第260話 三つの願い

 1065年10月中旬 中部イタリア フィレンツェ ジャン=ステラ


「私は、マティルデを妻として迎え、善い時も悪い時も、健康な時も病気の時も、あなたを愛し、敬い、私の生涯のすべての日々において忠実であることを誓います」


 僕の横に、赤い絹のドレスに身を包んだマティルデお姉ちゃんが静かに立っている。

 フィレンツェ大聖堂の窓から入ってくる柔らかな光に照らされるお姉ちゃんは、まるで聖女のように神々しく輝いていた。その姿に僕は見惚れてしまい、誓いの言葉を忘れてしまいそうだった。


 今日、マティルデお姉ちゃんが僕の妻になる。11歳の僕が20歳のお姉ちゃんの夫になる。そしてトスカーナ辺境伯領を治める責任を、マティルデお姉ちゃんと二人で背負って行く。


 誓いの言葉を口にすることに重い責任を感じるが、それでもお姉ちゃんのそばにいたいという思いが、それを超えて僕の中に広がっていった。


 僕の前には、儀典用の豪華な衣装を身に纏ったイルデブラント枢機卿がいて、結婚の誓いの言葉に一句ずつ、うんうんとうなずきつつ耳を傾けている。


 アルプス山中で一騎打ちをしたのが2ヶ月前。ゴットフリート三世との争いに終止符を打った後、お姉ちゃんと僕は北イタリア最大の町であるミラノへと向かった。


 カノッサ城、あるいはトリノ辺境伯領に戻らなかったのは、トリノ辺境伯軍を率いて出陣していたアデライデお母様、そしてピエトロお兄ちゃんと合流するのに丁度よかったから。


「ジャン=ステラ、マティルデ様を奪うことができて本当に良かったわ」

「よくもまぁ、ゴットフリートに一騎打ちで勝てたな。すごいぞ、ジャン=ステラ」


 ゴットフリート3世に勝ち、嫁盗りに成功した事をお母様とお兄ちゃんに告げた後、ミラノの大聖堂で、僕はマティルデお姉ちゃんと婚約した。


 アデライデお母様とピエトロお兄ちゃんからの祝福を受ける中、僕は2か月後に結婚式を挙げたいと2人に切り出した。


「おいおい、ジャン=ステラ。一度考え直さないか。結婚するための段取りって大変なんだぞ」

「ピエトロの言う通りです。王と辺境伯との結婚式を2ヶ月で準備するなんて、無茶にもほどがありますよ」

 と二人には大反対されちゃった。


 結婚式の招待状を届け、返事を受け取るだけも半年は必要らしい。


 一応の主君であるハインリッヒ四世に使者を送るだけでも往復2ヶ月はかかる。


「海路を使える東ローマ帝国はともかく、ハンガリー王家への義理はどうするつもりなの?」

 とお母様はおかんむりだった。


 東ローマ帝国というか、この場合はアレクちゃんの実家であるコムネノス家かな。コムネノス家と僕とは同盟関係にある。その同盟主の重大事項である結婚を事前に伝えないのはだめらしい。


 去年のハンガリー戦役で知り合った王家にも報告が必要だった。そうしないと縁が切れてしまうかもしれない。


「ジャン=ステラだって覚えているでしょう? ピエトロが豪胆伯などという大層な二つ名を得られたのは、ハンガリー王家のおかげなのよ」


 まぁ、当然そうなるよね。僕だってそれは分かっている。


 前世で結婚していたお姉ちゃんだって、半年前から結婚式場を探していた。

 それを思うと、王と辺境伯との結婚を2ヶ月で準備するというのは、頭の出来を疑われても仕方ない暴挙なのだろう。


 しかし、婚約から2か月後に結婚式をしたいというのは、マティルデお姉ちゃんのお願いなのだ。


「私、二十歳のうちに結婚したいの」

 マティルデお姉ちゃんは、すこしだけ顔を赤らめながら、けれども真剣な表情でそう告げた。

 大貴族の女性としては、すでに遅すぎる結婚であることを自覚している事から出たお願いなのだろう。


 一騎打ちに負けた僕は、お姉ちゃんの願いを3つ、かなえなければならない。その一つ目の願いがこれだった。


 貴族女性の結婚は早い。幼少時に婚約をし、成人を迎える15歳と同時に結婚するのが普通である。しかも大貴族は輪をかけて早い。例えば、アデライデお姉ちゃんは12歳でシュヴァーベン大公に嫁いでいった。


