはどうでもいいけど。


思い返せば、大量に届くものの大半が食べ物。

アイドルの細かい設定の中に

【 美味しいもの大好き♡イエロー 】という謎の設定があり、

そんなん昭和の戦隊のカレーと一緒やないかーい!という心のツッコミは誰にも届くことなく、演出が指示されたのであった。

ついでに、なぜだか俺だけ関西弁という。イントネーションが上手くできずに何度もやり直しをくらったことは、ここだけの秘密である。


ありがたいんですけど。今度は何でしょう。

そして、大量じゃなくていいと思うんすけど。違うでしょうか・・・。


「早く開けてみろよー。」

開ける前からユズが笑っている。


おもんねーし。まだ笑い要素があるかわかんねーだろよ。

ガムテープをベリベリと剥がすと、中から出てきたのは大量のみかんだった。


「こんだけ食べたら、オマエ全身リアルイエローじゃん。」

ユズが笑い転げる。リアルイエローってなんだよ。黄色に謝れ。


「あ、でもすごいよ。」

ヒビキが手に取って微笑む。


「お、ホントだスゲー。」

ユウがつぶやく。


「すごい。」

イッシ―が天使の微笑みを見せる。

あ、ちなみにピンクの設定は【 天使の微笑み♡ピンク 】って、この差はなんだよ!と、ひとまず置いといて。


手に取ってみる。


ん?

大量のみかんは、ただの大量のみかんじゃなかった。


それぞれに、顔が書いてあり、

ゴキゲンなやつ。

キラキラした目のやつ。

凛々しい顔のやつ。

全部違う顔が描いてあって。


底の方に、『受験頑張ってください。』とか

『また、バスケしてるとこみたいです。』とか

なんだか応援メッセージが一つひとつに書いてあって、

ちょっと、いや、だいぶ感動してしまった。


「 オマエの周りさ、面白れぇことばっかじゃん。」

ユズが笑顔で言う。


ほんとそうかもな。

なんか、めっちゃゲラゲラ笑える面白れぇことって、そんなにないかもだけど。


卒業まではイエローでおらなあかんやん。


それはそれで貴重な時間なのかもな、なんて思う今日この頃です。

お腹壊さない程度に少しずつ、ありがたくいただきます。




いかがでしたか?

トウマくんの日常、彼の周りはいつも笑顔で溢れています。

そんなトウマくんが熊五郎は大好きなのです。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

YELLOW-せなあかんやん- 枡本 実樹 @masumoto_miki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説