【KAC20224】冷たいビールを飲みながらお笑いでも観ない?

リュウ

第1話ビールを飲みながらお笑いでもみない?

「おはよう」

 妻は、明るい笑顔だ。

 内心ホッとしていた。

 なぜって?

 それは、先月のバレンタインで、浮気がバレたから。

 アイツが、僕に内緒でカバンにチョコを入れたから。

”この前は楽しかったわ。愛してる。”

 なんて、メッセージカードなんか付けたからだ。

 妻は、その日からずーっと口を利いて貰えなかった。

 僕は、どうしょうと思っていた。

 だけど、妻は、昨日からやたら優しい。

 僕は、会社から真っすぐ帰ってきた。

 ご機嫌取りの花束を抱えて。

「ありがと」って、妻は花束を受け取って、「ご飯にする?お風呂にする?」と訊いてきた。

 それも、笑顔で。

 良かった。今日も機嫌がいいみたいだ。

 僕は、ほっと胸をなでおろした。

「ああ、それじゃ、お風呂」

「準備できてるから、入ってきたら」

と、花束を持っていった。

 僕は、そのままお風呂へ。

 脱衣所に入ると、思わず肩をすくめてしまった。

「うっ、さ、寒いいい」

「ゴメン、温めるの忘れてたわ」

 奥の部屋から、妻の声が聞こえる。

「大丈夫」

 僕は、素早く服を脱ぎ捨てお風呂にはいった。

 洗い場も寒い。寒くて縮こまった体で、足元にシャワーをかけた。

<冷た>

 思わず足に力が入ってしまう。

 震えながら、お湯が出るまでシャワーを出し続ける。

 お湯が出たら、足元からお湯をかけていき、湯舟に入った。

「あつつつ」

 今度は、お湯が熱いくて、飛び出した。

 足が既に赤くなり、お湯につかったところまで線がついている。

「熱かったぁ?熱いの好きだから、温度上げておいたの」

と、遠くから妻が声をかけた。

「いや、大丈夫。体が冷えていたかもしれない」

と、大きな声で答えた。

 湯舟につかる。

 熱い。確かに僕は、熱めのお風呂が好き。

 熱くないと入った気がしない。

 しばらく、浸かると汗が出てくるのがわかった。

<生き返るな>

 仕事のストレスも吹き飛んだ。

 風呂からリビングに向かうと、夕食の準備ができていた。

 今日は、僕の好きなものばかりだ。

 けど、好きなものは体に悪い。

 美味しいものは、糖と油で出来ているから。

 僕は、食卓の椅子に腰かける。

 すぐに、よく冷えたグラスによく冷えたビールが注がれる。

 生唾が出る。

「カンパイ」妻が、グラスを合わせる。

「ビールとこのごちそう、食べていいの?」

「食べたくないの?」

「そうじゃなくて、いつも、体に悪いからっていうじゃない」

「たまには、いいんじゃない。我慢するのも体に悪いし」

「そう」と言って、ビールに口をつける。

 キンキンに冷えたビールが喉から食道へと流れ込む。

 内臓に冷たさが染み渡る。

 食道が痛い。締め付けられるようだ。

 でも、これが快感。

「うー」思わず声が出る。

「ゆっくり、飲みなさいよ」

 妻が笑う。

 夕食を食べ終わり、テレビを見ていた。

「これ、借りてきたの、観てみない?」

 妻は、ディスクを僕に手渡した。

 それは、お笑いのディスクだった。

「色々、借りてきちゃった。

 あなたの大好きなお笑いを選んだし、

 私が好きな有名なコメディ映画もあるわ」

 と、言って僕の手からディスクを取り、プレイヤーにセットした。

 久しぶりに観るお笑い。

 仕事に追われて、全然観ていなかった。

 妻の機嫌も直ったので、思う存分楽しめる。

 僕は、画面に見入っていた。

 すると、なぜか僕の”笑いのツボにはまってしまった。

 笑いが止まらない。

「何が、おかしいの?」と、妻も僕につられて笑う。

 二人は、笑い続ける。


 でも、僕の方が笑っている。

 あれ、僕は何で笑っているんだろう?

 わからなくなってきた。

 でも、おかしい。笑いが止まらない。


「もう、止めてよ。やめてくれー」


 息が、息が出来ない。

 吸い込むことが出来ない。

 頭がクラクラする。

 僕は、椅子から転げ落ち、床で丸くなった。

 テーブルの下に何か書類がある。

 なんだろう?

 パンフレット?

 えーと、

 ”笑い死に保険”

 保険?

 僕は、相変わらず笑い続けながら、妻を見た。

 それに気付いた妻は、パンフレットを拾い上げた。

 パンフレットをペラペラと捲りながら、

「私も笑いが止まらないわ」

 と、僕を見てニヤリと笑った。

 僕は、笑いが止まらず息が出来ない。

 ああ、意識が遠のいていく……。

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【KAC20224】冷たいビールを飲みながらお笑いでも観ない? リュウ @ryu_labo

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