 つまり貴族社会においてマティルデお姉ちゃんは、20歳にして既に行き遅れ扱いなのだ。


「行き遅れって言うなー! 平民なら23歳で結婚しても普通なのよ。どうして貴族だからといって行き遅れって言われるのよー」

 とお姉ちゃんが文句を言うけど、僕にはどうしようもない。


 それはさておき、前世で僕は女性だったから、お姉ちゃんに共感してしまう。


 馬に蹴られて死んだ時に29才だった前世の僕は、ちょっとだけ焦っていたもの。

「あぁ、あと少しで三十代かぁ」と。


 別に結婚したかったわけじゃないけれど、やっぱり二十代と三十代というのは大きな差がある。

 だから、十代から二十代になってしまったマティルデお姉ちゃんが、焦っているのは理解できる。


 そんな共感もあり、アデライデお母様達の反対を押し切ってでも、2ヶ月間で無理やり結婚式の準備を整えることにした。そもそもの話、一騎打ちでお姉ちゃんに負けちゃった僕に拒否権は無いしね。


 それに、僕たちの結婚のことを願いにしてくれるお姉ちゃんのことが嬉しかったのもある。


 ーーマティルデお姉ちゃんの、ちょっと可愛いところを見~つけた。


 実はね、「世界の全てを支配しなさいっ!」みたいな無茶ぶりをしてくるんじゃないかと、ちょっと不安だったんだよね。


 とはいえ、早期の結婚をお母様とお兄ちゃんに納得してもらうための代償は必要だった。


 それが、マティルデお姉ちゃんの2つめの願いでもあったのは、良かったのか悪かったのか。


「アデライデ様、私から一つ提案がございます。2か月後の結婚式と引き換えに、ジャン=ステラをイタリア王にするというのはいかがでしょう」

 マティルデお姉ちゃんがお母様に提示した交換条件は、僕をイタリア王に擁立するというものだった。


 ちょっと待って、お姉ちゃん!

 全世界の支配者っていうのは僕の冗談だったんだよ。

 それよりはましだけど、イタリア王でも十分無茶だよ!どうしてそうなるの?


 ひとつ目のお願いで、お姉ちゃんに少し惚れ直したばかりなのに、すぐくつがえされちゃった。


 それに、現イタリア王ってハインリッヒ4世だよ。君主から王位を簒奪さんだつしろって言うの?


 驚きで声を出すのも忘れていた僕が異を唱えるよりも早く、うふふと意味深に笑うお母様によって即決されてしまった。


「そうねぇ……。確かに、悪くない提案だわ。イタリア王はイタリア人の手にあるべきですもの。このタイミングで状況を変えるのも悪くありませんわね、マティルデ様」


「ジャン=ステラがイタリア王になったあかつきには、トリノのあるピエモンテ地方の貴族達との仲立ちをお願いしたいと思っています」

「ええ、可愛い息子のためですもの。誰にも異を唱えさせませんわ」


 うふふ、おほほ、と顔を見つめながら笑いあう二人。

 これなら結婚した後に、嫁姑戦争が勃発することはなさそうで、めでたしめでたし……。なわけあるかー!


 正直、泣きたくなるほど二人が怖い。


 それに、そもそも僕の意思と無関係に話を進めていくのはひどくない?

 僕、いじけちゃってもいいかな、ちょっとだけ。


 それにしても、どうしてイタリア王の話が急に出てきたのだろう。


「お母様、お姉ちゃん。どうしてイタリア王なの?」


 イタリア王だけなんて、中途半端だよね。

 どうせ皇帝ハインリッヒ4世と対立するのなら、ドイツ王位を奪って皇帝を目指せと言われた方がしっくりする。


「あらいやだわ、ジャン=ステラ。トリノとトスカーナの因縁を知らないの?」


 今から60年程前、ハインリッヒ2世とアルドゥイーノがイタリア王位を巡って戦争を繰り返していた。


 ハインリッヒ2世はドイツ人。


 そして、アルドゥイーノはイタリア人、それも北イタリアの人だった。その地縁もあり、当時のトリノ辺境伯・オルデリコ2世は、同じイタリア人であるアルドゥイーノの味方をした。


