叶わぬ恋

haku

第1話

 「佐藤日向っていいます。よろしくお願いします」

 高校生活初日のホームルーム、最初の自己紹介で聞いた声、恥ずかしさからだろうか、顔を少し赤くし、目線のやり場に困り、つい下を向いてしまっている動作、そして何よりその見た目、一目惚れなんてアホらしい私は昔からそう思っていた。

 「おはよう」

 私は日向に声をかける。

 「おはよう」

 小さな声で一言そう私に返す

 こんな会話ですら私を幸せな気持ちにする。いつの間にかその姿を目で追っている。目線が合っただけで嬉しくなる。間違いない私は日向が好きなんだ。それに気付くことに時間は要らなかった。

 「次の休日遊び行こうよー」

 私は日向に声をかける。

 「いいよ、どこ行く?」

 日向はすぐに答える。

 「カラオケなんてどう?」

 適当に思い付いたところを提案してみた。正直場所なんてどこでもいいのだ。一緒に遊べればどこでも構わない。

 「歌うのは苦手」

 申し訳なさそうに答える。

 「遊園地なんてどう?」

 流石に遊園地は気持ち悪いかもな、そうも思ったが提案するだけしてみた。

 「場所は?」

思ったよりも気軽に返す。なんとも思っていないようだ。

 「東京のお台場かな」

 よく調べてないが知ってるところの場所を言った。

 「ちょっと遠いなー」

 「博物館とか行ってみたいんだけどダメかな?」

 予想外だ。向こうから提案してくるとは。正直博物館は退屈で嫌いだ。だが、好きな人と行くなら話は別だろう。

 「いいよー」

 すかさず答えてケータイを取り出し検索をかける。

 「東京国立博物館なんかどう?」

 ケータイです一番上に出てきたところを言ってみる。

 「いいね。行ってみたい」

 興味があるらしい。とりあえず場所が決まって良かった。

 「オッケー、今週日曜日10時くらいに駅集合でいいかな?」

 私はまあこのくらいかなと思って言った。

 「うん、分かった」

 すぐに答える。好きな人と遊びに行けることが決まり内心とても喜んで走り回りたいくらいだが、ここは感情を抑えて、

 「それじゃ、そろそろ休み時間終わるからまたねー」

 そう言って自分の席へと帰り、静かに机の下で拳を強く握った。

 家に帰ってもその感情の昂りは止まることはない。終始楽しみで仕方がない。今なら何を言われたってプラスに感じられるだろう。

 そして日曜日になった。日向と博物館を周り、一緒に食事をして、その他の遊べる場所を探し色々なところに行って1日を過ごした。最高の1日だった。距離も大幅に縮まった気がする。今なら告白してもいいんじゃないか?何度もそう思ったが勇気が出ずに結局1日が終わってしまった。

 「またねー」

 私がそう去り際の日向に声をかける。日向はこちらの方を向いて小さく手を振ってくれた。すかさず私も手を振りかえす。帰らないでと引き留めたいがそんな勇気は私にはない。しかし最高の1日だったことに間違いはない。ずっと幸せな気持ちが続いていて、ついLINEで、

 「今日楽しかったね。また遊びに行こ」

 と送る。我ながら気持ちが悪い。

 「楽しかったー、また誘ってね」

 日向から返信がきて、また幸せな気持ちが込み上げてきた。

 私と日向の関係はかなり良いと思う。LINEでもよく話すし、学校では一緒にいることが多い。他の人にも仲が良いことは周知の事実であることは間違いない。私たちは仲良しなのだ。

 ただそれはあくまでそれは友達の関係である。決して恋愛的な仲の良さではない。一緒にいることもLINEで話すことも友達同士ですることと何ら変わりはない。友達以上であるかもしれないが決してその枠を出ているわけではないのだ。私は好きだがおそらく向こうはまだ好きではない。顔かな?性格かな?何が足りていないのだろうか、ずっと考えている。そして次にどうやって距離を縮めるかを常に考えている。しかしふと我にかえる。実際のところはそんな単純な問題ではないのだ。そんなことは分かっている。初めから気付いている。だが認めることができない。ありもしない希望を持ち続けているだけなのだ。本当の問題はそんなことではない。この恋は叶わない。2人の間にある壁というものは複雑で何層にも重なっている。どういうことかって?そんなことは言うまでもない。

 ー 私は世間一般で見て「普通」ではないのだ。 ー

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