第7話    談笑の一時


ーー団って事はいよいよ二人のはっきりした正体も分かるか...?


目の前を歩く二人の背を見つめながら耽る。今まで後回しにしていたが彼等の全容は見えてこない。

なぜあの森にいたのか、何をしていたのか、分からない事だらけである。もっとも自信を救出してくれた事だけは一欠片の打算もない事だと考える事にしたが..。


「停泊つっても宿は借りてねぇんだ、どうしてこうウチはケチくさいとこがあんのかねー」

「都まで使う金は少しでも少なくしておいた方がいいんだろ.」

「まあ、はずれとはいえ荷車ごと停泊させてもらってんだからいいか..」


二人はそれぞれ気怠そうにぼやきながら歩を進めている。最後まで流れに身を任せるしかない自分はただ黙って着いていく事しか出来ない。


「そういや、キャラバンって何人いんの?」

何か話さなければ落ち着かない気分だったので思いついた話題を振る。


「ん、まあ、俺達合わせて5人だな。団長が一人、兄貴分が一人、あとは勝ち気でちょっと喧嘩っ早いお嬢様が一人なぁ〜」

「まあ、少し癖の強いとこあるけど一緒にいると楽しい人達だよ〜」


「それは楽しみだな」


「ああ、特にアーレンの兄貴は面倒みが良くて..おっ噂をすれば何とやらだ見えてきたぜ停泊地が..そんで荷車の上に乗ってんのがそうだな、、、..」


村の外れまで気がつけば来ていた。そして村全体を囲っている柵の外側、、そこに遠目で見ても目立つ程の荷車が全部で四つ繋がれていた。

派手すぎず申し訳程度に動物の骨や化石類で施された装飾。

相当年季が入っているのか赤く変色している板壁に車輪も錆び付き始めている。先頭の車両を覆っている幌ほろは大きく縫い付けた跡がある。

悪く言えばボロ、良く言えば数多の旅路を踏み越えてきた歴戦の勇者ならぬ勇車といった感じでそれこそ偉大な冒険家達の旅団物語に出てきそうである。


「おーい、帰ったぜー兄貴ー」


そこでルイが荷車の上にのって荷物を詰め込む作業中の人影に声をかけーー


「ん?おぉ、戻ってきたかテメェら!っと..なんか増えてねぇか?」


すぐに気づいた人物が顔を上げ薄く透明感のある灰髪を靡かせながら相好を崩す。身長はかなり高く中肉中背、細身の体だが襟元から覗く首筋からして鍛え込まているのが分かる。男前と言う言葉がぴったり当てはまる顔立ちは男の自分から見ても格好良く思える。


ーーそしてすぐに恐らくまあ、異分子であるだろう俺に怪訝な視線を送ってくる。


「おぉ、紹介すっぜこいつはヴァンつって森で『ランド・ワーム』の巣穴に間抜けにも落ちちまって、もみくちゃになってた所を助けて連れてきたんだ。」


ーーほっとけよ


「ついでに都に行きたいらしい...」


ーーいや、ついでって..


「どうも初めましてヴァン・メーテルです。二人には危ない所を助けて貰いました」


とにかく先ずは名乗る。村で母に嫌と言うほど叩き込まれた礼節をわきまえる事も当然欠かさない。


「ほぉ〜〜ランド・ワームねぇ、、. 、て事はいきなりだけどよぉこれから一緒に来るのか?」


「は、はいそうさせていただければ有り難く存じ上げます」


ーーと言うよりここまで来て今更他の選択肢など...


「まあ、そんな訳で俺に人助けをさせてくれよ、団長にも自分で話すからさ」


「なる程...まあ、良いんじゃねぇか!何かと気苦労もある旅も人数が多けりゃ楽しくなる。男一人ぐらい増えたって俺はかまわねぇよ..」


ーーやけに軽いなぁ、見た感じ似た性格のユースが兄貴分って慕う理由が分かる気がする。


「んじゃあ、ヴァンって言ったか?俺はアーレン、アーレン・フォルメルトだ!宜しくな!」


ニカッとした笑みを見せながら右手を差し出してきた。


「はい、宜しくお願いしますアーレンさん」


「そんな固くならなくても良いぜ、普通にアーレンかそいつらみたいになんなら兄貴って呼んでくれてもいい。敬語も別にいらねぇよハハ」


緊張をほぐそうとしてくれているのかそう言って気さくに笑ってくれる。

確かにこの人ならつい兄貴!と呼んでしまいそうだ。最もニコニコ笑っているユースの横で露骨に顔をしかめたルイを見るになんとなく察しはつくが。

あ、『言ってるのはユースコイツだけだろ..』って呟きが聞こえたぞ。


「んじゃまあ、俺はまだここで作業してるが...他の奴等はちょっと出払っててな。まあ、もうじき戻ってくるだろう。それまで待っとくか?」


「じゃあ、そうさせてもらうか...」



                                 △▼△▼△▼△




「にしてもお前、さっき口調が一気に変わって面白かったな。俺敬語って苦手だからよ、あんなにパッと使い分ける事ができるの尊敬するぜ」


諸々の事情を話し終え疲労から座り込んでいるとドカッと隣に来たユースが話しかけてきた。


「ん?まあ、相手によって話し方変える事できなきゃ苦労するって教え込まれたからな」


「にしては、恩人の俺達には開口一番からタメだったよなぁ〜〜」

「いや、お前らは見るからに歳も同じぐらいだし、なんつーか逆に気持ち悪いと思ったからよ...」

「いやいや、そこはせめて礼の瞬間ぐらいはさ..!」


「よし今更感あるけどお前の性格も大体分かったわぁ」


なんだよぉ、と呟きその流れでユースが切り出した。


「だとすると、お前もまあ、歳は15辺りか?」

「そうだな」

「ふぅんまあ、俺は16何だが」

「まさかの歳上かよ」


だったら尚更〜と再度おちょくってくるユースを華麗に流しーー


「.....」

「お前は?」

終始ヴァンにどこか棘のある言い方をしてくる仏頂面の少年に尋ねる事にした。彼も歳上なのだろうか..と言うかむしろそうであればまだイラッと来る言動を許容できるかもしれない...。


「今年で...15」

ーーんでお前はタメかよ..まあ、下じゃないだけマシか

「ハハハ、まあ何つーかお前みたい奴が一人加わってくれて俺も嬉しいよ」

「出会って一日と経たねぇけど仲良くやってくかぁ」



この日、この場所で、この瞬間こそが何となく愉快で頼もしくもあれば、心許なく馬鹿な気配も兼ね備えた三人組トリオが結成された日だと後に記される事となる。

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宝魔奇譚 ネロ山桃李 @Neroyama

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