「地縁だけではないわ。イタリア王アルドゥイーノ様は、ジャン=ステラのお爺様であるオルデリコ2世のいとこなのよ」

 とお母様は血縁関係について教えてくれた。


 ーー祖父のいとこって、随分と薄い関係だよね。

 そう思わない事もないのだが、貴族にとってこれは十分近い血縁関係なのだそうな。

 どうやら、親戚縁者の感覚が僕とだいぶん違うみたい。


 一方、ドイツ人であるハインリッヒ2世の味方をしたのが、マティルデお姉ちゃんの祖父であるテダルド・ディ・カノッサを中心とする中部イタリアの諸侯だった。


 このイタリア王をめぐる戦争の勝者はハインリッヒ2世であり、現在のハインリッヒ四世までドイツ人がイタリア王を兼ねるという慣習が続いてきた。


 そのような事情により、北イタリアの諸侯と、中部イタリアの諸侯との間には今も冷たい空気が流れ続けている。


「マティルデ様の提案は、ジャン=ステラがイタリア王になる事で、過去の因縁を一掃したいという申し出でもあるのよ」


 アデライデお母様の説明に、マティルデお姉ちゃんが大きくうなずき、説明を補足した。


「これで、イタリア内での争いも減るわね。そうすれば、トリノもトスカーナも繁栄すること間違いなしよ。ジャン=ステラもいい案だと思わない?」


 うーん。イタリア内の紛争は減っても、ハインリッヒ四世率いるドイツ諸侯が攻めてくるという外患の脅威は増えると思うんだけどなぁ。


「それは、ジャン=ステラに任せるわ。だってあなた、外交が得意でしょう?


 いつのまにか、ギリシアのコムネノス家と同盟を結んでいたし、ハンガリー王国もジャン=ステラに一目置いていますよね」


「アデライデ様の言う通りよ、ジャン=ステラ。それに、私のお願いを聞いてくれると約束したじゃない」


 あぁ、何だか涙がこぼれ落ちそうだよ、僕。でも、泣いても何も変わらないし……。


 そうだ! そんな難癖ばかりつけられていたら、僕だって二人にキレちゃうんだからねっ。


「お姉ちゃんのお願いは聞いただけ~。願いをかなえるとは一言も言っていないよ~だぁ」


 アデライデお母様とマティルデお姉ちゃんを前に、そんな啖呵たんかを切れたら心がすぅっと軽くなるのになぁ。


 現実の僕は、アデライデお母様とマティルデお姉ちゃんに頭があがらない11歳の男の子。


 肩を落としつつも、せめて少しでも条件を緩めようと二人にお願いした。


「せめて今すぐではなく、ハインリッヒ四世がイタリア王を退位した後にして欲しいです」


 今すぐ僕がイタリア王を名乗ったら、ドイツ諸侯とイタリア諸侯が対決する戦争になりかねない。せっかくドイツでハインリッヒ四世が孤立し、内乱が起きかけているんだもの。わざわざ敵に塩を送るようなことはしたくない。


「確かにジャン=ステラの懸念も理解できるわね」

 お母様が思案顔で、僕の提案に理解を示してくれた。


 それを見ていたマティルデお姉ちゃんが、しぶしぶと言った感じだけど、同意してくれた。


「うーん……。分かったわ、仕方ない。10年なら待ってあげる」


 えっ? 10年も待ってくれるんだ。良くて数年だと思っていたから、いい意味で驚いた。


 僕の驚きを感じ取ったマティルデお姉ちゃんは、ちょっとねたように10年の言い訳を始めた。


「なによ、ジャン=ステラ。そんなに驚かなくたっていいじゃない。たった10年でイタリア王になるのは難しいかもしれないわ。でも、ジャン=ステラならイタリア王になれるって信じているんだからね」


 そっかぁ。いくら豪快なマティルデお姉ちゃんでも、10年でイタリア王になれるかどうかは微妙だって思ってたんだ。


 でもね、10年もの準備期間があれば、既に開発した軍事技術を普及させるだけでドイツに勝てると思う。


 火薬の開発は終えているし、海上兵器だったギリシアの火の、陸上兵器への転用も進んでいる。


 騎馬突撃に強いランスレストも実用性が実戦で確かめられた。


 滝を使って圧縮空気を作り出せたから、鉄が量産できるようになった。

 鉄があれば兵士の武具が充実し、強い軍隊が出来上がる。


 それに10年あれば、人口を養うための農業にも革命的な変化を起こせる。


 今後、エイリークが新大陸からジャガイモとコーンを持ち帰ってくれば、イタリアの人口が増えることに間違いない。


 外交も順調だし、商業だって文句なし。


 うん、イタリアがドイツに負ける要素って見当たらない。


 これなら、マティルデお姉ちゃんの2番目のお願い「10年以内にイタリア王になる」もクリアできそう。


 二つ目の願いをかなえる見通しがついて、僕はほっと息をついた。


 これで、マティルデお姉ちゃんの願いも残るところあと一つ。


 最後のお願い……。どうか無理難題でありませんように。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 最後のお願いをマティルデお姉ちゃんが口にする事がないまま2ヶ月が過ぎ、僕たちの結婚式も先ほど、無事に終わった。


