第4話 怒涛の出来事
どれぐらい歩いただろうか...エギュハウンドの足跡だけを頼りに進んでいくと確かに大移動には適した道だ。
彼等魔物を人間に置き換えた尺度で計れる物なのかと不安だったがこのまま杞憂に終わる事を願いたい。
などと言っておいてあれだがやはり進みやすいと言っても彼等にとってのと言う話もまだ捨てきれていない。草藪は変わらず茂っているし、辺りを羽虫の様な生き物がブンブン飛んでいる。
嫌気が再熱していないと言えば嘘になるかもしれない。
だけど足場はまだマシだ。多少の
ーー魔物が進める道は人間にも行けると鼓舞しながら歩を進める、同時に眼前に出てきた一際大きな虫を掴んだ
「....ツ!!」
瞬間全身の毛がゾワっと逆立ち血の気が引いた。見た目はただの蛾だ。
しかし視線を引くのはその顔である。
幼い少女の様に愛くるしい人間の顔、それが歪さを際立て、儚くとも邪悪とも取れる笑みでヴァンを見つめている。
うぉあぁ、と奇怪な叫びを上げ振り落とし一目散に駆け出す。そのすぐ後ろを不快な羽音が追跡してくる。
ーーなんだあれ、なんだあれ、ヤバイヤバイヤバイ...
ーー逃げろ、逃げろ、逃げろ
下手したら魔物よりもヤバイ物かもしれない。とにかく不快で生理的嫌悪が沸いてくる。手足をがむしゃらに動かして必死に走る。後方を振り返ると追ってきているのが確認出来る。
ーーなんで来るんだよ、来るな、来るな、来るな、来るなぁ..
何度か行き止まりに当たりながらも滅茶苦茶に走り回っていくと
瞬間開けた景色が、広がり陽射しが顔を覆った。乱れた息を整える。どうやら森を抜けたらしい。背後のアレの気配もいつのまにか消えている。
「嫌なもんみちまった...」
突然の事すぎて理解が追いつかない。何だったのだろうか。この世界には魔物や人間、亜人の他に人の形をした精霊...『妖精』が住んでいると言われているがもしかするとアレがそうだったのだろうか?
ーー分かんねぇけど、だとするならもっとマシな森に住んでんじゃねぇのかよ..
そう言えば祖父は森林や山で何が起こるかなんて神でもなきょ予想できないとも言っていたか
「しっかし、皮肉にもアイツから逃げ回ったおかげで結果的に森を抜けた、もしかして迷った俺を誘導してくれたのかもなハハ..」
つくづくもっとマシな見た目をしておけと思う。そして出られたのは奇跡。何にせよ自分は運がいい。
「神にしか予想出来ないか...ならこの流れ文字通りあの天の上で神々が骰子振って駒たる俺を導いてくれてんじゃ...」
なんてな!と息をついて辺りを見回す。
まともな景色だ。本来の道からは逸れたが、とりあえず状況は変わった。
「ひとまず誰か見つけて都までの道を聞くか」
ーーその前に先ず俺がちゃんとした道に出ないとな
全く村を出て今までこの言葉に振り回されっぱなしだと苦笑する。
ーーまあ、もう木の檻に入らなきゃいいんだ、開けた場所だけをすすんでけば何とかって....
ーーぶわぁ...!?
ブツブツと考え足元の注意を疎かにした者の末路とは大地の落とし穴による洗礼であった。
途中の段差を踏み越えると同時に人や小型の獣などすっぽりと入れる穴へと真っ逆さま。
「あぁ、、っが..!」
背中を強打し、息が詰まる。何とか上体を起こし穴を見上げる。そこまで深くはないが..這い上がるのに時間はかかるだろう。再び大きな損失である。
「くそがぁ...何でこんなとこに穴が..」
ふと見ると側面にも無数の穴が空いている。
瞬間的に足元を見る。そこには動物、更には人骨と見られる屍が転がっていた...
....まさか
戦慄する暇もなく穴からは何かが這う様な音が聞こえてくる。腰のナイフに手を伸ばし、一粒の汗が顎を伝って地面に落ちる...
瞬間、しょうめんの穴から一匹のワームが飛び出してきた。それを反射的に一閃。真っ二つになった体が血飛沫をぶち撒ける。
その正体は『ランド・ワーム』。土中に生息し地面の至る場所に落とし穴を作りそこに誤って落ちた動物を食べる。土壌があれば必ず生息していると言われる土の海の捕食者だ。
「不味い、この穴全部から..」
的中である。ヴァンは落ちた時から既にワームの牙に包囲されている。
今やノコノコ巣穴にやってきた哀れな獲物以外の何者でもない。
直ぐに正面、背後、側面の穴から集団で飛び掛かってきた。
「うぁぁああぁああ..」
叫びを上げ無我夢中でナイフを振り迎撃する。力尽きるまで止む事のない襲撃の雨。
何とか一匹、一匹を斬り払い必死で打開策を考える
ーー数が多すぎる。いつまでも持たない
ーークソ、クソ、クソ、ここで死ぬ...
ーーふざけんな、まだ何も出来てないだろ...
一匹が腕に食らいつき根こそぎ肉を抉りとろうとする
「辞メロォ...!」
その前に壁に叩きつけて潰す。
側面からの二匹は纏めて斬る。
足を狙った奇襲は蹴り砕いて防ぐ。
直ぐに息が乱れ体力が失われていく。その隙に乗じたかの様にワームの勢いは激しくなった。
更に向こうは数が途切れる事がない。間違いなくいずれ限界が来てしまう。
ヴァンがこの狭い巣穴で咄嗟に構えたのが背中の長剣ではなくナイフだったのは奇跡だったかもしれない。そっちを抜いていたら一振りした所で壁に当たって瞬く間に蹂躙されただろう。
遂に右足の膝が斬りそこなった一匹に捕まった。同時に左の足元から一匹飛び出しそのまま足首を噛まれる。
「しまっ...!」
体勢を崩しのけぞりそうになる。
すかさず迫った牙から首元を咄嗟に腕で庇う。
「ぐうぅぅぅ....あぁ...」
倒れては行けない。倒れればもう、そこで餌と化す。
「があぁぁぁぁぁぁ!」
死ぬ気で踏ん張り纏わりついた捕食者を斬り払う。
ーーここで死ぬのか、、こんな所で終わるのか.
ーーまだ何もやっていない、なし得ていない。
「死んだら逃げ帰って笑われる事も出来ないだろうがよぉ...」
眦を開いてナイフを構える。生きるには全て斬り殺す。上等だ!限りが見えない?知るか元より選択肢なんてないんだ。
弱った獲物を一気に仕留めようとワームは既に眼前に迫ってきている唾液に塗れた牙が顔に触れようとーー
「さっさと掴め間抜け」
「...!!」
気がつけば迫ってきていたワーム達は銀の刃に串刺しにされていた。誰かが上から投げナイフを放ったのか..そして目の前に垂らされているロープ...。
「何呆けてんだ、ここで死にたいのか!?」
矢継ぎ早に放たれた叱責。ハッ..として手を伸ばす、
「引っ張り出してやるから速く動け...」
先程とは別の声、どうやら二人組の様だ。降ろされたロープを足にかけつたっていく。すぐに先程まで立っていた場所はワームで埋めつくされた。
このまま奴らに辱められるのはゴメンだ!
横穴から飛び出してくる歪な牙が何度も脚を掠める。その度に背筋を凍らせながら必死でつたっていく。
ーーやがて、下から飛び出した一匹が靴に噛み付つく...すんでの所で手を掴まれ引き上げられた。
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