不法投棄と推理イベントとキノコ狩り
ヤミヲミルメ
不法投棄と推理イベントとキノコ狩り
人気のない森に特徴のない車が止まり、若い女が下りてくる。
人の姿を最後に見たのがどれほど前かわからないほどの土地だというのに、なおも辺りを警戒しながら、女はトランクを開ける。
そこには異様なまでに整った姿形の全裸の男が、血の気もなく横たわっていた。
「ごめんね。でもしょうがないの。だってあなた……壊れちゃったから……」
トランクから引きずり出され、ゴトリと重い音を立てて男が地面に落ちる。
ズレてしまったウイッグを、女はせめてもの情けとばかりに、男の頭にかぶせ直す。
男は、等身大のフィギュアだった。
比喩ではない。
ガチでフィギュアだ。
女は粗大ゴミの不法投棄という罪を犯しにここに来た。
あらわなままのフィギュアの下半身は、主に後ろ側がひどく破損していた。
しばらくして、フト子が駐めていった車のそばに、別の車が止まった。
車から下りてきたのは、短い髪に鋭い目つきの女だった。
女は一台目の車に触れた。
「まだ温かい。近くにいるな……参加者か!」
あごに手を当ててポーズを取る。
「やはりこの道であっていたのだ! ワタシは迷子になどなってはいない!」
女がポケットから紙を取り出し、広げる。
それは謎解きイベントのパンフレットだった。
「やや! 人が通った跡があるぞ! こっちだな!」
推理イベント参加者、スイ子は茂みの中へ入っていった。
場面変わって森の中。
田舎臭い女が鼻歌交じりに歩いている。
「るんるんる〜ん♪ きっのこっ狩り♪ きっのこっ狩り♪ きの……こ……」
ピタリと足を止めたキノ子の視線の先で、スイ子が地面にひざをついている。
スイ子の視線の先には、フト子が捨てたフィギュアが転がっていた。
「きゃああああー! 人殺しーーー!」
「犯人はオマエだあああーーー!」
フト子はいったん車に戻ったあと、黒いビニール袋を抱えて再び投棄現場へと急いでいた。
「これを忘れるところだったわ。これもちゃんと捨てておかなくちゃ」
しかし投棄現場の手前でピタリと足を止める。
フト子の視線の先ではスイ子が地面にひざをつき、スイ子の視線の先では本物の死体を見つけたと思い込んだキノ子が気を失って倒れていた。
その姿は、まるで死んでいるようだった。
「殺人事件だー!」
フト子はとっさに木の陰に身を隠した。
「どどど、どうしよう! この殺人事件がバレたら、あたしの不法投棄もバレる! 隠蔽! 隠蔽しなくっちゃ! でも、どうやって……」
フト子がビニール袋を抱えたまま悶ていると、いつの間にか背後に回り込んでいたスイ子が、フト子の肩をポンとたたいた。
「キミが犯人だ!」
「殺人の罪を着せられる!?」
そのとき、キノ子が目を覚ましてモソモソと起き上がった。
「うう……ん……」
「死体が動いた!?」
フト子は思わずビニール袋を放り投げた。
袋からリモコンが飛び出し、地面に弾んでスイッチが入った。
ガガガガガ……
等身大男性型フィギュアが動き出した。
「死体が動いたあああ!」
キノ子が絶叫した。
「あ……あん……あんっ……」
フィギュアの口から、声優のものと思われる色っぽい音声が流れた。
「し……死体が……動いてます……」
フト子の消え入るような言い訳を無視して、等身大男性型フィギュアはあえぎ続けた。
ちなみにスイ子の職業は警察官で、フト子は不法投棄の現行犯で逮捕された。
取調室でフト子は語った。
「だって仕方なかったの。フィギュア、壊れちゃって。昼夜問わず、いきなりあの声を上げるのよ。大家さんが来てるときにやられて、ごまかすの大変だったの。電池は抜いてあるのに」
不法投棄と推理イベントとキノコ狩り ヤミヲミルメ @yamiwomirume
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