Ebilogue -Shrimp Cocktail-
「ええと……」
「うん」
「何か、言いたいことでも?」
「せめて服を」
「どうせ脱ぐんでしょう?」
「そりゃあそうですけど。なんで先にオレだけ」
「「だって」」
「そうして裸で立ってるシマくんを見ているのが面白いから」
「そうやって裸で突っ立ってるシマを見てるのが面白いから」
―――
年が明け、季節は春。某日。某、ホテルの一室。
「アマネはともかく、まさかボタンさんまで、こんな」
「さっき“何でもする”って言ってたよね」
「……オレ、ちゃんと謝ったのに」
「まだ僕も許すとは言ってないからね。ねえ? アマネさん」
私は頷き、腰を浮かせてベッドに深く座り直す。
スプリングが軋み、尻が跳ねる。
シマがたびたび迂闊なことをするのは今さら言うべきことでもない。
でも、それで迷惑をかけた人がいるというなら話は別だ。
シマは一糸纏わぬ姿で私達二人の前に立ち、恥ずかしそうに私達から目を背け、胸と腰を隠してモジモジしている。
「隠さないでよ。隠してると逆にアホっぽいよ」
「いやいやいやいや無茶いうなって」
「ほら起立。そうしないとボタンさんも許さないってさ。ですよね?」
「うん。もっとよく見せて」
「うう、勘弁してくれよ……」
―――
あれからのこと。“二人に隠し事はなし”というルールその六(どんどん増えている)に従って、私はボタンさんの存在と、シマと彼女の関係についても聞いた。
今さらそれを知ってどうこう思う関係ではない。むしろ私は、ボタンさんのことが気になった。
そこでシマに一つの案を提示した。
当然シマは嫌がったけれど、強行した。
そして何やかんやとあって、私はボタンさんと連絡を取った。
彼女は意外に乗り気だった。元よりそのつもりでもあったらしい。
――どうせなら三人で。
今日はその日だ。
―――
高身長で、黒髪の美人。
私から見ても、彼女はクラクラするくらい大人だった。
「ボタンさん、どれくらいあるんですか?」
「192cm」
「すっご」
「アマネさんは?」
「167ですけど」
「ううん。そうじゃなくて」
「あ、ええと、上から……」
大人の色気、というやつだろうか。
まだオスだった頃のシマが惹かれるのも理解は出来る、とは思う。
でも“それとこれ”とは話が別だ。
「あの、二人とも。オレ、そろそろ」
「そのまま、動かないでいて」
「ええ……」
―――
「はい、じゃこっち来て。私達の間に座って」
身体を動かしづらいボタンさんはそのまま、私はもう一度腰をずらし、一人が座れるだけのスペースを作る。シマはおそるおそる近づき、私達の間に座る。私はともかく、ボタンさんとシマの身長差ははっきりわかるほど著しい。
「さっきね、シマくんがアマネさんを“食った”時のこと、聞いたよ」
「うう」
「罪深いっていうか何ていうか」
「あれは……オレも、あの時は」
「アマネさんにとっては初めてだったのにね」
「そうだよ」
すっかり肩を小さくしたシマに、私達は二人で声を掛け合う。
シマのピアスが、私の横でどこか申し訳なさそうに小さく煌めく。
シマにとって、ボタンさんは“初めて”の相手。
私にとって、シマは“初めて”の相手。
誰かにとって初めての相手は、別の誰かと。
そうやって私達は廻っている。
ボタンさんが身体をうまく捻らせながらゆっくりと服を脱ぎはじめたので、私も合わせて脱ぐ。“古い傷”はこういう時に不便なのだと、彼女は言った。
「嬉しいでしょ」
服を脱ぎ終えたボタンさんが、シマの耳元で蠱惑的に囁く。
「嬉しくないの?」
負けじと、私ももう片方の耳元で囁く。
「……」
シマは蚊の鳴くような声で応える。
「もっとハッキリ言ったら?」
「嬉しい、です」
シマごしに、私とボタンさんは顔を見合わせ、笑う。
「もっとグイグイくるかと思ったんだけど」
「いつもこんな感じです。今日もリードしてやる、みたいな感じで来るんですけど、ヘバるのはシマのほうで。昔も今も、ずっと」
「意外と、鳴き声が可愛いでしょ?」
「それはあります。ほらシマ、いつも私に言うみたいな台詞、言ってよ」
「こんな状況で、イキれるわけないだろ……」
―――
「ボタンさん、それで」
「うん」
「今回のことは……」
「これからどうしようか、考えてるところ」
オスの時も、メスになってからも、あまり変わらなくて。
大人になろうとしてるんだかよく分からなくて。
「それにしてもシマくん、昔も今もけっこう食べてるはずのに、太らないのは羨ましいなって」
「背も伸びなかったんですけどね」
だけど、一応勇気みたいなものはあって。
「ボタンさん、細いほうが好みなんです?」
「うん。細くて小さい子が僕の好み。……“畳みかけ甲斐がある”から」
「ああ」
「今はあまり身体が動かないのが残念だけど」
「そこは私がサポートしますんで」
言ってしまえば裏表がなくて、隠し事はヘタで。
きっとそういう人だから、一緒にいられたんだろう。
「下着は?」
「後からでいいかなって」
正直に言えば、今も昔と同じ気持ちだ。
私のほうがたぶん“離れて欲しくなかった”んだろう。
もちろん、本人に言うことは絶対にないけれど。
「あの、二人とも、オレのこと、何だと思ってるの……」
もう一度、私はボタンさんと顔を視線を交わし、声を合わせる。
「「“食べ甲斐のある受け”」」
そうして、私達の連鎖は緩やかに廻っていく。
PANDALIDAE 黒周ダイスケ @xrossing
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