1月5日 ②

彼の家の最寄りの駅に着くと、冷たい風が肌を突き刺した。悴んだ手でICカードを取り出すと何故か手からカードが滑り落ちた。


「…今日も寒いな」


地面にポツンと落ちているカードを拾おうとその場にしゃがむと、ズキンと少しだけ足が痛んだ。

昨日は年明け久しぶりの仕事で疲れているのかな。年齢が若くたって1日経ち仕事をした足は流石に悲鳴をあげるんだな、と少しだけ老化を感じる若干の20歳の自称女の子。


よいしょ、と声を出しながら立ち上がると今度こそ改札を出る。

辺りを見回すとまだ正月休みの人がたくさん居るのか、いつもより賑わっていた。


その中で柱に身を預けて携帯を見つめる人がいた。そう、それが彼。河野弘人(こうのひろと)くん。

その姿を見ると何度も見て居るはずなのに自然と口角が上がる。



「ごめんお待たせ」


「ううん、今来たとこ」



どこにでもいるカップルの会話をする私たち。


今日を境に全て変わってしまうことを、今の私はまだ気づくよしもなかった。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私は、可哀想なんかじゃない。 佐伯咲 @saeki_saki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