第6話
「なぁ、白瀬さんはその彼氏のどこが好きなんだ?」
その質問に対して口を開いたのは水無瀬だった。
「意外、荒谷君ってそういうの気になるんだね」
俺たちはあの後すぐに部室を後にした。
いつもの帰宅ルートとは真逆の方向———水無瀬と白瀬さんの家の方向に向かって歩いている。
「どういう意味だよ」
気を使って白瀬さんに話を振ったのを、何だか色恋に興味津々なやつみたいな風に思われたことに少し気恥ずかしさを覚える。
「いや、そのままの意味だよ。荒谷君ってなんか堅物そうじゃん」
ね、あかりちゃん、と白瀬さんに話を振る。あはは、と白瀬さんは苦笑いだ。
「でも、彼を好きになったのは、
白瀬さんはどこか遠くを見つめながら続けた。
「最近、両親が離婚しちゃってね、それで悩んでるときに優しく話を聞いてくれたのが彼なの」
俺と水無瀬は黙ってその話を聞く。
「最初は家が近所で、その、近所の噂で私の家のこと知ったみたいで、話しかけて来てくれたの」
「その時は誰にも話せなかったから、事情を知っている人に話せたことで心がすっと軽くなるような感じがして、とっても救われたの」
「そうか、いい出会いだったんだな」
俺はそう返した。
白瀬さんの表情を見ていれば、彼氏のことをよく想っていることが分かった。
はっとしたように白瀬さんは向き直り、ごめん!こんな話しちゃって!暗かったよね!と手をバタバタさせている。
「うぅ...私感動しちゃった...」
泣いているような素振りを見せる水無瀬は、あかりちゃーーん!と白瀬さんに抱き着く。
女子特有の近すぎるスキンシップで男一人残されるとどうしても居た堪れなくなる。どうしても俺は、弱みに付け込んだだけでは?と穿った見方をしてしまう。
そんな自分を顧みようとは全く思わないが。
「話は変わるが、そのストーカーってのに何か心当たりはないのか?」
「うーーん」
心当たりかぁ、と白瀬さんは考える素振りを取る。
水無瀬は、なんか告白されたけど振ったとか、そういう原因になりそうなやつ、と付け加える。
「そういうのなら、彼氏と付き合う前なら何度かあったけど…」
どこか話しづらそうにそう答える。
一度は振った傷つけた相手だ。その上、ストーカーまでしてるんじゃないのかと疑いをかけるのは心が痛いのか分からないが、白瀬さんは優しいようだ。
だが、好きな人に振られ、その好きな人に彼氏が出来たから少し様子を見ようとしたのがエスカレートし、ストーキングにまで発展してしまう。
短絡的だが、無い話ではない。
「その中の誰かが、犯人っていう可能性はないのか?」
俺は白瀬さんが言い淀んだ言葉にあえて『犯人』という強い言葉を使った。
「それがわかっていればさっさと犯人特定して問い詰めに行ってるわよ」
白瀬さんではなく水無瀬が強気にそう返してきた。
まぁ、それもそうだ。
ただ、このまま何もないことを願って三人で帰り続けることで何かが解決するとはとても思えない。
「ここは思い切って警察とかは?」
俺はダメもとでそう提案してみた。
しかし案の定白瀬さんは首を横に振った。
「警察はちょっと...親にも迷惑がかかるし...」
確かに離婚直後に娘の警察沙汰———被害者であっても確かに骨が折れるような出来事だ。
「どうしたものか」
俺は頭を抱えながら、どこか心地よい夕暮れの下を歩く。
心地よいのは天候か、季節か、それとも別な何かなのか。
俺は分からないふりをして足を前に進めた。
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