間話
目を覚ますと、私は暗い部屋の中にいた。真っ暗なわけでじゃないけど、仄かな緑の光が見える。周りを見ると苔が光っているのがわかった。
でも……どうしてこんなところにいるんだろう………
……思い出した。たしか私、急に操られて遺跡の中に入っていって……気を失っていたんだ。てことは、ここは遺跡の中……空気の違いをもっと深く考えて迷宮になるのかな。薄暗くて気味が悪いし。
そんなことを思っていると、すぐ側から声が聞こえてきた。
「あら、お目覚めね? シルヴィ」
目の前に一人の女性が立っていた。緑の髪とドレス、頭に花の冠を着けている女性。スタイルも抜群の美人さん。だけどおかしな点が一つ。足がなかった。人間の足ではなく、根のように生えた足。
そしてその声。遺跡に入る前に聞こえた声は彼女のものだったのだ。優しげな声だけど……なんだかゾッとする。わかってしまったのだ。アルラウネだと。
それにしても、
「…なんで私の名前を知ってるの?」
いつも思っていたことを遂に吐いた。彼女が何故自分の名前を知っているのかが気になっていた。声をかけてきた張本人なら知っている可能性がある。期待と戦慄、それらがこもった質問。彼女はこう答えた。
「それはね、あなたがあの森で死んだからよ。森の中で四六時中監視しているの。私の
視線を感じたのはそのためだったんだ。でも視線の正体が花だったなんて………まさかあのとき見た花々が監視役だったってこと? いろいろな声が聞こえていたのはそういうことなの?
「もちろん、その能力はあなたのアルラウネとしての能力よ。いろんな植物の声が聞こえるわ。あそこにあった花は皆んな眷属。それに……ここに呼んだのはあなたにアルラウネとしての使命を果たしてもらうためよ」
アルラウネとしての使命? また意図しないことをさせられるの? またマリオネットみたいに操られるの?
「……わ、私に何をするつもりなの! 勝手に操って、一体何がしたいの?!」
断じて操り人形にはなりたくない。そう伝えるべく強気で言い放ったが、彼女はさも当然かのように答えた。
「そんなの決まってるじゃない。
「ッ! それって……」
それってまさか……ルカじゃないよね?
「入ってきたのは、何か箱みたいな物を背負った少年よ。まぁ、彼の他に一匹犬が入ってきたみたいだけど」
箱みたいな……その特徴から推測するにルーカスしかいなかった。次に出てきた『犬』は風狼のことだろう。狼と言わないあたり馬鹿にしているのが丸わかりだ。
でもやっぱりルカ達が入ってきたんだ。恐らく私を探しに。あんな言い方しちゃったんだもん。探しに来てって言っているようなものだ。それが災いして彼らの身に何かあったら……吐き気がしそうだ。だって自分が殺してしまうことになるんだもん。
「そうね。あなたが彼らを手にかけることになる……ンフフッ、どんな顔をしてくれるのか…楽しみだわぁ」
ニチャァと下卑た笑みを浮かべている。コイツはとんでもなく悪趣味な奴だ。たぶん私を餌に彼らを騙して殺させるつもりだ。
何度でも言おう。私はこんな奴の操り人形になんかなりたくない! 地面から蔦でもなんでも生やしてコイツを倒そう! イメージするのは鋭く生えた木の枝。私が右手に魔力を込めて発動しようとしたそのときだった。
「抵抗しても無駄よ」
彼女の一言と同時に能力が発動しなくなった。
「え? なんで!」
さっきまではちゃんと魔力が流れていたのにピタッと止まってしまったのだ。いや、止まっているのは魔力だけじゃない。身体全体だ。そう、これは金縛りだ。
「あなたの心の声、ダダ漏れなのよねー。それに…私に対してその力で牙を剥くなんて馬鹿丸出しよ?」
ッ! しまった! 聞こえていた! 奴は眷属を自由自在に操れる。なら、心の中を読まれてもおかしくない。見落としていた……私の馬鹿……。
「まぁ、馬鹿でなによりなんだけどね。そっちの方が扱い易いし」
壁の方から蔦がニョキニョキと生えてくる。私が使うものよりも遥かに太くて強靭な蔦が。そのまま巻き付くかと思いきや今度は茎からさらに枝分かれして足に巻きついていく。
「それに……あなたが死んでも誰も何とも思わないわよ」
「……そ、それって……」
一体どういうことなんだろう。
「だってあなたは———-」
蔦が全身を覆い被さり、目の前を真っ暗に染める。だんだんと意識が闇に落ちていく途中で最後に聞こえたのは、
「———-愛されるはずもない、悪魔の子なんだから」
———————
ぶっちゃけると今回は手抜きしました。次回から本気になります!
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