転生者は時操り人
闇谷 紅
賢王の子が賢王だとは限らない
「なるほど、時を巻き戻すには事前に準備をしておかんといかんのか」
陛下は僕の説明を聞いて唸ったあとでツッコんだ。
「いや、準備すれば時が戻せるとか破格だろう」
と。
「しかし、とんでもない奴を拾っちまったもんだ。こんなのだいそれと人には話せんな」
「まぁ、そうですよね」
僕も納得した。異世界転生し、転生特典がどういうものかを知って僕自身が最初に覚えたのは恐怖だった。反則過ぎるほど強力な力だが、準備を必要とするというのは場合によって大きな欠点となる。
例えば僕が武器を持った殺人鬼に襲われたとしよう。襲われる前に時を巻き戻し殺人鬼と遭遇するのを免れれば僕は助かる。だが、事前準備がなくては時を戻せないのだから、このケースだと時を巻き戻せなくて詰む。
「ぶっちゃけ不測の事態で自分が窮地に陥った場合、自分を助けることもできない能力なんですよね」
「だがな、欠点を加味しても脅威だろうよ。例えばこの国の王は年に一度、国民の前に姿を現す日がある。元は国民への人気取りとかから始まったんだがな、侵入も難しい王城からのこのこ王様がお出ましとなりゃ、国王の命を狙ってる連中にゃ千載一遇の好機だ」
そういう時に合わせて時を巻き戻す準備をしておけば、最悪国王が殺されても時を巻き戻せば済み、暗殺者とその手口も割れるから暗殺を完全に防ぐことが出来るという訳だ。
「それだけじゃねぇ。戦争に使ってみろ。敵の戦術も策謀も丸裸だ。敵と内通して裏切ってたやつがこっちに襲い掛かって来たとしても時を巻き戻しちまえばいい。二度目は騙されんし、逆にこっちから襲い掛かって裏切り者を始末するとかも出来るだろ」
陛下はそう実例を挙げ、後日、実際にそうした。
◇◆◇
「フン、父上は何故お前のような役立たずを飼っていたのだろうな」
その日、呼び出されて足を運べば、新国王が口にしたのは嫌味だった。もっとも、その点については僕はあまり気にしていない。時を巻き戻す能力のことを鑑みたなら、蔑むくらいの方が周りに僕の重要性を気づかれずに済むからだ。
先王陛下に拾われて十七年。暗殺の恐れがある時は常に時を巻き戻す準備をして備えていたが、この間に先王陛下は二十七回殺されている。全部時を巻き戻してなかったことにし、暗殺は防いだが、身体の内に抱えた病気という刺客までは僕の能力では防げなかった。自分が殺人鬼に襲われたパターンと同じだ。状況を理解した時には手遅れだった。
「他国との五度の戦いにすべて快勝し、無敗の賢王とも呼ばれる父上のお考えの中で、それだけは理解できなかった。だが、まあいい」
馘首だと新国王は言って、そこで初めて僕の口から「は」と音が漏れた。
「役立たずなだけでも耐えがたいのにお前は言ったそうだな、『他所の国に攻めこむな』と」
「ええ」
それは僕にとっては当然であり、先王陛下が戦で負けなしだった理由の一番重要な点でもある。時を巻き戻すには準備が居るのだ。自国内ならば比較的安全な場所は多い。戦場から味方の軍を挟んで内側の砦など安全かつ時を戻す準備の出来る場所がそれなりにあった。
だが、敵地に攻め込むとなると安全に準備できる場所があるかは怪しくなる。加えて敵国に攻め入るとなると、地の利も失う。
「先王陛下の必勝の型を使うには自国内で戦うのが最低条件でした」
などと言えるはずもない。僕の能力は国のトップシークレットだったのだから。そして、僕にクビだと言ったということはこの新国王は僕の能力を知らされていないということでもある。
「父上の残した不敗の軍勢と、父上の血を引いた天才の私が居れば勝利は約束されたようなもの」
などと新国王がのたまい出した時点で、僕は察した。
「あ、これもうダメな奴だ」
と。別に結果を見てから時を巻き戻した訳じゃない。それでも明らかにダメに思えて。
◇◆◇
「やっぱりそうなるか」
追放された僕はある町で新国王率いる遠征軍が隣国に攻め込んで惨敗したという報を聞いた。
「予測可能回避不能って言うか、もうお笑いの域だよな」
あの新国王も国王ではなくコメディアンでもやっておくべきだったのだと思う。
「コメディ、か」
実際にあった話を元に書かれる喜劇もあるそうだから、ひょっとしたらあの国王もそんな喜劇の題材にされる日が来るのかもしれない。
「まぁ、いずれにしても戦争なんてそう軽々しくやるもんじゃないんだよ」
どこかの兵法書にもそう書いてあった気がする。僕は一つ伸びをすると、あの日立ち去った王城の有る方角の空を仰いだのだった。
転生者は時操り人 闇谷 紅 @yamitanikou
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