つまらない話

幻典 尋貴

つまらない話

 中学生の頃、友人に「お前の話はつまらない」と言われたことがある。当時は結構気にして、軽く落ち込みもしたが、今思えば実際そうだったのだろう。小学生のままのノリで、下ネタを散らばらせた会話というのは、僕と違ってしっかり成長してしまった彼らにはウケない。そんな事は分かっているが、どうしようもない――と言うのが僕の意見だった。


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 ある日、笑わせたい人が出来た。花のように可憐な人で、笑顔が本当に素敵な人だった。

彼女とは、音楽や趣味などの共通点や、教室での席が隣ということもあって、よく話した。ただ、後ろのヤツの様には笑わせる事は出来なかった。

 後ろの東雲は、コメディアンになりたいらしい。休み時間に友人らと集まっては、大声でそんな話をしていた。

そんな時、僕は決まって本を読んでいた。外の世界を断つ事で、聞きたくも見たくもない世界から逃げていたのだ。


 僕自身はコメディアンになりたいと思った事は一度もない。そもそも人前に立つ事は苦手だし、笑いに対して真摯になると言うのが意味が分からなかった。笑いは笑いだ。研究や分析をして、苦痛を感じつつ笑いを作っても、自分が笑えなければ意味がない。そう考えているから、コメディアンになりたいと思うヤツの考えはよく分からなかった。


 夏目漱石の『こころ』で先生が言った、「恋は罪悪ですよ」の意味は未だに理解し切れていないが、今なら何となく分かる気がした。やはり完全ではないが、この気持ちはその一片に違いなかった。


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 大学卒業を迎え、なんとなく感慨深い気持ちになって過去を振り返ると、良い思い出より嫌な思い出の方が思い出しやすかった。その一つが東雲の事だ。実際には、恋をしていた良いエピソードであっても、苦い記憶としての方が僕の中で印象が大きいのだろう。

 そういえば、東雲は今頃どうしているのだろうと思った。当時使っていたSNSのアカウントに久々にログインして、彼のアカウントを探す。一生忘れるもんかとフォローして、彼からわざわざ「よろしく」とダイレクトメールが来てから、ますます嫌いになったのを覚えている。そして、それを自覚して、一つ自分を嫌いになったのもセットで覚えている。

 彼のアカウントを見つけた。知らない女子とのツーショット写真をアイコンにしているあたり、やはり気に入らなかった。

 どうやら、彼は既に芸人を目指すのは辞めたらしい。僕は名前も知らない、ナントカって会社の内定を貰ったと書いてある。なぜだか分からないが、少しがっかりした。

 指の動きを正しく読み取れなかったスマホが、東雲のアカウントのメディア欄を表示させた。一番上に表示されていた動画は、学園祭のステージの様子を収めていた。

どうやら彼の漫才の様子らしい。


 今までのことなど、どうでもいい程にめっちゃ笑った。

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