第5話 第一の出会い
汗と鼻水でぐしゃぐしゃに汚れた顔面を晒しながら地面に手をつき荒い息を繰り返す。
ヴァン・メーテルはようやく醜悪な巣穴から脱出する事が出来た。
自分が引き上げられた瞬間すぐさま伏せろと言う合図と同時になんらかの爆発物が投げ込まれ這い上がろうとしてきたワーム達を一掃した。
「いやー間一髪だったな、ほら立てるかい?お嬢さん!」
自分を引き上げた人物が多少というか、明らかに少し馬鹿にした口調で額の汗を拭いながら手を差し伸べてくる。
歳は自分とそう変わらないだろう。見た目は率直に言うと故郷含め各地の村に一人はいそうな感じで良くも悪くも目立った特徴はないが、年相応の少年らしく活気に満ちた顔立ち。日差しも相まって肌艶は輝いている様に見え、そしてどことなくお調子者の気配も漂わせる健康的な優良児と言った感じだ。
黒の頭髪を青のハチマチの様な物で縛っている。
「お嬢さんね...これはどうもー助かったよ」
「おお、何だ女みたいな悲鳴上げてた癖に良くみれば野郎かよ苦労して損したぜハハハ」
おどけた姿勢を最後まで崩さず目の前の少年は俺の上体を起こしてくれた。
「にしても、運が良かったな。俺達がたまたま通りかからなかったら今頃奴らに全身の肉と言う肉を食い荒されてたぜ」
「ゾッとする様な事言うの辞めてくれ..」
息を戻し辺りを見回すと自分が落ちたとこ以外にも周りにはランド・ワームの巣穴がぼこぼこと空いている。
こんな危険地帯など滅多に人が寄り付かないだろう。本当に運が良かったと言うべきか。
「で、お前はこんな場所で一体何してたんだ?」
その時もう一人の人物が近づいてきた。切れ長の瞳。短く生え揃った黒の短髪。
彼も自分と恐らく同じぐらいの歳だろうがそれにしては少し大人びた端正な容姿をしている....が隠しもしない無愛想と言うかどこか不機嫌な気配が台無しにしているような....。
「おいおい、ルイそんな硬い顔で睨もうとするなよ...もう少ーし、柔らかく柔らかく」
そう言ってルイと呼ばれた少年の肩に手を回し、彼がそれを煩わしそうに払い退けている。
「おおっとお、自己紹介がまだだったな、俺はユース!ユース・ガイスト!、んでこいつはルイ。」
「俺はヴァン!ヴァン・メーテル。さっきは助かったよ。二人は命の恩人だありがとう。」
互いに名乗った後はユースがよろしくな、と笑いかけてきた。
「それで、お前は一体何者でここで何してた?」
「おおーいぃ、せっかく気持ちよく名乗りあったばかりなのにお前は..」
早々に話を断ち切りルイは質問を再開させてきた。せっかちさに少しギョッとする。
少なくともヴァンが育った村はのんびり屋さんが多かったので慣れない光景だ。
「いきなり質問したってヴァンも答え難いだろうが、先ずは最低限打ち解けてからだ。近道ばかり行こうとするなって団長も言ってだろ」
先走るルイを嗜めその方がお互い話しやすいよな?とユースが同意を求めてくる。
ハハと内心苦笑してしまう。
「でも確かに気になるな。まさかこんな所に武装してまで野草を取りに来たのか?」
「いや、俺は実は都に行く途中なんだ、村から出てきたんだけどドジふんで迷って何とか開けたとこに出たと思ったらさっきの有様だ」
「なる程、そうか都に行くのか.....だったら一緒に来いよ。俺達も直ぐじゃないがあそこに行く予定なんだ。」
「おいっ、ユース!!」
「大丈夫だってぇ..見た所本当に只の旅人っぽいしな..どっち道助けちまったんだからほっとく訳にはいかねぇさ...」
「こんな場所に置き去りにしたら夢見が悪いだろ。だからワームの時も助けたんだ。それにこうした行いがいずれ自分に帰ってくるんだぜ!俺達は怪物じゃない」
「......ッおい、お前!」
「おぉ、何だ!?」
明らかに歓迎はされていない様子だ。分かってはいたが、自分的には是非ともここは同行させて頂きたい所。果たしてーー
「付いてくるのは勝手だ、、その代わり何があっても自己責任だぞ...!あと、一応だが怪しい真似もするなよ」
意外にもルイは半ば投げやり..と言うかため息をつくかの様な口調だが承諾してくれた。
ユースがよしっと手を叩いくとーー
「んじゃ、速いとこ行くか極東の言葉で旅は道連れ世は情けってな!」
「でも、何処に行くんだ。流石に都には付かないだろ?」
きっと二人はヴァンが持ってるお粗末な地図よりも断然まともな物を持っている筈だ。しかしさすがに都まで一日足らずでいける道があるとは思えない。
すると振り返りニッと笑みを向けながらユースは言ったーー
「少し行った所にアゴラの村ってのがある。そこに俺たちの一団キャラバンが停泊してるんだ」
ーーキャラバン?
「ああ、まずそこまで行くがいいか?」
ーーもちろん何だっていい。しかしそれはそれとしてこの二人こそ何者でなぜここを通りかかったのか聞き返していない事を思い出した。
正体は後に分かるだろうか、とにかく今は一刻もはやく森を抜けいい加減文明が行き届った建物をみたい。
素性が分からないのは気がかりだがそれはさっきまでの二人も自分に対して同じ気持ちだっただろう。
にもかかわらず助けてくれ尚もこうして善意の手を差し伸べてくれている。
僅かによぎった逡巡をすぐに打ち払いヴァンは頷いた
「俺をそこに連れて行ってくれ!」
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