 結婚式の後は、貴族たちを招いての披露宴が行われる。


 僕をマティルデお姉ちゃんのお婿さんとして、トスカーナの貴族に紹介するのが、目的の一つ。

 政治的な思惑がからむ宴会は、気を使うばかりで、めんどくさいから大嫌い。


「ジャン=ステラ、顔が笑ってないわよ」

「あ、はい」


 マティルデお姉ちゃんに指摘されるのも、これで何度目だろう。


 にこにこしていないと、「ジャン=ステラ様は俺のことを邪険に扱った」とか「我が男爵家はジャン=ステラ様に嫌われているのだろうか」なんて勘違いされちゃう。


「あなたの笑顔に、トスカーナ領内の安定がかかっているのよ。ジャン=ステラは本当にわかっているのかしら」


 マティルデお姉ちゃんには、事前に笑顔の重要性を教え込まれた。

 僕の表情ひとつで家臣たちの忠誠心が上下する、と。


 あーぁ、貴族になんてなるものじゃないなぁ、と我が身の境遇を呪いたくなってしまう。


 横にマティルデお姉ちゃんがいなかったら、とっくの昔に宴会場を逃げ出していただろう。


 ーーうん、お姉ちゃんのためにも頑張らなくっちゃ。


 とはいえ、既に百人以上ものトスカーナ貴族から挨拶を受けている。


 朝から結婚式の準備もあったしで、疲れもあって、まぶたが重くて仕方ない。


 ーーあぁ、ここにコーヒーがあればなぁ。


 コーヒーを飲めば、睡魔を退治できるのに。


 ないものねだりをしても仕方ないので、太ももを強くつねって眠気を追い払う。

 なんとか、追い払う。


 きっと明日は、ふとももが内出血しているだろう。


 その苦行もあと少しで終わる。もう少し、頑張れ!


 自分を励ましつつ、なんとか家臣たちへのお披露目を終えた。


 ふひぃ、なんとか耐えた。

 もし寝床が目の前にあったら、横になって1秒で眠れるんじゃないかな、僕。


 しかし、お披露目が終えたあともまだまだ重要な儀式が残っている。それもとっても重要なやつが。


 それは、マティルデお姉ちゃんがカナリア諸島女王に就任するための儀式。


「全能の神の御名において、我らはこの神聖なる儀式を執りおこなわん」


 枢機卿のイルデブラントが、マティルデお姉ちゃんのカナリア諸島女王就任を告げるのを、僕はニコニコ笑顔で見守った。


 なんだか、最後の方は記憶が曖昧だったけど、大歓声の中、マティルデお姉ちゃんの手をとって宴会場を後にした。


 外はもう太陽が沈みかけており、夕日が空を赤く染めていた。


 終えた、終わった、頑張った!

 十一歳というまだ小学生の体で、朝から夕方まで働いた。


 偉いでしょ。偉いよね、僕。自分を最上級の言葉で褒めてあげたい。


 僕はもう体力の限界が近い。それに、きっと、お姉ちゃんも疲れていると思う。


 お互いの部屋に戻って、今日は早めに寝てしまおう。


 僕はそう思い、

「マティルデお姉ちゃん、また明日。おやすみなさーい」

 と就寝の挨拶をしようとしたら、出鼻をくじかれた。


 実は、まだ儀式は残っていた。それもとびっきり大事なのが。


 トリノから連れてきていた侍女が歩み寄ってきて、僕にそっと告げた。


「マティルデ様との初夜を確認する役目を務めさせていただきます」


「初夜?」


 ああっ、そうだった! 

 結婚したら、一緒のベッドで寝るのは当たり前。そして、他言できない二人っきりの運動会を開催することになる。


「ジャン=ステラ、まさか忘れていたとは言わないわよね」

 お姉ちゃんが僕を探るような目線でじっと見てきた。


「あは、あはは」

 とりあえず笑って誤魔化しておいた。


「まぁ、いいわ。では私の部屋、いえ違うわね。私たちの部屋に行きましょう」


 結婚式までは客室を使っていた僕だったけど、今夜からは領主の部屋がお姉ちゃんと僕の部屋になる。


「ジャン=ステラ、では始めましょうか」


 侍女に服を脱がしてもらったマティルデお姉ちゃんが、妖艶ようえんに微笑みかけてくる。

 それは嬉しいし、僕もその気になってきた。でも……。


「お姉ちゃん、ちょっと待って。まだ侍女が部屋にいるよ」


 僕たちの身の回りを世話してくれる侍女たちも、寝る時には部屋から出て行くことになっている。それなのに、今日に限ってなかなか出ていこうとしないのだ。


「あら、ジャン=ステラ。聞いていなかったの。彼女らは見届け人だもの。部屋にいなくてどうやって確認するというのかしら」


 たしかに侍女の一人が「初夜を確認する」って口にしていた。確認ってそんなことまでするの?!


