第7話

入り組んだ住宅街を白瀬さんに従い進んでいくとそこにはレンガでできた西洋風な立派な一軒家が建っていた。

こんな立派な家に住んでいても離婚なんて、何があったんだろう、昨今大人気な不倫とかか?

そんなことを邪推していると、白瀬さんの足が止まった。


「じゃあ私はここだから」


白瀬さんは俺たちから一歩足を距離を取り、そう話す。


「送ってもらっちゃってごめんね、ありがとう」


「なんてことないよ!楽しかったし!ね!」


水無瀬は俺に向かって同意を求める。

特に否定するつもりもないので、おう、と返す。


「私も楽しかったよ!またね!」


「じゃあねー!」


「またな」


俺たちは白瀬さんが家の中に入っていくのを手を振りながら見届ける。

白瀬さんの家の扉が完全にしまったことを確認すると、水無瀬は口を開いた。


「よし、任務完了」


「だな」


俺たちは来た道を戻りながら、話し始める。


「俺は今日は特に視線なんて感じなかったな」


「私も今日は特に何も」


水無瀬は地面の小石を蹴りながらそう話す。


「でも、前遊びに行った日はなんか、気のせいかもしれないけど、視線を感じたような気がしたんだよね」


「気にしすぎてるって可能性は?」


「否定はできない...」


小石に向かって振りかぶった水無瀬の右足が小石を捉えることは無かった。

あぁっ、と小さく声を漏らす水無瀬が少し笑えた。


「白瀬さん、いい子だったな」


「でしょ!この学校にきて初めて休日に女の子と遊んだよ」


「目指す青春の第一歩だな」


水無瀬はにしし、とピースしながら笑う。

やりたいことリストに大きく書いてあった『青春する』という目標は今のところいい感じに進んでいるようだ。


「私、この学校に来てよかったよ」


そう話す水無瀬の横顔は夕焼けに照らされ、とても綺麗だった。


「まだ一か月しか経ってないぞ」


「それでもそう思えるの」


水無瀬の顔が神妙な面持ちになる。

独特な緊張感を放つ水無瀬に、少し後退りしそうになるが、俺はそうか、と頷く。


「あのさ、荒谷君———」


―――――――――――カランっ


水無瀬が何かを言おうとしたその瞬間に背後から空き缶が倒れる音がした。

ここは入り組んだ住宅街の一角で、ここに住んでいる人以外が通るような道じゃない。

俺がその音に反応して振り返ると、古海高校の制服に身を包んだ男子生徒が背中を向けて走り去っていった。

走って追いかけようとも思ったが、とても追いつける距離じゃないことを察し、俺はその男子生徒の背中を眺めることしかできなかった。


「おい、見たかあれ」


「もちろん」


俺と水無瀬は顔を見合わせ、確信した。

白瀬さんは確実にストーカー被害に遭っている。


「犯人、いたな」


「顔、見えた?」


「いや、まったく」


水無瀬は?と聞き返すが、首を横に振る。


「あー--こわ!」


水無瀬は自分で自分の肩を抱きながらそう声を荒げる。


「ストーカーいちゃったよ!どうすんの!?」


「どうすんのって、言われてもなぁ...」


俺は考える素振りを見せるが、答えは決まっていた。


「犯人を特定するにも、何をするにもまずは白瀬さんがいないことには話にならないだろ」


とりあえずは明日だ。


俺たちは明日から閑話部から探偵部になるようだ。

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閑話部には風が吹く 倉田律 @kurataritsu

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