第36話 深月と灯4
どういうことだ。どうして
「何言ってるんだ……? 灯のせいじゃない」
灯が首を横に振って呟く。
「……お姉ちゃんが殺された時……あの人に、わたし……どうして忘れていたんだろう……」
俺は思い違いをしていたのかもしれない。
灯は
今の灯の様子からは、別の恐怖が感じ取れる。
「……わたしが犯されたせいで、体液の交換が成ってしまった……あの男……あれが、
灯の特異能力である『開花』は、体液の交換をした相手の特異能力を開く能力だと聞いている。
二年前に、意図せず灯が礼二郎の特異能力を開いてしまっていたのか。
「どうしよう、
俺にすがってくる灯を抱きしめる。
「灯のせいじゃない」
そうだろ。灯が進んで礼二郎に襲われたわけじゃない。事故だ。
「灯がやろうとしてそうなったわけじゃないんだ」
「……でも……」
「特別な力を持っていても、使うのはそいつ自身だ。使い方に関して灯が干渉できるわけじゃないだろ?」
「……うん」
いつもは頼もしい灯の弱々しい背中をトントンとそっと叩く。
思えば、これまで年下の女の子に頼りっぱなしだったな。いい加減俺がしっかりしないといけない。
「大丈夫だ。朱ゐ黎のトップが誰かわかったんだ。収穫はあった。あとは捕まえるだけだろ?」
「…………うん」
俺の胸に顔を埋めていた灯が顔を上げる。
灯の表情には不安の色が載っていて、か弱い女の子にしか見えない。
灯が長い睫毛を
「……どうした」
「……深月って、なんだかお姉ちゃんみたい……」
「は……?」
俺、男なんだけど。
いつだったか、同じ思いをしたことがあったな。
「お姉ちゃんはね、すごくかっこよくて、すごく頼もしくて、一緒にいるとすっごく安心できたの」
灯にとって姉の存在は大きいものだったんだな。
「すごいお姉ちゃんだったんだな」
「うん……わたし、ずっとお姉ちゃんみたいになりたかった。目標だったの」
「そうか」
灯が横を向いて頭を俺の胸に預けてくる。
「……わたしは、教会の前に捨てられていた子で、
「……そうか」
「でも、大好きだった」
灯の記憶の中にいた女性を修復することが出来ていたら、どうなっていたんだろう。灯を救うことが出来たんだろうか。
いや、死んだ人間はいくら身体を修復しようと戻っては来ない。灯が求めているのは熱を持った生きた人間である姉だ。
「深月は……そういう人、いなかった……?」
「……俺は……」
そう思えた人はこれまでいなかった。
「ねぇ、深月」
「ん?」
急に身体を起こした灯の顔が近くに迫ってきて、唇に柔らかいものが触れる。身体に体重をかけられて、灯を上に乗せたまま後ろに倒れる。
「っ」
「ん……」
息が止まる。
灯の唇が俺の唇を甘噛みするように挟む。びっくりして開きっぱなしの口内にいつかのように舌が入ってくる。
「んっ……?!」
粘度のある水音が口元から鳴って、身体が熱くなってくる。
「……っは……」
俺から口を離した灯が、薄い胸を上下させながら俺を見下ろす。
「……温度がほしい……深月、わたしを温めて……」
ぱたんと俺の上に倒れた灯に、首元を抱きしめられる。
こんな時、俺はどうしたらいいんだろう。
ただ抱きしめ返せばいいのか、それとも、抱いていいんだろうか。
あの近づき難かった灯が、俺に甘えている。
俺の好きな人形のような顔が、俺に期待をしている。
だから、綺麗なウェーブがかかった髪を撫でた。
「俺でいいの……?」
「深月がいい……」
灯の白い頬に手を添えて、今度は俺から口づけをした。
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