第6話    アゴラの村

 旅路はこのまま難航するかと思いきや意外な展開が舞い降りた。

ランド・ワームの巣穴へ無様に落ちそのまま骨へと化す..と思いきや通りかかった気さくと無愛想の二人組コンビに助けられた。

みっともなくとも声を荒げに荒げて良かった思う。

最後まで足掻いてみる物だと実感したのだ。

そして更に二人はそのまま停泊してる村まで連れて行ってくれると言う。

それは有難い事この上ないのだがーー


「もうちょっとゆっくりでもよくないかなーー!?」


何故が走って移動していた。それもかなりの速度で


「まあまあ、どうせ行くなら速い方がいいだろ?野道を走るってのは気持ちいいぜぇ」


「とは言ってもヨォ!近くて道も分かってるなら、さすがに日が暮れる前に行けるんじゃあ!?」


先頭を駆けるユースが愉快そうに、そしてどこか焦りも見せながら答えるのに対しヴァンは異議を唱えずにはいられない。


「いいから黙って足を進めろ」


ルイがぴしゃりと言い放つ。何だってこいつはこんなに偉そうなんだか...。

それにしてもこの二人はやはりただの堅気ではないのだろうか?ヴァンは村でとある都市の元冒険者だった老戦士に幼少の頃剣の手解きから護身術含め多少なりとも鍛えて貰った事がある。これでもそこいらの同年代よりは間違いなく丈夫だと自負していた。

しかし二人はそんな自分からみても速い。

ヴァンは既に息が上がっているのに対しまだ余裕そうである。


「なあ、お前らキャラバンつったけどどう言う団なんだよ...傭兵の集まりか?」


「まさかぁ...真っ当な夢追い人ばっか集まった何処にでもあるようなただの団だよ」


「ただのねぇ...楽しみだな...」


お互い軽口を交わしながら道を進んでいく。不思議とこの感じが愉快であった。

その後も道中置いていかれそうになる度に降りかかるルイの舌打ちと言う悪態を逆に気力に変換しながら必死に足を動かしていくとーー


「おーーし、ヤイヤイ騒いでる内にも着いちまったぜ」


「おぉ、つ、ついに」


計り知れない労力と時間をかけ遂にヴァンは待ち望んだ光景をその目に映す事となった。

紛れもなく文明の数々が行き届いた木材と石の建造物。

作物を主とした出店がチラホラと並びその近くで村人が旅客を交え談笑しその周りを木の棒を持ちチョロチョロと走り回る子供達。

決して大規模とは言えないが広場を中心に喧騒がこだまし、絶える気配はなさそうだった。

こここそが目標地点アゴラの村である。


「ひとまず無事に目的地につけて何よりだ、一歩前進..っておいどした?」


「いや、思えばここに来るまで長かったなって、なんか感極まって泣けてきたかも..」


「気持ちの悪りぃ奴だな..」


目尻を押さえて込み上げてくる感情を抑えているかのような仕草をするヴァンにユースがぎょっとし、ルイが辛辣な感想を漏らす。


全くコイツはもう少し柔らかめな言葉使いっての物を知らないのか...まあ、ここまで来ればもう慣れたと、割り切れるかもしれないが。

そんな曇った視線を彼に送りながらふと、未だに汗を碌にかいていない事に気がついた。このアゴラの村までの走行を経てヴァンは当然の事ながらユースもさすがに息を切らせ額から頬にかけて汗が浮かんでいる。

しかしルイは特に疲弊の様子が見れずそのむっつりとした、大層ご立派な顔を崩さず見事に維持している。


ーー疲れが見えないな..なんだコイツ..

ーー三人の中じゃ一番小柄だってのに...見かけによらねぇな

本当に何か超常的な物で身体を強化してるかのようなーー


「おーい、休憩が済んだらさっさと行こーぜ」


「ほら、いくぞ...」


しばし思考にふけっているといつのまにか離れたとこにいたルイが駆け寄ってきた。


「ヘイヘイ..行きますよーっと..ん..?」

「なぁ、結局俺このままついて行っても良いのか?」


「いや、良いのかって良いに決まってんだろ。元々そう言う話だったし」


「あー、なんか助けられた上に村まで連れてきて貰って都まで世話になんのもやっぱりなーって」


「何言ってんだ。この村まで来るのにもグダグダでボロボロのヘナヘナだった奴が一人で無事に行けるのかよ?百歩譲って都に着けたとしても干からびて皮と骨だけになって年寄りかってぐらいの変わり果てた姿でだな」


「そっから、正門に足を踏み入れると同時に勢いでそのまま力尽きたりな...」


「そこまで言うか.....」


二人の連続口撃にあっさりと折られ、結局ヴァンは同行させて頂く事にした。一人の力で何もかもやる気概で村を出たのが遠い過去の様に思える。


「んじゃー行くとするかぁ!ウチのキャラバンに」


そんな彼の心情など他所にユースが軽快な声をあげた。

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