 僕の驚きに含まれた疑問を察した侍女が、一礼の後、口を開いた。


「はい、マティルデ様のおっしゃる通りです。ジャン=ステラ様が子作りできることを確認し、マティルデ様の純潔を確認いたします。それをアデライデ様に報告するよう申しつかっております」


 愕然がくぜんとした。絶句した。初夜を見られるだけでなく、親に報告されるとは。

 これなんて羞恥プレイ? いや、親族どころか家臣筋にまで知らされる周知プレイか……。


「キリスト教は純潔を重んじるもの。それに、生まれた子供が不義の子ではないと確かめるのは当然でしょ。


 そもそもジャン=ステラは、まだ11歳なんだもの。男になっている事を確認されるのも仕方ないわ」


 お姉ちゃんが不思議そうに、しかし直球ストレートで問いかけてくる。


 そんなこと言われても……。だって、恥ずかしいものは恥ずかしいんだもの。


「えー、でも……。お姉ちゃんは恥ずかしくないの? その、僕との事を話されちゃっても……」


 往生際悪く、ごにょごにょ言っていたら、お姉ちゃんの正論パンチが炸裂さくれつした。


「そんなことを言われても、妊娠して子供ができるってことは、子作りをしたってことでしょう。

 それを広められる事のどこに恥ずかしい事があるのかしら」


 マティルデお姉ちゃんの顔が、「ジャン=ステラったら、本当に聞き分けのない子ねぇ」と駄々っ子を見るような顔に変化していた。


「たしかにお姉ちゃんの言う通りだね。うん、僕、全力で頑張る!」


 僕は諦めて、自己暗示をかけることにした。


 恥ずかしくない、恥ずかしくない。だってキリスト教の教えに「産めよ増やせよ地に満ちよ」ってあるもの。


「そうよ、ジャン=ステラには頑張ってもらわないとね。


 私には姉と兄がいたのをジャン=ステラは知っている?」


 急に変わった話題に戸惑いつつも、僕はお姉ちゃんの家族構成を思い出す。


「うん、ベアトリーチェお姉さんと、フェデリーコお兄さんだよね」


 マティルデお姉ちゃんの姉ベアトリーチェは幼少時に、フェデリーコも成人後まもなく亡くなっている。


「そう、人ってね、すぐ死んじゃうのよ。だから、ジャン=ステラには兄弟が五人もいることが、ずっとうらやましかったの」


 僕にはアデライデ、ベルタの姉二人、ピエトロ、アメーデオ、オッドーネという三人の兄がいて、幸いみんな元気に生きている。


「だから、三つ目のお願いを今、あなたに伝えるわ」


 真面目な顔になったお姉ちゃんに合わせ、僕は背筋を伸ばして耳を傾けた。


「ジャン=ステラとの子供が10人は欲しいわ。頑張ってね、あなた」


 ーーーー

 あとがき

 ーーーー


 ジャン=ステラちゃんのお話はこれで完結です。

 ここまでお読みいただいた皆さんに、最上級の感謝をお伝えいたします。


 読了ありがとうございました(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾


 もし、この作品が面白いと思っていただけましたら、


「( ゚∀゚)o彡°」


 とだけコメントいただければ嬉しいです。



 完結後は、

 マティルデ視点のプロローグ、

 そして、第二部:大きくなったジャン=ステラくんのお話が続きます。


「もう、子供なんて言わせないんだから」 by ジャン=ステラくん


 第二部の最初は二人に子供ができた所から始まります。


 その場には、ギリシアから留学しているアレクシオスくんもいます。

「ねえ、その子が僕のお嫁さん?」


 しかしながら、第二部の終わり方がまだ決まっていません。


 東欧の歴史、スペインの歴史、北アフリカや中東の歴史、新大陸の歴史。

 西欧が舞台であった第一部から、第二部は世界へと舞台が広がります。


 そのため、調べ物がいっぱい必要になります。


 気長にお待ちいただければ幸いです。


 最後にもう一度みなさまに感謝を。


 これまで応援いただき誠にありがとうございました。


 宇佐美ナナ 拝

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