第22話 召喚された聖女は、今日も地道に掃除中
魔王一行と共に王都へ辿り着くと、追放前とは見違えるほどに美しい都になっていた。無事に上下水道工事と洗剤ばらまき政策が功を奏したらしい。
家々の窓はきらめき、石鹸のほのかな香りを立てる洗濯物があちこちに干され、そしてなにより道がきれい!
糞尿を避けようと足元ばかり見て歩いていた人々の姿は消え、みんな真っ直ぐに自分の行きたい場所へと歩いている。その光景を馬車から見られるだけでも嬉しかった。
城に戻れば、すでに私の侍女集団が活躍したあとでピカピカに磨きあげられていた。ここも無事に奪還を果たせたのだろう。
玉座の間に足を運べば、国王陛下と王妃様が笑顔で出迎えてくれた。神官長も一段下がった場所で控えていた。
「ようこそ、魔界の王とその一行よ。心より歓迎致すぞ。
そして勇者エリック、剣士シス、魔術師アクロイド、掃除の聖女キヨコ、光の聖女プリムローズ。浄化の旅に尽力してくれたこと、心より感謝する」
「ただいま戻りました、陛下」
エリックが代表して帰還の挨拶をして、国王陛下に魔王達の紹介を始めるのを眺めながら、これで一件落着だなと私は肩の力を抜く。
後日魔王歓迎の宴と、勇者パーティーのパレードがあるとかなんとか話が続く中、私はいつカルロス第二王子とフェリクス王弟の処分について聞けるのだろうかと考える。
しかし客人である魔王一行を客室まで案内されるまで、聞くことはできなかった。
▽
「カルロスとフェリクスの裁判は終わったぞ」
と国王陛下がおっしゃったのは、そろそろ私たちも部屋で休もうという頃になってからだった。
その言葉にプリムローズがホッと息を吐いた。私は追放されたくらいであまり二人に関わらなかったけれど、彼女は手駒扱いされてたもんねぇ。
「カルロスは除籍で、三日後この城から身一つで出ていくことになっておる。フェリクスはゆくゆくは処刑じゃ。今は貴族牢でいつ殺されるかオロオロしておるじゃろう」
フェリクスには処刑日は教えてやらんのじゃ、とニヤニヤしている国王陛下、マジで敵にしたくない相手である。
「陛下、カルロスは今は部屋ですか?」
「ああ。……お前達兄弟は儂とフェリクスよりはまだマシな仲じゃったから、別れの挨拶でも告げるがいい」
「はい」
エリックは静かに頷き、私達はなんと声を掛けていいか分からないまま、玉座の間から退室した。
やはりエリックは複雑な気持ちなのだろうな。
エリックの横顔をチラチラ眺めながら、私達は廊下を歩く。すれ違う侍女や衛兵が笑顔でこっそり手を振ってくれるが、手を振り返す余裕はない。
重苦しい気分でカルロスの私室に行くとーーー彼はソファーでごく普通に求人情報を読んでいた。
「カルロス……」
「エリック兄様、帰ったのか。そういえば城内が騒がしいと思った」
エリックは悲痛そうな面持ちでカルロスを見つめた。
「カルロス、お前にはあまり兄らしいことをしてやれなかったね……。陛下からお前が除籍されると聞いたよ。個人資産も取り上げられたのだろう? どうだろう、私の持つ鉱山のひとつでもお前にやろうか? 先々不安だろう?」
結構ダメなことを言うエリックである。
ここで鉱山とかあげたらカルロスがちっとも成長しない気がするのだけど、お金持ちの思考ってすごい。
しかしカルロスは首を横に振った。
「俺は馬鹿だから鉱山の運用の仕方などわからないから、別に要らん。俺は俺を上手く使ってくれる誰かの下にいる位がちょうどいいんだ」
「だけどお前、フェリクス王弟殿下にあれだけ使い捨てされておいて……」
「確かにフェリクス叔父様には使い捨てられたが、それは俺の見る目がなかったからだろう。もっと俺の主人に相応しい人に付いていけたらと思うんだ」
「そ、そうか……。カルロスはそうかもしれないね」
「だからまぁ鉱山は要らないんだが、エリック兄様、どこか住み込みで働ける場所を知らないか? とりあえず食いつながなくてはならん」
「ああ、そうだね」
そこで白羽の矢が立ったのが魔王だった。
魔王城に住み込みで弟を働かせてやってくれないかと、エリックが魔王にお願いしている最中。カルロスは魔王を見て雷に打たれたような表情をしていた。
「俺はお前に惚れたぞ、魔王よ!」
面接の最中だと言うのに、カルロスは残念美女に告白していた。
ちなみに魔王は登城のため今回ジャージを脱いできちんとドレスを着ているので、彼女の残念さは見た目からはまったく伝わってこない。ただの絶世の美女である。
「なにを言ってるんだ、カルロス!」
エリックは弟を窘めたが、カルロスは止まらなかった。
一応気を使って黙っていたシスは吹き出し、アクロイドは驚いたように目を見開き、プリムローズは「まぁ……」と頬を染めている。
魔王は美女なのでこういう事態に慣れているらしく、平然としていた。
「カルロス、自分が何を言っているのか分かっているのか?」
「フンッ。エリック兄様には分からんだろうな、俺の女の趣味の良さが」
「いや、そうじゃなくて、これからの身の振り方についてきちんと考えるんだろう?」
「考えた。俺はこの女の美貌に惚れた! この女の下につく!」
「顔だけで選ぶんじゃない、カルロスっ」
「別に妾に尽くしたかったら、尽くしてもいいよ。まずは城の下男からだけど」
王子兄弟の言い合いに口を出したのは魔王だった。
魔王はなぜか私を指差す。
「下男になるなら、キヨコから掃除のやり方をきちんと学んどいてくれよ」
掃除が出来ないと話にならないし、と魔王は私に
カルロスはエリックを振り切って私のもとに来ると、「追放して悪かったな」とさらっと謝罪をした。
「掃除を教えてくれ。下男からゆくゆくは魔王をモノにしたい。最低でも愛人レベルになれる位の掃除を教えてくれ」
愛人になれる掃除のやり方なんて私も知らないんですけど???
助けを求めるように周囲を見回したが、諦めた表情のエリックと、一人爆笑しているシスと、どうでもよさそうなアクロイドと魔王と、照れて目元以外を両手で隠しているプリムローズしかいなかった。
▽
私はそれから神殿で暮らしつつ、エリックからの求婚を回避したり、時々シスの冒険について行って世界遺産レベルの絶景を見てきたり、アクロイドに夢の高圧洗浄機とロボット掃除機を開発してもらい、ほぼ毎日プリムローズと神官長とおやつタイムを楽しみ、カルロスにこれも修行だと言って公衆浴場の清掃をやらせたりしている。無事に成長したら魔王に届けよう。
今日は魔王から新しい洗剤が届くと聞いているのでとても楽しみだ。スターロックが神殿まで持ってきてくれるらしい。
異世界でのんびりお掃除生活も悪くないわ。
召喚された聖女は、今日も地道に掃除中 三日月さんかく @mikazukisankaku
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。